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英雄にされた俺と、隣国の妖精姫の事情  作者: 穂高奈央


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64. 【番外編】執事のセドリックとメイドのコニーの事情 13/25

 コニーは、ナインの『行方不明の孤児院での妹』が、本当の妹ではないだろうことを知っている。

 コニーがその『妹』に似ているからと、何かにつけ目をかけてもらっているが、それはおそらく嘘だということも、知っている。嘘ではないかもしれないが、『妹』とコニーを、ナインが重ね合わせることはない。

 ナインは、離れ離れになってしまった『妹』を想って、諜報をしながら今も探し続けている。 


 会えたらいいですね、などと軽々しく口にできるものではない。

 生死すら定かではない『妹』を、さしたる手がかりもなしに探すなど、雲をつかむような話だ。

 そのナインが言う言葉は、重い。


『ここだというタイミング』。

 さらっと言うが難しい話だ。

 はい、間違えません、とはとても言いづらい。

「意思確認・・・本当に来るでしょうか」

 コニーは、別の言葉を返した。


「来るよ、俺の予想だとね」

 言って、ナインは優しく目を細めて微笑んだ。

「急ぐ必要はないよ、コニー。待ってくれるというのなら、ゆっくり考えてから決めればいい。意に沿わない選択をしてはいけないよ。・・・君には幸せになってほしいからね」


「っ」

 コニーはその表情に息を呑んだ。

 それは、優しくて、儚くて。不安になるほどの。


『君に()』。

 自分は、叶わなかったけれど。

 そういう意味だろうか。


 コニーは笑みを作った。

「どうしたんです急に」

 動揺を隠してからかうように軽く問うが、ナインから返ってくるのは笑みばかり。


 あっという間に話題を変えられて、それ以上追求することはできなかった。


 その日を最後に、ナインは姿を消した。


***


 ナインは店舗を閉め、コニーに貸している展示室部分は、コニー名義にして譲渡の手続きを行っていた。

 『譲渡の手続きは、コニーのサインをもって完了する』、との書面通知と契約書が届いたため、それがわかった。


 買い付けや本業(諜報)で留守にしているのではない。

 店舗内の絵画(売り物)は、店舗自体も含めて、すべて売却されていた。

 行ってみると、控えめではあったが掲げられていた看板も撤去されて、扉には「空き」の貼り紙。

 まるで、最初からそこには誰もいなかったかのように。


 コニーは承認状をもらっている関係で、庶民だがフォルセイン(王族)に面会申請ができる。

 フォルセインなら何かを知っているかもしれないと、申請をしたら驚くほどすぐに通った。

「あいつの所在は、俺が聞きたい」

 フォルセインの第一声はそれだった。


 その傍らには、騎士服姿の婚約者、ロザリンドも座っている。

 ナインの失踪は、フォルセインの指示による長い出張(仕事)が要因ではなかった。

 主人(あるじ)も行方を知らない、それはつまり、逃げた、ということか。コニーは表情を硬くした。


「今のところ表向きには仕事中、ということにしてあるから、捜索はしていない。このまま殉職してもらおうかと思っているが、何か異論はあるか、コニー。それとも、何か聞いているのか?」

「・・・いえ、聞いていません。異論も、もちろんありません」

 

