人生林檎
駅のホーム、甲高く響く女性の悲鳴。
連想させられるのはやはり人身事故だろうか。
とある母親は息子の目を手で覆い、登校中の学生は腰を抜かしてたりスマホで動画を撮っている。
混乱に愉悦を織り交ぜたような光景。
そんな現場に出会した僕は一人でに人間鑑賞を楽しんでいる。
趣味と言われればそうかもしれない。けれど、それ以上にこの僕の行動は一種の生き方と言えるのだ。
様々な人間を見ては勝手に妄想して、身に付けている物や癖、年齢や性別を確認する。
僕はそうしている時が一番好きだ。
「誰か、誰か鉄道警察を呼んでくれ!!」
また一人、叫ぶ者が居る。この人は正義感に溢れていそうだ。
このような状態の中、冷静に判断して行動に移す。そうそう出来ることではない。
もしかしたらこの人の人生の生き方は、堅実で綺麗なのだろう。
4等分にカットされ、皮は薄く切られている。それに少し角ばった形をしていそうだ。
「あぁ、面白い♡」
僕は頬を片手で包み、心から漏れる感情に酔う。
やはり人間鑑賞は止められない。
少し語るが、僕は人生を林檎として認識している。
例えば、有名なモデルがいたとしよう。その人は自分の美しさ一本で食って行けてる訳だ。
それを林檎で表すと、まるで芸術作品かのようなに切られており、優雅に専用フォーク等で食べている。
そう解釈出来るのだ。まぁ、普通の人からしたらおかしいと思うかい?
だけどね、僕はこんな感じで人を観察してどんな林檎の食べ方をしているのかを考えるのが、楽しくて面白くて堪らないんだ♪
今だってそうだよ。
飛び込み自殺をした男は一体どんな林檎の食べ方をしていたのかな?
豪快にかぶり付いてたけど、中途でゴミ箱にでも林檎を捨てちゃったり。
僕は別にそれでも良いけどさ、何かつまんないよね。否定はしない、でも肯定もしない。
だって、その男のしてる行動は林檎を無駄にしてるんだもん。
僕なら最後まで堪能するなぁ。皮もちゃんと食べて、種も撒いとくんだ。
そうすればさ林檎が無くなった後も退屈しなくて済むじゃん?種は未来なんだよ。
育てれば大きくなって、新しい実を産む。
あぁ、凄く愛らしいんだろうな。凄く可愛いんだろうな。
「⋯⋯⋯それに美味しいんだろうね♪」
想う未来を想像しながら小声でそう呟く。すると遠くから足音がする。
鉄道警察の方々がいらっしゃったようだ。
僕は、そそくさと黄色い線の外側へ。もっと外側へ行く。
そして懐から出したスマホを慣れた手つきロックを解除した。
真っ先に見るのはとあるネット掲示板だ。よく事件等の話題で持ちきりの、一定層から人気のある掲示板。
サイトをクリックして、今日はどんなものかを見てみる。
⋯⋯⋯⋯やはり。
でかでかとスレタイに書かれていた。
〜〜〇〇県✕✕市△△駅の多発している人身事故。事件性あるくねwww?〜〜
匿名 さん 20247/9 7:12
こうも飛び込み自殺起きるもんかね?
匿名 さん 20247/9 7:12
一ヶ月で10件以上だろ。それも同じ所で
匿名 さん 20247/9 7:12
✕✕市ってそんな治安悪いの?
匿名 さん 20247/9 7:13
↑いや、確か普通の筈。俺も行ったことあるけど、皆優しい感じだぞ
匿名 さん 20247/9 7:13
事件性の匂いがプンプンするぜぇ
匿名 さん 20247/9 7:13
マジでこれ事件だよな。ここ最近急激に増えてるのも相まって
匿名 さん 20247/9 7:13
警察は何してんの?防犯カメラとかもっと付けろよ。市民の命守ってなんぼの仕事なのにさ
匿名 さん 20247/9 7:14
これだから□□泥棒は
匿名 さん 20247/9 7:15
おいおい、税金 泥棒は規制ワードかよwww
匿名 さん 20247/9 7:15
犯人はとっとと捕まってくれ。それで4刑になれ
匿名 さん 20247/9 16:44
結局は犯人は現場に戻ってくんだよな。そこのところを取り押さえれば良い
────プツン
僕はスマホの電源を落とした。
いや〜、最近は皆鋭いなぁ。困っちゃうよ。
「まっ、別に良いけど♡」
こうした人間鑑賞もたまにはね。言葉の主語や口調を見るのだって少し楽しいから。
だけど、一番はやっぱり現実。
リアルタイムの方がより妄想が膨らむし、特徴とか確認し易い。
他人の林檎の食べ方、これを想像出来る現実にはネットは及ばないよね。
僕はスキップのような歩き足でそう思う。
でもそれだと刺激が足りないって感じる時が偶にあるんだ。
────自分の林檎だけじゃなくて、他の林檎も食べてみたい。
ある時ふと思った。そして実行してみたんだ。
そしたらビックリ!もう幸せと楽しさと面白さで心が満たされていくんだ!!
まるで薬物みたい。
僕は他人の林檎の食べ方を想像するだけじゃ飽きちゃう身体に成った。
「う〜ん♡美味しい♡」
何処からか出した林檎にかぶり付いて言う。
少し果汁が多過ぎて、頬に飛び散った。
着ている服の袖でそれを拭き取るが、当然出来やしない。
───僕は電車の車窓には鉄臭い紅い液体が飛び付いたのが見えた。