表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄にされた俺と、隣国の妖精姫の事情  作者: 穂高奈央


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/76

69. 【番外編】執事のセドリックとメイドのコニーの事情 18/25


お読みいただきありがとうございます!


話数が1話増えました・・・

番外編 コニー&セドリック編、25話になります

これで(たぶん)確定です

 セドリックが玄関ホールの脇を移動していたら、花瓶に野花を生けているエルシェリアが見えた。特に用もないので、遠目に通り過ぎる。

 降嫁してきてもうすぐ3か月。少し前までは邸内を1人で歩き回ることも遠慮がちだったが、最近は、コニーがメイド業務をしている時は、1人で何かをしていることも多くなった。


 『カーターと恋人説』はないな、とセドリックは見ている。エルシェリアは、明らかにラルフを意識している。ドグルを持っていたのは、おそらく「持たされた」、が正解だ。クラインでは規制薬物であるドグルの発祥は、ウィデル。ウィデル王家が外貨獲得のために闇で生産しているという噂まであるくらいだから、そういうことなのだろうと推測している。


 エルシェリアが本当にエルシェリア(王女)かどうかは、正直疑わしい。だが王女の身代わりとして送られた暗殺者、というには隙が多すぎる。カーターの方がどちらかというと警戒対象だ。テスもカーターに対しては、まだ警戒を解いていない。ただ、カーターは身のこなし的に「その手(暗部)」の者ではない。戦闘能力も、ラルフの方が上。警戒ははずさないが、さほどの心配もしていない。


 ラルフは自覚していないが、エルシェリアを「そういう」対象に見始めている。

 エルシェリアが暗殺者ではないにしろ、もし身代わりだった場合、国際問題はもとより、フォルセインとの取引(色無し姫の救出)が果たされていないことになる。

 その時はーーー。


「セドリック」

 エルシェリアに呼び止められて、セドリックは思考を止めた。振り返ると、エルシェリアがこちらに駆け寄ってくるのが見えた。

「どうしました」


 エルシェリアからセドリックを呼び止めるのは珍しい。何か不便や要望があっても、それを相談するとしたら、コニーにだ。

 セドリックに近づくと、エルシェリアはウィデルの感謝を表すらしい礼をとった。

「とても立派な刺繍セットを、ありがとうございました。あんなにたくさんの色の刺繡糸、私初めて見ました」


「あれは、コニーが」

「はい、それはそうですが。セドリックから『最高のものを用意するように』と指示を受けた、と、コニーから聞いています」

 そう言って、エルシェリアは嬉しそうに微笑んだ。

 何かニュアンスが違うんだが、とは、その笑顔に向かっては言えなかった。


 それはつい最近の話だった。コニーが、『姫様は刺繍糸をご所望のようです』と言った。

 セドリックは女性の嗜みなどわからないし、ましてやウィデルの伝統工芸である、刺繍糸そのものを編み込んでいく手法があることすら知らない。相場もわからないので、「これでコニーの考えうる一番いいやつを」と、足りないことはないだろう金額をコニーに渡した。言ってみれば、雑な対応だった。


「予算はもともとラルフから預かっているものです。礼を言うなら、ラルフに」

 これで自分が感謝の対象になってしまっては、さすがにラルフが報われない。

 エルシェリアは小さくうなずいた。


「買っていただいたもので、何か作って贈ろうと思っています。ただ、セドリックには日頃から過分なくらいにいろいろしていただいているので、私から、セドリックに内緒のお礼がしたいと思って」

「内緒の礼?」

 セドリックは片眉を上げた。


 言葉ではもうもらった。この上さらに物品、ということだろうか。

 正直、礼など必要ない。

 仕事でやっているだけだし、エルシェリアと個人的に絡みを持つことで、ラルフに誤解を持たせることも望まない。


 エルシェリアはきょろ、と辺りを見回した。誰の目を気にしている。ラルフか。

 セドリックは少し引け腰になった。何をするつもりだ。

「・・・は、ルネが好きなんです」


 ささやくように言ったエルシェリアの声を、動揺したせいで少し聞き逃した。誰が、何だって?

 エルシェリアの様子を見る限り、どうやら警戒するようなものでもなさそうだ。


 セドリックは首をかしげて、聞こえやすいように少し前屈みになった。

 エルシェリアはセドリックの想定以上に近づいてきて、耳元でもう一度ささやいた。


「コニーは、ルネが好きみたいです。でも今、作品がとても手に入りづらいらしくて。セドリックはそういう伝手を持っていそうだから、探してみるのはどうでしょうか、と思ってご提案です。個人の嗜好を他人に教えることになりますが、隠しているわけでもないようでしたので、これでもし作品が見つかれば、きっとコニー、喜んでくれるんじゃないか、と思ったんです。セドリックになら、有効活用してもらえる情報かと」


 セドリックは思わず一歩下がって距離を取った。

 なぜ、それを。

『応援してます』

 と、声には出さずに唇だけを動かして、固まるセドリックの横を、エルシェリアは微笑んで通り過ぎた。


 礼は物品ではなく情報で、ということか。

 なぜばれた。『意思確認』のことは、絶対に知られていないはずだ。

 エルシェリアに対する認識を、改めなければならない、かもしれない。


 ただそれはそれとして。

(ルネ?)

