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英雄にされた俺と、隣国の妖精姫の事情  作者: 穂高奈央


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58. 【番外編】執事のセドリックとメイドのコニーの事情 7/25

 コニーは、ロザリンドに泣きつかれながらも王城勤めを辞した。

 ロザリンドを狙う人物の特定のために、フォルセインとともに裏で動いた。そのせいで、軍の上層部と多少なりとも繋がりができ、王城の裏サイドで、コニーはちょっとした有名人になってしまった。


 ごく僅かではあったが、ブレット(元暗部トップ)を知る人たちもいて、彼らにはまるで自分の娘のように可愛がってもらった。

 いや、ただのメイドだし。

 悪目立ちすることは望まない。王城で働き続けるのは難しいかと考えるようになり、辞めた。


 フォルセインから、侍女としての働きに対しての王家の承認状(お墨付き)と、ロザリンドの暗殺を未然に防いだ功績としての特別報酬を、がっぽりもらった。対価の支払いだという。

 特別報酬はもちろんだが、承認状は正直ありがたかった。

 コニーは庶民だ。どこで働くにしても、これ以上の身分証明はない。

 これで、選択肢の幅が格段に拡がる。


 と、思っていたのに、どうやら王城で、名声をばらまき過ぎたようだった。

 表沙汰にできない、もしくはしたくない調査依頼とセットで、あくまでも「メイドとして」うちに来てほしい、という高位貴族からのオファーが、ブレット経由ではなくコニー個人宛てに殺到した。


 ロザリンドの暗殺未遂については、もちろん表沙汰にはなっていない。が、高位貴族は常にアンテナを張っている。情報量の差はあれ、知る者は知っている。

 おそらく、スチュワート公爵家の時点で、すでに目はつけられていた。

 フォルセインは、庶民で小娘であるコニーを反乱分子が悪用できないよう、保護する意味でも自分に声をかけてくれたのだと、フォルセインの人となりをもう知っているコニーは、理解している。


 高位貴族に囲われて駒にされないように、王城を出るのならと、承認状までつけてくれた。

 承認状は、王族の息がかかっているぞという証。

 たとえ高位貴族であっても、身分をかさにきてコニーを脅すような真似はできない。

「対価の支払いだ」とは言ってくれたが、それでもコニーの方が、あまりある恩恵を受けている。

 いつか恩を返そう、とコニーは思った。


 コニーはオファーに対して、それぞれを短期契約にして、調査が完了したら次の依頼先に行く、という方針をとった。

 長期で働くには貴族に対しての抵抗感がまだあったし、メイドとしての報酬も、承認状の箔がついたおかげで爆上がりはしたが、調査報告の成功報酬の方が、口止め料も含まれているため、格段に高い。

 調査を短期でこなしていく方が、実入りはよかった。


 中にはブレット経由のオファーもあったが、それも請けた。

 スチュワート公爵家の紹介、王族への派遣。

 この流れで、ブレットはコニーに対してひどく気を遣うようになっていた。

 別にブレットに対して怒っているわけではないし、腫れ物にさわるような扱いをされたいわけでもない。

 それを示すために、ブレットの頼みは快く受けた。


 そんなことを繰り返すうち、いつしかコニーは「短期契約しか受けない、王家の打診すら断ったスーパーメイド」という、何だかものすごく上からな感じの二つ名がついてしまった。

 調査依頼の方は、もちろん機密事項だ。だから、一般的な噂レベルでは、メイド業務部分しか表に出ない。

 コニーは、噂だけのスーパーメイドにならないよう、メイドのスキルも、より一層ブラッシュアップした。


 正直、普通のメイドではあり得ない収入を得ることになったが、それでもペースを落とすことなく仕事を請け続けた。

 コニーには、金が必要だった。

 ギャンブルをしているわけでも、借金を抱えているわけでもない。

 ましてや貧乏でも誰かに弱みを握られて脅迫されているわけでもない。

 推し活のためだ。


 幼い頃から父ブレットや師匠テス、母マーサにより様々なジャンルの英才教育を受けてきたコニーには、自分の時間というものが、さほどなかった。

 それが当たり前の生活だったから、そのことを不幸だったとは思っていない。


 今ある自分は、彼らの努力の積み重ねによるものでもある。同じだけの時間を、彼らは自分に割いてくれた。貴族でも難しい、自分の人生を自分で選べる自由を、それができるスキルを、授けてもらった。

 むしろ、感謝しかない。


 ただ、住み込みで働くようになり、自分の時間というものができ、給料をいただき、自分で自由に使っていい金銭が手に入ってしまうと、(たが)の一つや二つ、はずれてしまっても仕方がない。

