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英雄にされた俺と、隣国の妖精姫の事情  作者: 穂高奈央


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2. 対価の支払い ①

 物心ついた時には、もう家は没落して爵位は取り上げられていた。だから貴族の子息だった記憶は、俺にはひとかけらもない。

 両親も早くに亡くなり、食べていくために、俺は軍に所属した。

 それは、当時の警備隊の隊長に、人売りに連れ去られそうになっているところを助けられたのがきっかけだった。


 浅葱色の髪に、紫紺の瞳。珍しい色合いに加えて、どうやら俺は顔の造作がいいらしい。

 助けてもらった時に、街中でふらふらしていたらまた狙われる、と、当時の警備隊長ブレットに、軍の入隊を勧められた。


 軍では、訓練に参加すれば衣食住が保障される。給料もつくし、自衛手段も身につけられるから、と。

 ただ、男が圧倒的に多いその場所で、俺は常に安全ではなかった。女性がいない場所では、キレイな男はその代替品として通用するらしい。


 (貞操)を守るために起こす数々の問題行動(殴り合い)に、責任を感じたブレットが俺を引き取ってくれた。

 軍に所属することは変わらないが、ブレットの家で、俺は寝起きすることになった。


 その家でブレットは、いろんなことを俺に教えてくれた。

 最低限のマナーや、生活習慣としてあった方がいいこと。

 ブレットはもともと軍の所属だったらしく、野営の極意を教えてくれたり、たまには手合わせなんかもしてくれた。

 ちょっとした兵法なんかも、習った。とにかく生き残れ。それだけでいいんだ、と。

 

 そのおかげもあってか、俺は気が付いたら小隊の隊長になっていた。

 セドリックは、その副隊長だった。セドリックは伯爵家の次男だが、家を継ぐわけでもないからと、軍に所属していた。


 軍では役職がすべてだ。貴族であるなしに関わらず俺が上官だったが、それでも貴族が強い風潮の中、セドリックは俺のことを一度も貶めたりはしなかった。もちろん、襲ってもこなかった。付き合いが長いせいもあるかもしれないが、それは希少で重要なことだった。


 ある日、戦争が勃発した。

 緊張状態ですらなかった隣国ウィデルが、突然クラインに攻撃を仕掛けてきたのが始まりだった。

 最初は浮足立っていたクラインも、第二王子フォルセイン殿下の指揮の下、統制がとられると少しずつ有利に傾いていった。


 下っ端小隊で、最前線に向かわされた俺は、部下で仲間の隊員に、生き残ること、一般市民を守ること、敵を欺くことを重視しろと言った。ブレットがいつも言っていたからだ。とにかく生き残れ。それだけでいいんだ。


 その中で、いくつかとった策が功を奏した。

 流したニセ情報に攪乱されて、指揮系統が使いものにならなくなったウィデルは、後退を余儀なくされた。

 最前線が元の国境に戻ったところで、こちら(クライン)に攻め込まれる前に、とウィデルは敗北宣言をしてきた。

 急に始まった戦争は、急に終わった。


 その期間は短かった。でも、多くのものが失われた。

 その復興のシンボルに、希望の光にと、王家の意向で俺は英雄としてまつり上げられることになった。

 否応なしだ。王都に帰ったら、孤児で庶民の一小隊長は勝手に英雄になっていた。


 まず爵位が戻されて、子爵位と、王都に庭付きの屋敷が与えられた。英雄手当込みでそれなりの給料も出されるようになったからには、家の管理はもちろん、体裁を整えなければいけなくなった。


 俺には血縁が1人もいない。物心ついた時には家が没落してたから、伝手もない。

 家を与えられたからにはブレットの所にもいられなくなった。消沈していると、ブレットはメイド兼侍女として、コニーを紹介してくれた。ブレットの所にいる、通いのメイドのマーサの娘さんだった。


 さすがに「この家にずっといていいんだぞ」とは言ってもらえなかったが、ブレットは俺を英雄扱いすることもなく、たまには顔を出せと言ってくれたから、とりあえずはそれでいい。

 ただ、まだコニーしかいない。どうしようか、と思っていたところに、セドリックが「俺を雇え」と言ってきた。


 その頃には、俺は軍を辞めていた。 

 英雄扱いされた俺は、役職が爆上がりした。人間関係が難しくなり過ぎて、軍にいられなくなって、辞表を出した。有事には手を貸すということを条件に、それは受理された。

 副隊長だったセドリックも、同じような道をたどったらしい。


 セドリックは空気が読める伯爵子息だからやっていけそうだが、本人曰く「めんどくさくなった」。

 まあ、気持ちはわからないでもない。

 それで俺のところに来るのもどうかと思うが、俺としてはありがたかった。

 執事として、働いてくれることになった。


 料理人と庭師が見つからないが、家にいる人数はまだ3人。

 しかもコニーは通いだ。

 野営時の料理くらいしか料理スキルはないから、街に食べに出たり屋台ものを買ったりして、セドリックとなんとかやり過ごしていた。庭もまだそれほど手入れは必要ないから、時間があいたら雑草でも抜くかくらいの気持ちで、目の前にある手続きやら何やらをこなしていたら、王家がまたぶっこんできた。