 セドリックは、ありがたく『礼』を有効活用させてもらうことにした。


 気配を消したラルフとコニーに見られていたことに、セドリックは気付かなかった。

 

***


 調べれば調べるほど、不可解な点は多かった。

 ルネは画家。性別不明、国籍不明、年齢不詳。

 人気作家の本の挿絵を担当したことにより、そこそこの知名度は得ているが、有名というほどではなく、むしろ画家としては無名と言っていい。

 その素性は巧妙に意図的に、情報を伏せられている。

 名を売りたいはずの画家が、流す情報を最小限にとどめる必要がある原因は、だいたい2つ。


 1つは画家が女性である可能性。国により多少の差はあれ、女性の地位は、それでも低い。

 クラインでも官に女性登用は少ないし、ましてや芸術家となると、女性を金銭的に支援しようとする者はなかなかいない。

 今は第二王子妃になったが、働くなどご法度の元侯爵令嬢(高位貴族)でありながら、女性騎士になり勤めたロザリンドは、働く女性の希望の星だ。だがそれも、フォルセインという権力強めの理解者があってこそ。


 コニーの場合は、珍しいパターンだと言える。

 もともと高いポテンシャルに加えて、生まれたその環境もあり、それぞれの分野のスペシャリストが英才教育をたたき込んだ。

 己の持つ技術を武器に、世を渡り合える女性はそうはいない。


 もう1つは、強制的に働かされて、搾取されている場合だ。

 才能を発現した幼い子供や孤児が誘拐され、貴族や組織に囲われて、逃げ出せなくされているというのは、そう珍しいことではない。あってはならないが、それが現状だ。


 コニーが定期的に画商に通っていたことを、セドリックは知っている。だからエルシェリアから「作品」と聞いて、『ルネ』は画家だろうなと思った。

 エルシェリアが知っているとは思わないが、マイヤー家は代々、芸術家や起業家を金銭的に支援している家系だ。いわゆる貴族的投資。自らは商業を行わないが、そうやって経済をまわし、成功した者からマージンを得て懐を潤している。

 つまり、「そういう伝手」は、ある。伯爵家を継ぐスペアとしての教育に、それは組み込まれていた。


 それを拝借して調べていくと、確かにルネは、戦争の少し前から作品発表が途絶えている。

 もともと少ない情報が、今は遮断に近い状態になっている。

 女性か。搾取されている弱者か。または全然別の事情か。その所在はもとより不明。

 創作活動が現在行われているかどうかも、あやしい。


 どういう事情にせよ、活動していない、もしくはできない状況なのであれば、新作は見込めない。

 既出の作品数はそう多くはなく、その所在を追ううちに、そのほとんどをコニーが所有していることがわかり、セドリックは驚いた。

 エルシェリアの認識以上に、コニーは相当ルネの作品を好んでいるのだと知れる。


 絵画は高価な嗜好品。コニーのように、一度好んで手に入れたものを、手放すのは持ち主によほどのことがあった場合に限られる。だから今、市場に作品は出回っていない。

 つい最近市場に流れた1枚は、もれなくコニーが回収(購入)している。おそらく、そこからエルシェリアは『コニーはルネが好きみたい』情報を得たのだろう。


 つまり、ない。

 コニーは収集家気質(コレクター)のようだ。つまり、もらうよりは、おそらく自分で買い集めたいタイプ。

 1枚は贈るとしても、伝手としてその作品を購入できるよう手助けできればいい、と軽く考えていたが、1枚もない。


 セドリックが『意思確認』を止めているのは、コニーに言ったように、今やっても意味がないからだ。

 コニーの意識は今仕事に、主にエルシェリアに向いている。ラルフ(主人)がそうしているからかもしれないが、ドグルのことがあるものの、エルシェリアに対して好意的、いやわりとかまい倒している。


 長期戦が苦にならないと言ったのは嘘ではない。待てばいいだけなら、いくらでも待てる。

 ただ、「日常的につきまとうことはしない」とは言ったものの、業務上の必要もあって、若干の下心がありつつコニーを住み込みにしたら、オンオフが激しいコニーの、ちょっとしたオフの表情がたまに垣間見えて、感情が揺さぶられる。


『どうして』


 コニーに、最初に聞かれた言葉。

 どうしてなのかは、こっちが聞きたい。理屈ではないのだ。

 今までにこんなことは一度もない。何が起こっているのか、自分でもわからない。

 ただただ、目が追ってしまう。


 オンの時(勤務時間中)でも、コニーはエルシェリアには、素の笑顔を見せる時がある。

 その笑顔を。月の下、セドリックが最初に魅せられた、あの笑顔を。

 もしルネの絵画を手に入れられたら、また見ることができるだろうか。


 そんな思いで探していたら、なぜかフォルセインから内密に呼び出しがかかった。


本編「13.  発熱」の、シェリルがセドリックに耳打ちするシーンのセドリック視点が入っています

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 よろしければこちらもご覧ください  → 『女神の祝福が少しななめ上だった結果』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