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英雄にされた俺と、隣国の妖精姫の事情  作者: 穂高奈央


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72. 【番外編】執事のセドリックとメイドのコニーの事情 21/25

 フォルセインとの会談を終えて、10日ほど経った頃。

 強い太陽光で白く光る青空の下、セドリックは、王都からそう遠くはない、のどかな風景が広がる村にいた。


 セドリックは、あれから引き続きルネの作品を探していた。 

 ルネが、絵を描くことを続けるのだとしても、「ルネ」の名義で描くはずがない。そんなことをすれば、所在がばれてしまう。だから、探していたのは、すでに購入した者が手放すルネの過去作品。

 それと、ルネが名義を変えて描いていると思われる、新進の画家の作品だ。

 ただこれに関しては、見つかることを怖れてもう描くのをやめていたり、余裕がなく描けていなかったりして、作品そのものがこの世にない可能性もある。新作については、駄目元くらいの気持ちだった。


 投資先探し、という意味ではあるが、これはマイヤー家の得意分野だ。セドリックは父に頭を下げ、使える伝手、ネットワークをすべて使って、クライン国内にとどまらず、国外にまで捜索の網を広げた。

 すると、一週間後には候補となる作品が1枚、あがってきた。

 それは既存作品ではなく、新作だった。

 見つかるのが、怖ろしく早かった。


 今までまともに会話すら交わしてこなかったセドリック(次男)の初めての要望を、マイヤー伯爵()は全力でもって叶えようとしたらしい。

 それらしい絵が見つかった、と報告に来たマイヤー家専属の鑑定士は、最初に見た時よりも、げっそりとやつれていた。


 その鑑定士を連れて、セドリックはこの村にある、目的の家にたどり着いていた。

「ここで間違いないか?」

 セドリックは少し後ろで控える初老の鑑定人、オーガスタスに確認を取った。

「はい。ここです」

 オーガスタスはうなずいた。


 (くだん)の絵を描いたとされる画家の住所。

 林に差しかかる、人気(ひとけ)のない村のはずれに建ったその小屋は、ひっそりとして、静かだ。

 もしここが本当にナインとルネの今の住まいなのだとしたら、驚くほど王都から離れていない。

 それは、下手に動いて捜索の網に自ら引っかかることを防ぐためか、それとも、ナインの「怪我」が移動を難しくしているためか。


 当たり前だが、先触れなどしていない。

 訪ねたところで不在の可能性はあったが、「居留守」かどうかの判別くらいはつけられる。

 セドリックはゆっくりと4回、ドアをノックした。


「はい」

 ほどなくして戸口から顔を出したのは、柔和な雰囲気を持った、穏やかそうな青年だった。童顔ではあるが、セドリックとおそらくそう歳は変わらない。

 髪色は違うし、人相を変えている可能性もあるが、フォルセインから聞いていたナインの特徴と、まあだいたい合致する。

(当たりか?)


 セドリックは軍でも邸でも見せたことのない、人当たりのいい営業用笑顔を作った。

 ななめ後ろで控えるオーガスタンが若干引いているが、身内がそういう反応をするのはやめてほしい。

 これから、大事な「商談」なのだ。


「はじめまして。私はシグルド・マイヤーと申します」

「!」

 セドリックの名乗りに、表情は何とか変わらずにいたが、一瞬だけ青年の肩がぴくりと動いたのを、セドリックは見逃さなかった。


「何の・・・ご用でしょうか」

 動揺を見せたのは一瞬。青年はすぐに笑顔になり、落ち着きを取り戻した。

 落ち着きすぎている。

(当たりだな)

 セドリックは商業用の一段高いトーンで、気持ちゆっくりと話し出した。


「こちらが、レナ・エペー様のお住まいでお間違いないでしょうか。実は、エペー様の描かれた作品を拝見し、大変素晴らしいものだと感銘を受けました。市場にあった1点をマイヤー家にて購入させていただきました。もし他に作品をお持ちなのでしたらぜひ拝見したいと、本日は鑑定士も連れてこちらに参りました次第です。よろしければですが、今後の活動支援についてもお話をさせていただきたいと考えております。お時間をいただくことは、可能でしょうか」


 セドリックの流れるような営業トークに、青年は、驚くことも、迷うこともなく、にこりと笑った。

「この暑い中、ご足労ありがとうございます。どうぞ、中へ」

(まあ、そう言うしかないだろうな)


 彼がナインであることはほぼ確定。その彼が、支援など必要ないと追い返すことも、整った身なりの男二人を戸口で長々と立ち話させることも、できないことをわかってセドリックは仕掛けた。