***


 軍を辞め、とりあえず生活環境を整えるために尽力していた俺は、1日中書類と向き合っていた。

 王家からぽんと屋敷と爵位を渡されたものの、それに伴う権利やら税金やらの手続きは、自分でやらないといけない。書面を書いては出しに行く。書面を書いては出しに行く。それを繰り返していた。

 セドリックがいてくれて助かった。俺には、何の手続きが必要かもわからなかった。


 茶会やら夜会やらの誘いも多く来るようになっていたが、正直そんな暇はどこにもない。

 平凡な俺の一体何が聞きたいのかわからない。それとも呼び出して、庶民の成り上がりを嘲笑いたいんだろうか。暇があったとしても、怖くてとても応じられない。


 信じられないことに、縁談の話もやけに来るようになっていた。

 断りの返事を書くのにも手を取られるから、顔と名声目当てで興味本位に送りつけてくるのは本当にやめてほしい。

 


「今日の書簡だ」

 執務室。

 いつも通りそう言って、セドリックが差し出した書簡の束の一番上には、王家の紋が入った仰々しい封筒が乗っていた。


「燃やしといてくれるか」

「いいのか、後悔するぞ」

 テンションがだだ下がった俺に、セドリックが怖ろしいことを言う。俺はしぶしぶ封筒の中身を確認した。


 それは、第二王女との婚姻の打診だった。

「いや無理すぎるだろ。陛下はご存じなのかこれ?」

 署名は、第二王女自らのものだった。国王陛下名義じゃない。

 止めろよ、側近。


「当然知ってんだろう。どうせ第二王女だし、英雄と結ばれればそれなりの美談になる。陛下からだと命令になるが、第二王女からだとラブレターだろ。国民はこういうの好きだからな」

 どうせ第二王女。セドリックの言い方はひどいが、あながち的外れでもない。


 すでに降嫁した、才女として知られた第一王女と違って、第二王女は恋多き女性として有名だ。

 王家としても、すでに高位貴族に煙たがられて相手の決まらない第二王女が英雄と婚姻を結んでくれれば、厄介払いできる上に美談として国民にもてはやされる。ちょどいい、ということか。


「断る方法はあるか?」

 普通に考えて、王族からの打診を、昨日今日爵位をもらったばかりの元庶民が断れるはずがない。

 セドリックはふむ、と5秒くらい考えた。


「セインを頼るか」

「セインか・・・」

 セドリックの出した結論に、俺は机に突っ伏した。


 セインとは、戦時中に関わりを持った、第二王子フォルセイン殿下だ。

 フォルセイン殿下は総指揮をとりつつ前線にも単独で足を運ぶ、フットワークは軽いが配下泣かせの人だった。

 配下は泣いていたが、俺達軍の下っ端にはありがたい指揮官だった。

 現場の声を聞く耳を持っていた。少し、いやわりと、クセは強いが。


「対価がこわい・・」

 俺がつぶやくと、セドリックは肩をすくめた。

「近衛になれ、くらいは言ってくるかもな」

 

 フォルセイン殿下は、殿下だが、誰とでも対等に話す。

 そして取引も対等だ。何かを望めば必ず対価を求めてくる。

 ちなみに近衛になれ、はもうすでに言われたことがある。

 俺が提案した策を、軍務会議で通してもらう見返りに。

 別の対価を支払ってそれはなんとか逃れることができたが、ここに来てまさかのアゲイン・・・。


「セドリック」

「俺はお前のために人身御供(近衛)にはならん。もう断ったし」

 お前もか。もう言われてたか。そして断ってたか。

 セドリックがもし近衛になりたかったら、ちょうどいいと思ったのに。


「でもそれ以外に方法を俺も思いつかない。セインに面会申し込みをしてもらえるか? 2名で」

 俺は肚を決めた。第二王女との結婚が回避できるならたいていのことは、呑める、たぶん。

「わかった。・・・2名?」

 セドリックは片眉を上げた。


「お前も来てくれセドリック。セインはその方が喜ぶだろう。あと1人で行って、帰って来られる気がしない」

「・・・」

 このヘタレが。っていう視線が俺に落ちる。心のどこかがぴりぴりするが、これで生存率が上がるなら安いもんだ。


 面会申し込みは、最短だと思われる翌日に通った。

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