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英雄にされた俺と、隣国の妖精姫の事情  作者: 穂高奈央


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51/76

51. 俺だけの

2話連続更新です


50話目をまだお読みでない方は、そちらからお読みください

すみません・・

 俺は、シェリと寝室に入った。

 二人だけで話をする時はここでする、って、帰国後から何となく決まっている。

 それはもちろん、誰にも、神にも、邪魔されないためだ。


 シェリがいつも通りすとんとベッドに座ったから、俺もその隣に座った。

「何かありましたか?」

 少し首をかしげてこっちを見るシェリに、俺はうん、とうなずいて、さっきベンから受け取った小箱を取り出した。


「もう結婚は、してしまっていることにはなってるんだが」

 言って、俺はその上質の布張りの小箱をシェリの前で開いた。

「!」

 シェリは、それを見ると両手で口を覆って、瞳を潤ませた。


 これは、結婚指輪だ。

 俺の髪と瞳の色の小さな石を散りばめて、中央にはピンクダイヤ。

 石が大きすぎると普段使いできないから、カットを細かくして反射を多くはしてもらったが、少し小ぶりで、台座に埋め込むようなデザインにしてもらった。


 クラインには、婚約する時にも、結婚する時にも指輪を渡す習慣はない。

 だから俺は知らなかった。

 あの日。離宮から、ニルスに姫抱っこされて出てきたエルの左の薬指には、指輪がはまっていた。


 野営地に帰る馬車の中。

『持ってきたのは、その指輪だけですか』

 俺はエルに尋ねた。本当に、それ以外何一つ手に持たずに、ニルスもエルも離宮から出てきた。

 まさに身一つ、だ。だから、よほど大切な物なんだろう、と思った。


 きらりとこちらに指輪を向けて、嬉しそうにエルは微笑んだ。

『持ってきたんじゃないわ。これはね、もらったの』

『もらった?』


 聞き返す俺に、ニルスが少し照れたように笑って目線を下げた。

『緑の引き出しの忘れ物、です』

 そう言ってニルスは、ウィデルには婚約した時と結婚した時に、男性から女性に指輪を贈る風習があるのだと教えてくれた。


 婚約する時には、男性のまとう色の石を。結婚する時には、永遠を誓う、硬度の高い貴石を。

 結婚指輪は日常生活で身に着ける場合が多いらしい。

 ニルスは、クラインにとばされるとわかった時に、緑の引き出しに、離宮に、想いを置いて行った。もともと身分差や、エルが幽閉されていることを考えて、指輪を渡せるとは考えていなかったがそれでも、指輪を作らずにはいられなかった。


 エルが知っているんだから、シェリが知らないはずはない。

 エルの教師はニルスとシェリだ。

 でも、シェリは一言も、俺に指輪の話はしなかった。



「遅くなってごめん。受け取ってくれるかな」

 嗚咽で声が出せなくて、シェリは目を閉じて大粒の涙をぽとぽとと落とした後、小さくこくこくとうなずいた。


 婚約指輪は、婚約期間がなかったし、そもそももう結婚している、ことになっている。

 だから、結婚指輪に俺の髪と瞳の色の石もはめ込んだ。

 シェリの指は細い。コニーにサイズを聞いた時には驚いた。指輪が主張しすぎないように、ぎりぎりの細さの台座で、石を配置した。


 俺の発注したのができているってことは、セドリックももう出来上がった婚約指輪を手にしているだろう。でもコニーに手渡すのは、勤務終了後だな。


 口を覆っていた両手を下ろして、ようやくちょっと落ち着いたシェリが、左手を、甲を上にして俺に差し出した。

「はめていただいても、いいですか? 結婚指輪は、箱を受け取らない風習です。指輪をはめていただいて、それからはずすことは、離婚しない限り、ないはずですので」


「はずされないように、努力する」

 俺は、箱から指輪を取り出して、シェリの指にするりとはめた。

 華奢な手に、それは最初からそこにあったみたいにぴたりとおさまった。

「努力するのは、私の方です。ありがとうございます」

 シェリが、嬉しそうに指輪を見て、瞳を細めて微笑んでいる。


「シェリル」

 呼ぶと、シェリははっとしてこっちを向いた。

「2人だけの時は、シェリルって呼びたい。対外的には『エルシェリア』で、みんなのシェリ様だが、シェリは、シェリルだから。俺だけの呼び名が欲しい」


 おさまりかけてたシェリの涙腺が、また崩壊した。

 俺はなだめるように、シェリの背に腕をまわしてぽんぽんとたたくと、軽く抱きしめた。

 偽りの名(『エルシェリア』)を背負う覚悟を、俺は共有できない。だから、せめて2人でいる時は、『シェリル』でいられるように。


「まだ、俺の部屋のは片付けていないが」

 話し始めた俺に、シェリは顔を上向かせた。

「今日、俺もここで寝てもいいかな」


 シェリの顔が、ぼぼぼぼ、と音が聞こえそうなくらい真っ赤になった。

 でも首は、こくりと小さく縦に振られた。

「いや、わからないな。寝る暇なんて、ないかもしれない」

 嬉しくて、つい調子に乗って言ったら、ぽすり、と背中に軽いパンチが来て、シェリは顔を隠すように俺の胸にずずず、と頭を沈めた。


 コニーにフルコーディネートされたシェリに、今度は俺が撃沈することになるのだが、それはもう少し、後の話だ。



完結です


最後までお付き合いいただきありがとうございました!


ちょっとでもよかったな、と思っていただけましたら

いいね、ブクマ、評価などリアクションいただけると、いれきれなかった番外編書いてみようかな、とか、次も書いてみようかな、とか調子に乗ります


よろしくお願いいたします



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 よろしければこちらもご覧ください  → 『女神の祝福が少しななめ上だった結果』
― 新着の感想 ―
楽しく読ませてもらいました 神様編などのスピンオフ見てみたいです
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