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英雄にされた俺と、隣国の妖精姫の事情  作者: 穂高奈央


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43. エルシェリア ②

「あの男?」

 俺もつられて離宮の入口の方に向いた。

『数が多い。扉を壊されかねぬゆえ、我が閉める』

 春の女神が言った。

 扉を、さっきの俺も入れなかったあの状態に戻すんだろう。


「バートン。私がユン様に守られてあの中に入ってからだから、どのくらい経っていたのかはわからない。誰も入って来ないはずの離宮に、複数の男の人たちが入って来たの。真ん中にいた人が、ウィリアム・バートンと名乗ったわ。お付きの人は、侯爵って呼んでた。そのバートンが、王家がユン様の加護を失って逃げた、って言ったの。だから私に、新王になって、ユン様に加護を願って、国を興してほしいって」


 エルシェリア王女は、やっぱりその時に神の愛し子だと知れたんだ。

 まあ、あれ見たらそうなるよな。

 神の愛し子に関して、クラインでも別に極秘事項じゃなかった。侯爵と呼ばれる人間が、加護を持つ国の仕組みを知っていたとして、それは不思議じゃない。


「だから、ニルスとシェリを、書簡で呼び戻そうとしたんですか?」

 ここでエルシェリア王女が国を興したら、じゃあクラインの英雄に嫁いだのは誰なんだよ、って話になってしまう。


 俺の問いに、エルシェリア王女はふるふると首を横に振った。目をそらすようにうつむく。

「ユン様は、私が望まないことはしなくていいって。私はただ、ニルスとシェリに会いたかった。2人を呼び戻してくれたら、考えてもいい、って。バートンにそう答えたの」


 ああ。

 その時のエルシェリア王女にはもう、民のために国を興すとか、そんな余裕はどこにもなかったんだろう。死にたいとまで思いつめている人間に、民を、知らない大多数の他者を、思いやれっていう方が無理な話だ。


「その後、バートンが、クラインの『英雄』が2人を殺した、って伝えに来たの。そこからの記憶はもっとあいまいで、よくわからない。ただユン様が、私に代わって、バートンたちを離宮から追い出して、扉を閉めた」


 そうやって、今のこの状況が出来上がったのか。

 いろんな人間の、いろんな思惑と臆測が入り組んで、それぞれが最善を目指したのに、うまく噛み合わなかった。

 たぶん、そういうことなんだろう。


「エルシェリア王女」

 驚かせないように静かな口調で呼んだら、俯いていた彼女は顔を上げてこっちを見た。

 少し幼ささえ残る、ものすごく綺麗な、ただの素直な少女だ。


「春の女神の言う通りだ。望まないことはしなくていい。あなたは選んでいい。他の誰かの事情で自分の意思を抑えつける必要は、もうありません。俺はそれがどんな選択であっても、支持します。国を再興してもいい。ここから出て、クラインで、ニルスとシェリと暮らしてもらえるなら、それも歓迎します。その他の希望があるなら、それでもいい」


 エルシェリア王女は途方に暮れたような表情だ。

「いいの・・・?」

 民を捨てても。自分勝手にしても。

 後にそんな言葉が続いてるような気がした。


「いいんです。それを責める権利は、誰にもない」

 王家が持つその色を持たずに生まれた。ただそれだけのことで、幽閉された。

 顧みられることもなく、教育も施されず、放置されて。


 むしろ王家にさえ生まれなければ、こんなことにはならなかった。

 その王女が今、自分を取るか民を取るかの選択で迷っている。それはもう、奇跡だと思う。

 ニルスとシェリが側にいて、他者を思う気持ちを知っているからこそ、起こっている奇跡だ。


「どうしてあなたは、私にそこまでしてくれようとするの?」

 言って、エルシェリア王女は少しだけ首をかしげた。

 それ、シェリにも聞かれたな・・・

 俺はあの時とは違う答えを返した。


「単なる利害の一致です。ふわふわした親切心でも、仁徳でも何でもない。俺は結局、自分のために動いている。だからあなたも、自分のしたいようにすればいい」

 嘘は言ってない。俺はシェリと歩いていきたい。その延長線上で、ここにいる。


 俺の言い方は伝わりにくい、とセドリックに言われている。突き放した言い方だとか、冷たいとか、また誤解されてしまうかもしれない。まあ、それでもいい。自分のために動いていいんだと、それが伝わればいい。

 