 この辺りは人通りが少ない。だがないわけではない。入居したばかりの転入者(よそ者)が、こんな田舎で目立つことをするリスクを、望むはずがない。


 もし追手であれば、こんなもってまわったやり方はしない。襲撃されて、消されて終わりだ。

 それをナインはわかっている。

 セドリックとオーガスタンは、家の中に通された。


 独特の香りが、家の中を満たしている。おそらくは、画材。

「少々こちらでお待ち・・・」

 セドリックとオーガスタンをテーブルのところまで導いて、青年が言いかけたところに、

「お客様?」

 細い女性の声が、奥の部屋から聞こえた。


「レナ。そこにいて」

 柔らかいが、どこか有無を言わせない青年の口調に、何かを察したのか、女性は声を発することも、物音を立てることすらしなくなった。


 茶を淹れに行こうとする青年に、「長居して創作活動の妨げになることを避けたい」と断って、席についてもらう。ないとは思うが、茶に何か仕込まれるのも避けたかった。

「ここに、完成した作品はあるのでしょうか」

 即本題に入った。セドリックは、自分から青年の名を聞かなかった。ナインと名乗るわけがないし、他の名前を聞いてもそれが合っているかどうかなんてわからない。

 そもそもナインは「9番」。コードネームだ。


「はい。1点だけですが、あります。ただ申し訳ありません。これは非売品なのです」

 青年は目を伏せた。

「それでもかまいません。見せていただけますかな?」

 にっこりと人のいい笑みで言ったのは、オーガスタンだった。


「その場所にご案内いただいても、お持ちいただいてもかまいません」

 続いたその言葉に、青年は苦笑して右腕を少しだけ上げた。

「今私は腕を痛めていて、絵を持ち上げることがかないません。・・・なので、絵のある奥の部屋にご案内します」


 奥の部屋にはレナ・エペーがいる。オーガスタンは、ナインの危険人物判定からはずされたようだ。

 間違ってはいない。オーガスタンは戦闘能力のない純然たる鑑定士だ。

「マイヤー様は」

 こちらを向いた青年に、セドリックは軽く首を横に振った。


「いえ、私はここで。あなたはエペー様のマネージャー、ということで私の認識は間違いないでしょうか」

「・・・はい」

「でしたら、(オーガスタン)の案内後、こちらに戻ってきていただけませんか。エペー様の活動支援についてのお話を、させていただきたいのです」

 青年のセドリックを見る目が、わずかに細められた。


「・・・わかりました。では」

 青年は、オーガスタンを呼ぼうとして、言葉を切った。互いに名乗っていないことに、気付いたのだろう。

 少しぴりついた空気をものともせずに、オーガスタンは緩やかな笑みで礼をとる。

「私はオーガスタン・ヨークと申します。マイヤー家専属の鑑定士をしております」

「ではヨーク様、こちらへ」

 青年はオーガスタンを伴って、奥の部屋に消えた。


(腕か)

 ナインの「怪我」は、足ではなく腕だったようだ。ならば、移動もさほど難しくはなかっただろう。

 こんな王都に近い村にとどまる理由は。

 考えているところに、ナインはすぐに戻って来た。小さな家だ。当然だった。


 青年がセドリックの向かいの椅子に座るなり、セドリックは直球で、ささやくように切り出した。

「ナインは死んだ。もうこの世に存在しない」

「あなたは誰だ」

 セドリックももう取り繕ってはいなかったが、ナインの声も低いものになっていた。

 奥の部屋に聞こえないように、との配慮もあるだろう。


「セドリック・マイヤー」

「!」

 ナインはもう、表情を作るのもやめていた。

「軍の人間が、何の用だ」

 その指摘は正しい。

 ナインはフォルセイン直属の諜報だ。本来なら軍は関係ない。


 やはり、入り口でシグルドを名乗ってよかった。

 ナインは第二王子直属の諜報だった男だ。その知識、情報量は幅広い。軍の、小隊とはいえ副隊長をしていたセドリックの名を知っている可能性があったから、警戒されないように兄の名を借りた。

 もし「セドリック」と最初に名乗っていたら、この家に入れていなかったかもしれない。


「戦後、軍を辞めている。軍はもう関係ない。ここに来たのは個人的用事だ。マイヤー家の家業を知っているか」

「・・・もちろん」

 ナインはぎこちなくうなずいた。

 中の上の伯爵家(マイヤー家)の家業まで精通しているのか。さすが王家直属諜報。


 驚きは顔に出さず、セドリックは淡々と続ける。

「活動支援については本当の話だ。オーガスタンは間違いなくうちの鑑定士。画家(レナ・エペー)に害を為すようなことはないと約束する。彼女に聞かれたくないなら、場所を移して話がしたい」


 すると、ナインは瞳を和らげて、首を横に振った。互いに、敵意には敏感だ。

 それがないと判断できれば、警戒も解ける。

「いや、レナには全部話してある。もしもの時は、一人で逃げてもらわなければならないからね」

 口調も、柔らかいものに変わった。


 奥の部屋からレナとオーガスタンの笑い声が聞こえた。オーガスタンの専門知識は本物で、何より物腰が柔らかい。うまくレナの緊張をほぐしたようだ。おそらく、空気を読んで、当分あそこにとどまってくれるつもりだろう。


「いくつか話すことがある」

 奥の部屋の方を向いていた顔を戻して言ったセドリックに、

「聞こう」

 ナインはうなずいた。

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