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英雄にされた俺と、隣国の妖精姫の事情  作者: 穂高奈央


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52. 【番外編】執事のセドリックとメイドのコニーの事情 1/25

評価、ブクマ、いいね、アクセスありがとうございます!


おかげ様で、一瞬でしたがハイファンタジーの完結済日間ランキング入りの通知が来て、驚きました

最高で41位だったみたいです

あと注目度ランキングにも入ったみたいで


遅くなりましたが、番外編投稿させていただきます

セドリックとコニーのサイドストーリーです

 セドリックは、マイヤー伯爵家の次男として生を受けた。

 貴族で嫡男以外で生まれるということは、無駄に生まれだけはいいものの、家にとってはさほど役に立つものでもない。娘ならば政略結婚という使い道もあるかもしれないが、男であれば、結局家を出て自分で生計を立てるよりほかはない。


 セドリックは次男だ。

 三男以降ならもう少し放っておいてもらえたかもしれないが、嫡子に何かあった時のためのスペアとして、後々役に立つかどうかもわからない高レベルの教育を施された。

 嫡子である兄は、それなりに能力はあるものの、温厚で優しいと言えば聞こえはいいが、気弱な性格だった。優秀なセドリック()の顔色を、いつもうかがっているような性格だった。


 正直、セドリックは面倒くさかった。

 爵位を兄からかすめ取ってやろうとも、領地経営をしたいとも、思ったことは一度もない。

 だがそれを自分の口から言うと、また変に勘繰られかねない。


 面倒くさい。

 セドリックは、手っ取り早く家を出ようと、両親に無断で軍部に入った。

 だが、兵舎への入居願いは察知した父親に握りつぶされ、家から通うことになった。


 マイヤー家には、経歴の変わった料理人がいる。テスだ。

 セドリックが物心つく頃からいる料理人だが、ここに来る前は、暗部に所属していたのだという。


 軍に入るまでは、セドリックもそのことを知らなかった。

 暗部というだけでも、適性も含めて一握りしかなることのできない、優秀な人材だ。その中でも海外に派遣されることもあったほどの、言わばエース的存在だったテスは、海外赴任先から戻って子供が産まれていたことを知ると、あっさりとその職を退いた。

 当時の軍の上層部では、大騒ぎになったらしい。


 ちょうどその頃、マイヤー家の料理人が、老齢を理由に引退した。

 マイヤー家は、料理人の募集をかけていた。そこに乗っかったのが、テスだ。

 嘘八百を並べ立てた履歴書にあっさりだまされたマイヤー伯爵(セドリックの父)は、ちょっと自炊が得意なだけの『料理人』を雇ってしまった。


 最初の頃のテスの料理は、とても伯爵家で出されるようなものではなかったらしいが、セドリックはそれを覚えていない。逆に庶民的でもの珍しいとマイヤー伯爵夫妻は喜び、その間に急激に腕を上げたテスは、ずっと変わらず、マイヤー家の料理人だ。


 軍に入った後、セドリックはテスの前職を知って、ひそかに指南を願った。

 最初は渋っていたテスも、家で浮いている次男を放っておけなかったのか、付き合ってくれるようになった。一度として勝てたことはなかったが、セドリックにとって、テスは(嫡男)を重用する両親よりも、身近な存在だった。


 両親の目には、セドリックは従順な兄とは違って、頑なな態度をとっているように見えているらしい。空気を読んで、兄とあまり接触せず、兄が不安定にならないよう、両親と馴れ合わないようにしているだけなのに、理不尽な話だ。

 かと言って、それも気に病むほどではないが。


 軍に入って少し経つ頃には、セドリックは早くも頭角を現していた。

 当然と言えば当然だった。伯爵位を継げるほどの教育を受け、元暗部のエースから指南を受けたのだ。

 軍は、貴族が幅を利かせる風潮もあるものの、基本的には実力社会だ。

 この風土は性に合っている、と、思っていた。


 ある日、昇格を言い渡された。

 昇格と言いながら、事実上の厄介払いのようなものだった。

 コネだけで役職を手に入れた無能な貴族子息にとって、セドリックはその身を脅かす邪魔な存在だったらしい。

 有事になれば真っ先に最前線に飛ばされる小隊の、しかも隊長ではなく副隊長に任命された。


 セドリックの上司になる(隊長)は、あのラルフ・ハリントン。

 今は王都の警備隊の隊長をしている、元暗部トップで、テスのかつての上司でもある、ブレット・クワンの秘蔵っ子。

 元は、街をうろついていた孤児だったという。まだ幼いその時点で既にできあがりすぎた容姿のせいで、誘拐されそうになっていたところを巡回をしていたブレットが保護したのだという。


 軍に入って最初は兵舎にいたが、男だとわかっていても、そのあまりの美貌についふらつく者も多く、問題が多すぎて、今はブレットが自分の家を住居として提供しているという、あのラルフ・ハリントン。

 女性に見紛う容姿で細身なのに、腕っぷしは滅法強く、今ではそっち目的以外でも挑もうとする者が多数いることを、おそらくラルフは知らない。『神の鉄槌に挑む』という、ラルフに腕試し目的で襲撃をする隠語まで誕生していることも、おそらくラルフは知らない。