 最初の就職先、スチュワート公爵家で、先輩だったカリナが好きだった恋愛小説。

 それを借りて読んだコニーは、とても感銘を受けた。その小説にではなく、小説についていた、挿絵に。

 その、挿絵を描いた絵師は、ルネという。


 その絵師ルネは、小説の挿絵を描いたり、自身でも絵画を描いたりしているが、まださほど名は知られていない。それどころか、その絵師自身に関する情報の一切は伏せられていて、身分、年齢、性別すら明らかにされていない。

 だが、コニーにはそんなことはどうでもよかった。コニーが好きなのは絵師ではない。

 作品だ。


 生活することに一番重きを置かれているこの世界、書籍や絵画、美術品は嗜好品であり、一般的に庶民が手を出せるものではない。

 だが、コニーは稼ぎのほとんどすべてを、そのルネの作品を買い集めることにつぎ込んでいた。


 作品を手にする喜びももちろんだが、何よりそれがルネ(推し)の活動を支援できている、と思えるのが、嬉しい。

 やめられない。止まらない。理屈ではないのだ。

 両親に知られたら、その金遣いの荒さを咎められるかもしれない。その思いから、作品を飾るための一室を、別の場所に借りている。


 コニーの推し活を知る唯一とも言える人物、ナインがその家主だ。

 ナインはフォルセイン直属の間諜で、スチュワート公爵家で情報収集を行っていたコニーを、フォルセインに報告した人物だ。


 表向きは、違う名前で画商をやっている。

「(本職の)仕事で店をあけても、『絵の買い付けに行っている』と周りにまっとうな言い訳ができるからね」

 そう言って、柔らかな笑顔を見せる彼は、とても裏の仕事に携わっているとは思えない。

 もともと孤児で、名前はなく、孤児院にいた時に付けてもらった名を、画商の通り名にしているという。


 コニーが王城でロザリンド付きになり、諜報として動いた時、フォルセインから紹介を受けた。そこからの付き合いだ。

 ナインはコニーの趣味を、フォルセインの依頼でコニーの身元調査をする過程で知ったが、(フォルセイン)にそのことだけは、報告しないでおいてくれた。


 さほど愛想もよくないコニーを、ナインは、行方不明になっている孤児院での『妹』に似ていると言って、かわいがってくれる。

 推し活は、両親にも内緒にしている。


 最初は、ルネの作品を配送にせず直接買って、家の自室に隠し持っていた。だがそれも置ききれなくなってきて困っていると、ナインが「部屋を貸してあげるよ」と言って、ギャラリーの中にある、作品を管理する部屋の一室をあけ、格安の賃料で、そこに保管することを提案してくれた。

 その部屋は独立していて、ナインが留守の時でも、コニーはカギを開けて自由に出入りができる。


 ルネの作品を見つけてきて、仕入れ値で譲ってくれたこともあった。ナインは、コニーの良き理解者であり、兄のような存在でもあった。

 そして、その部屋はコニーにとって、好きなものに囲まれて好きなだけ堪能できる、幸せ空間だ。


***

 

 コニーの所蔵だけでルネの個展が開けるのではないか、とナインに笑われるほど作品が集まってきた頃。

 コニーはテスの仲介で、テスが現在料理人として働いているマイヤー家に、一時的に勤めることになった。

 いつもメイド業務とセットで付いてくる調査依頼は、今回ついていなかった。

 だが、

「どうするかは、コニーさんに委ねますよ」

 就業前、テスに意味深な言葉をかけられ、警戒していたら、やはり、案の定。


 政略の婚約が決まって間もなく、体調を崩して寝たきりに近い状態になった嫡男(シグルド)

 形だけは看病のために通っているように見えるが、実際は婚約者の弟(セドリック)を追いかけまわしている伯爵令嬢(ロレイン)


 シグルドが、ドグル()による中毒症状だということには、すぐに気付いた。

 シグルドの世話をしていたメイドたちを次々に辞めさせ、薬と称して毒を飲ませているのがロレインだということにも、程なく気付いた。

 そしてそれを知りながら、弱々しい笑顔でロレインの渡す()を飲み下すシグルドが何を望んでいるのかも、何となくだがわかってしまった。


 病床のシグルド(嫡男)を、看病のために通い詰めるロレイン(婚約者)を信じきっているマイヤー伯爵夫妻。

 気弱な兄、優秀な弟。遠慮し過ぎて距離を取る(セドリック)は、兄の思惑に気付かない。

 これだから貴族は。

 思わず舌打ちしたくなるような状況だった。


『どうするかは、コニーさんに委ねますよ』


 テスの言葉が重くのしかかる。

 シグルドの症状を見るに、迷う時間はあまりない。

 ブレットの知り合いに、暗部の息がかかった医師がいる。マイヤー伯爵夫妻に「専門医を紹介できる」と言ったら、一も二もなく了承された。


 さあこの後どうするか、と思っていたら、ロレインの方が動きを見せた。


本編「17. 待て待て待て」の、コニーが短期契約専門メイド、と言われるようになった由来エピソードとなります

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