 エルシェリア王女は考え込むようにうつむいていたが、口角を上げて、俺を見た。

「ありがとう。決めたわ」

 吹っ切れた、とまではいかないが、さっぱりした表情だ。


「聞きましょう。セドリックも来てくれ」

 俺たちはエルシェリア王女を囲むようにして、床に座った。


***


 新王が()った。

 春の女神の加護は、これで復活した。はずだ。

 再び閉ざされていた離宮の扉を、春の女神に願って開けてもらう。


 外で何とか扉を開けようとそこにいたんだろう、すぐに複数の人間が足音をさせて入ってきたのがわかった。

 最初にこの部屋に入ってきたのは、俺の知らない男だった。

「王女殿下」


 男はそう言って、脇に立ってる俺とセドリックには見向きもせずに、床に座ったままのエルシェリア王女に近づくと、跪いた。

「雪が、やみました。今外では、陽が射しています。加護が、戻ったと推察いたします。民を代表して、偉大なる神の愛し子に感謝を」

「私じゃないわ」


 エルシェリア王女が男の口上をぶった切った。

 この男が、ウィリアム・バートンか。俺はきょとん、としている男の顔を眺めた。

 見定めないとな。

 ウィデルと、俺の将来がかかってる。


 後からゆっくり歩いて入って来たセインとロザリンド様と、目が合う。

 セインが口角を上げて、うん、とうなずいた。

 全然心配してなかったよ、みたいな感じに、ちょっといらっとする。


「ですが王女殿下。加護は確かに」

 バートン(たぶん)が言い募るが、エルシェリア王女は軽く首を横に振って、俺に視線を向けた。

「この人が、ウィデルの新王。私じゃないわ」


 バートン(たぶん)は、初めて俺に気付いたような顔をして、立ち上がった。

「あなたは」

 いやこの状況で聞くか? わかるだろう。

 思ったが、嫌な予感が頭をよぎって、一応名乗った。


「ラルフ・ハリントン」

「!」

 バートン(たぶん)は、反射的にセドリックの方を向いた。

 英雄こっちじゃないの? 感がひしひしと伝わってくる。

 やっぱりか。


 セドリックの方が、ちょっと目つきがきついからな。

 どっちがウィデルで認識されてる『英雄』かってなると、こっちになるんだろうな。

 あー。また逆・顔問題。


「ウィリアム・バートン侯爵か?」

 俺は、敬語で話さないことにした。一応というか、現時点俺は今、ウィデルの新王だ。

 押し負けるわけには、いかない。

「・・・名乗り遅れましたこと、お詫び申し上げます。ウィリアム・バートンにございます」


 バートン(やっぱり)は、立ったままではあったが、胸に手を置いて、略式の礼をとった。

 俺が「新王だ」と勝手に主張してるならまだしも、エルシェリア王女が言うんだから、って感じかな。

 セインがこっちに歩み寄ってきた。


「聞いているかもしれないが、ウィデル王家は(加護)を失って逃げた。今勾留されている。暫定政権を取り仕切っているのがバートン侯爵だ。ああ、ラルフが新王に()ったんなら、だった、というべきか」


 何をやって見せてくれるのか、わくわくが止まらない、みたいな顔で言うの、やめてくれ。

 あと、さりげにバートンに「お前はもう『前トップ』なんだ」と圧をかけるのやめてくれ。

 こっちは人生かかってるんだよ。

 内心でため息を押し殺した。


「エルシェリア王女に、おおまかなことは聞いている」

 セインとバートンの間くらいのところに視線をおいて、俺は話し始めた。


「俺も、神の愛し子だ。加護神は違うが、春の女神と話をすることはできる。春の女神と盟約を交わして、ウィデルの加護を得たのは俺だ。エルシェリア王女には、今後クラインで暮らしていただく」

「な・・・っ!」


 バートンは思わず声に出したが、それ以上の声と表情は抑えた。

 さすが高位貴族。と言いたいところだが、困惑と怒りが、ちょっとだけ隠しきれてない。

 クラインの『英雄』が、まさかウィデルの新王になり得るとは思ってもいなかったんだろう。


「そう願ったのは、私。ユン様とラルフは、それを叶えてくれただけ」

 強い瞳で、エルシェリア王女はバートンを見上げた。

 ちょっとかっこいい言い方をしてくれているが、実情は、なかなかにもめた先の結果だ。

 それは俺とエルシェリア王女が、ではなくて、俺と神々が。

 もちろん、そんなのはおくびにも出さないが。


「そもそもが、本当はエルシェリア王女がここにいるはずがない。まさかその責任を、あなた(暫定政権のトップ)はウィデル王家におしつけてうやむやにするつもりか?」

 エルシェリア王女の追い風に乗っかって、俺もたたみかけた。

 俺、一応その責任追及でここに来たことになってるし。


 書面上、エルシェリア王女は(クラインの『英雄』)の妻なんだよ。戸籍的には、クライン国民。

 エルシェリア王女はウィデルの所有物、みたいな感覚でいられるのは、筋が違う。

 シェリ(身代わり)を送り出してくれて、俺個人的には感謝しかないが、だからって、それが許されるはずはない。ウィデル王家(前政権)が倒れたからといって、国として偽ったことへの責任を免れるわけもない。


 というか。

 今、ウィデルの責任者(国王)、俺なんだが。

 誰かに、セインあたりにつっこまれるんじゃないかと思ったが、セインはわかってそうな顔をしつつ、黙っていてくれた。

 バートンが動揺してる今のうちに、早く話を進めよう。


「エルシェリア王女は今筋力が落ちていて、立てない。床は冷えるから、場所を移して今後の話を」

『エル。想い人が来ている』

 協議の場をセッティングしようとしていた俺に、春の女神の声が被さった。いや、被さったのはエルシェリア王女と俺だけで、他のみんなには聞こえていないが。


 想い人。ニルスか。

 暴走したか? 待ってろって言ったのに。

「セドリック。ニルスが来ているようだ。頼む」

 俺が隣のセドリックに耳打ちすると、セドリックは聞き返すこともなく早足で部屋を出て行った。


 たぶん、暫定政権の兵が離宮の外にいるだろう。そいつらにつかまるならまだしも、傷つけられるのは困る。うちの近衛もいるだろうが、セドリックに行ってもらった方が話が、いや、手が早い。


 実際、怖いくらいに早くニルスはやって来た。

 殺ってはないよな? 大丈夫だよな? セドリック。

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