 そのラルフが、上司。

 今まで何の関わりもなく、他の、ゲームみたいにラルフに挑む連中とは同列にはなりたくなくて、『神の鉄槌に挑む』こともなかったが、どれほどのものなのか、気にならないわけでもない。


 初めての顔合わせの時に、

「俺の上司だと納得させろ」

 と、言ってみた。どういう反応をするのかにも、興味があった。


 ラルフもおそらく、自分と同じように厄介払いされた口だ。

 有事が起こりそうな気配はなかったが、新設の、若造が率いる小隊なんて、どうせ、面倒くさい僻地の仕事なんかを任されるために作られたようなものだ。

 話ができる奴かそうでないかは、非常事態が訪れる前に、早めに見極めておきたいところではあった。


「納得・・・と言われても。私闘は禁じられているしなぁ。とりあえず飲み対決でもするか」

 ラルフは、気負うこともなく、怒るでもなく、伯爵子息に対して遠慮するでもなく、まるでもともと既知であるかのような気軽さで、そう言った。


「おもしれえ! 俺たちが見届け人になってやる。みんな行くぞー」

「おー!」

 軽いノリで、そこにいた隊員全員が、居酒屋についてきた。

 せめて手合わせ、かろうじて腕相撲くらいはするかと思っていたが、腕試しの方向にはいかなかった。


 セドリックは、自分が酒に強い自覚があった。

 だから、負けるわけなどないと思っていた。

 実際、酒に呑まれて、楽しそうに笑い続けているラルフを見て、こいつ限界が近いな、と冷静に判断できていたし、自分の限界が来る前に、ラルフが先につぶれるだろうと思っていた。


 案の定、それほど待たずに、無口になったラルフはうとうとと机にうつぶせて、動かなくなった。

「勝負あったな」

 と、自分たちも飲み始めてすっかりできあがっている隊員たち(見届け人)に言ったら、


「いいやまだだ。まだ終わってないぞ」

 急にむくりとラルフが顔を上げて、きりっとした真顔で言った。

 まじか。セドリックに初めて焦りが生じた。


 そこからは、ラルフは人が変わったようだった。飲んでも飲んでも平気な顔をしている。

 セドリックはそろそろ自分に限界が近づいている、と自覚していたが、ラルフも同じように限界は近いはずだと、何とか持ちこたえていた。

 何しろラルフの方は、一度は突っ伏したのだ。見た目ほど平気なはずはないが、顔色が悪くなるでもなく、辛そうなそぶりも見せない。顔の造作が良すぎて、何とも判断がつかない。

 

「お前は俺には勝てない。このまま続ければ、命に関わるのはお前の方だとわかっているはずだ。負けを認めろ。お前は優秀だ。こんな所で終わるな」

 ラルフは言い放った。


 話し方まで別人のようだ。少し余裕のある笑みまで滲ませて、自信満々に言い切られた。

 自分が言い出さなければ、ラルフは絶対にひくことはないのだと悟った。すでに相当な量を飲んでいる。下手をすれば、どちらかが急性アルコール中毒で死ぬ。


 ラルフは、また1杯、笑みを残した顔でぐい、と飲み干した。

 キレイな顔して、とんだ勝負師だ。


「・・・わかった。負けを認めよう」

 セドリックはため息と共に言葉を吐き出した。

 屈辱ではあるが、勝負をもちかけたのは自分だ。死人を出すわけにはいかない。物事の引き際は、心得ているつもりだ。


 ラルフは子供みたいに無邪気な笑顔になった。

「俺はお前が気に入った。一生俺についてこい! 面白いものを見せてやる」


 セドリックが何と返事をしたものか迷っていると、ラルフは急に糸が切れたように机に突っ伏した。念の為に呼吸を確認すると、規則正しくすうすうと・・・眠っていた。


 面白いもの、て、何だ。

 問い質そうにも、言った本人は言いたいことだけを言って、寝てしまっている。


 明日聞くか。

 急ぐ必要はない。長い付き合いに、なりそうだし。

 セドリックは大きなあくびをした。


 隊員の1人がラルフの服のポケットから財布を持ち出すのを横目に見ながら、支払いをすることなく、セドリックは店を出た。

 

 翌日、ラルフは昨晩のことをほとんど覚えていなかった。

 自分が勝ったことすら、覚えていなかった。この分だと、どこまで記憶が残っているかは、怪しい。

 昨日とは打って変わって辛そうだったから、聞いたところで答えは返って来ないだろうと踏んで、セドリックは『面白いもの』について、聞かなかった。

 そのまま、聞くタイミングを逃して、聞くことも忘れた。


『いいやまだだ。まだ終わってないぞ』以降、人が変わったのではなく、運と勝負の神にすり替わっていたのだと、教えられる者は、誰もいない。



もしよろしければ、本編「17. 待て待て待て」を読み返していただけますと、ああそういうことね、ってなるかと思います

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 よろしければこちらもご覧ください  → 『女神の祝福が少しななめ上だった結果』
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