 それはつまり。

 コニーの推測が間違っていなければ、フォルセインは、ナインを追うこともせず、ペナルティーも課さず、このまま逃そうとしている。

 ただそれをおおっぴらにやれば、今いる人員のモチベーションに関わる。だから『仕事に失敗して殉職』、したように見せかけようとしている。


「それを、私に言っていいんですか?」

 本来、逃亡は重罪だ。あらゆる手をもってして追跡がかかる。守秘義務のある諜報の裏切りともなれば、なおさらのはずだった。


「知ってしまったからにはお前も共犯だ。手伝え。対価は支払う」

 ナインの逃亡の隠ぺい工作を手伝え、と。まさか王族から頼まれるとは思わなかった。

 もともと、ナインが仕事ではなく逃亡して行方をくらましたのであれば、コニーはナインの追跡を妨害してやろうと考えていた。


 それは、見つかればコニーも罪に問われる行為だ。それでも、ナインが自分の意思で逃亡したのなら、それを助けたかった。

 あの、最後に会った時の儚い笑みが、忘れられない。

 でも。

 コニーは口角を上げた。合法ではないが、これで罪に問われることはなくなった。


「手伝います。対価は必要ありません。前回の対価として承認状をいただいた分が余剰になっておりますので、それを今回の対価としてあてさせていただきます。ただ」

 コニーは気になっていたことがあった。


「ただ?」

 フォルセインが首をかしげる。

「これはセイン様の直属配下の全員にしている措置ではないでしょう。どうしてナインは許すのですか?」


 フォルセインは、ロザリンド以外の人間に対しては等価交換の男だ。

 もし何かほかに思惑があって、それに利用されようとしているのなら、コニーは請ける気にはなれなかった。

 なぜナインは逃がすのか。それははっきりしておきたい。

 フォルセインは王族だ。必要であれば嘘も平気でつくが、共犯をもちかけた相手に偽ることを、この男はたぶんしない。


「ナインには借りがある。その対価をまだ支払っていない。それだけだ」

 だから逃がすことで、対価とする。フォルセインはそう言った。

「『借り』の詳細も聞きたいか?」

 からかうような口調でフォルセインは続けた。聞きたいです、と言えば、本当に聞かせてくれるのだろう。けれど。


「私が聞いていいことではないと思います」

 コニーは穏やかに笑んで、首を横に振った。

 コニーも、ナインとのことを他人に話すつもりはない。聞きたいことは聞けた。それでいい。

 その様子に、フォルセインは苦笑する。


「前も聞いたが、表向きはローザ付きで、俺の直属になる気はないか」

「ありません。では、手伝いについての詳細をおうかがいいたします」

 コニーはきれいな笑みで返した。


***


 近く行われる大きな公式行事。フォルセイン(王族)の婚約者であるロザリンドも出席するためロザリンド周りの人手を増やす、という名目で、以前働いたことのあるコニーが一時的に王城で働く、ということになった。

 単に、情報交換を密にするのに、いちいち面会申請などしていられないからだ。


 以前と違って、さすがにロザリンドには専属の侍女が付いていた。だが、ロザリンドに付き合えるだけあり、貴族令嬢というよりは騎士寄りのさっぱりした女性で、承認状がなくとも、庶民のコニーに対して蔑むようなことはせず、先輩として接してくれた。


コニーが勤務時間外に寮から出て何かをしているだろうことも察していたようだが、それを指摘するどころか、他の侍女に対して目眩しになってくれた。

 ロザリンドから、何か聞いているのかもしれない。

 おかげで、コニーは比較的自由に動くことができた。


 ある日軍部に、というより暗部に立ち寄ろうとして、セドリックに会った。

 セドリックは軍部所属だ。

 コニーが今、王城勤務とはいえ普通にメイド業務をしているだけなら会うことはないだろうが、コニーの方が軍部付近でうろうろしているのだ、すれ違うことくらいはあるだろうとは思っていた、が。予想よりも早いタイミングで出会うことになった。


 それに、たまたま見かけたというよりは、コニーを待っていたような出会い方だ。コニーの『勤務時間外』のスケジュールは誰も、フォルセインですら把握していないはずなのだが。


「意思確認だ」

 セドリックは「久しぶり」、とも「どうしてここに」、とも聞かず、業務連絡のようにそう言った。

 だからコニーも、「お久しぶりです」、とも「どうして私がここにいることがわかったんですか」とも聞けずに、

「まだそこには至っていません」

 とだけ、短く答えた。

 セドリックがどうこう以前に、自分の結婚を考えられる状況にはなかった。

 正直な話、今自分の事どころではない。


 と思って答えたのだが、セドリックは落胆するでも、無表情でもなく、わずかに笑んだ、ようにコニーには見えた。

「そうか」

 それだけ言って、すれ違うようにして歩いていってしまった。


 本当に、意思確認だけだった。

 少し身構えていたコニーは拍子抜けした。

 セドリックに持っていた、警戒にも似た緊張感は、少し緩んだ。

 だが、コニーはこの時気付いていなかった。


『まだそこには至っていません』


 コニーは『まだ考えるところまでも至っていない』と言ったのだが、セドリックは『自身の結婚については考え始めてはいるが、相手がセドリックでいいかというところまでは至っていない』、と解釈した。

 距離を置いての様子見を貫いていたセドリックに、この時からロックオンされたことに、コニーは気付いていなかった。


 コニーを娘として愛でる軍の上層部が、虫除けに『コニー(第二王子のお気に入り)はイケメン好き』との噂を流したせいで、真に受けたセドリックがラルフとコニーが出会わないよう工作していたことにも、気付かなかった。


 ナインが無事『殉職』し、コニーが王城勤務を離れてからは、それなりの回数で意思確認があった。

 急に高くなった頻度にコニーは少し戸惑ったが、ナインの言葉がある。短く問われる意思確認に、その都度短く『まだです』と答えた。

 迷惑です(やっぱりお断り)、とは一度も言わなかったことにも、コニーは気付いていなかった。


 だが、それはふつりと途絶えた。

 急に始まった戦争。その最前線に、セドリックが送り込まれたからだ。


本編「27. 違和感の正体」に出てくる「コニーはイケメン好き」の噂の由来エピソードが入っています

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