19話 気晴らしの夏祭り
そうか。葵その時から交友関係は広かったのかもしれない。私より社交的で人を笑顔にすることが得意だったようだ。あんなに一緒にいたはずなのに、そういう部分はあまり見えてなかったのかもしれない。
「白夜?私があなたを追いかけていた時のこと覚えてる?」
白夜はPCで何か課題をこなしながら「何だっけ」と呟いた。
「あなたが中学生の頃に急に髪を短く切った日があったでしょ」
「いつの話?ってか僕のことつけてたの?」
「あっまずい知らなかったのか。あっでも途中までだからどこにいったのか知らないんだよ」
「ふぅ〜ん」
白夜が手を止めてこちらをジトっと見てくる。
「ごめんごめん。あっでも髪切ってからの方が告白される数多かったでしょ」
「はっ?」
何でそんなこと知ってるのという目でこちらを見てくる。
「いや、白夜人気だったんだよ。特に私達の学年で知らない人いなかったかも」
中学生の2つ上の先輩はどこか大人びて見えた。その頃から身長も高く目立つのに顔立ちが綺麗で私達の学年ではアイドル的存在となっていた。親が議員ということもあり男子ですら知っているほどだった。
「はいはいそういうのいいから」
そういうこともあり女性をあまり好んでいないらしい。
「白夜〜葵生きてるみたい」
長い前置きを挟み白夜に今日知ったことを伝えた。
「そう……」
彼は会えたのか?なんて聞いてこない。それが少し寂しくもあり優しくもあった。
送ったメールの返信は返ってこない。そしてあの日から木澄を見かけていない。彼に連絡をしようかと思ったが彩芽から言わせるとヒントはどこかにあるらしい。私は何を見落としているのだろうか。もう一度葵の日記を見返す。
白夜が唐突に「これ」と布を手渡してきた。私はそれをじっと眺める。
「この柄……」
「今日お祭りだから」
いつかのお祭りの時に葵が来ていた浴衣に似ていた。
「これどうしたの?」
「お祭りに行くからあっちで着替えてきて」
そういう白夜は部屋を仕切った。状況が読み込めない私はただ布を眺めていた。
しばらくして白夜が「着替えた?」と言ってきた。私はまだ布を手に持っていた。
「もしかして着付けできない?」
白夜はよくわからない心配をした。確かに記憶には薄いが、中学生の頃は調べながら葵に着付けたりしていた。だから調べれば多分着れる。でもどうにもお祭りに行く気分にはなれなかった。
「白夜〜?私お祭りに行く気分じゃないんだけど」
「……でももしかしたら何か思い出すかもよ。それに陽花ひどい顔してるし、着替えたらメイクしてあげるから……」
そこで白夜の声が途切れる。
「白夜何かあった?」
「……いやいいから早く着替えて。僕いつまで待たされなきゃいけないわけ」
急にいつもの口の悪さが戻ってきた。白夜にも心配かけているので仕方なくネットで調べながらその布に袖を通した。
「悪くないじゃん」
仕切りを開けると開口一番そう言い放った白夜。彼も黒と白のグラデーションがかった浴衣を纏っていた。いつもの気だるげな彼はどこへいったのか、見慣れていた彼の姿が少し大人っぽさを増した。
「メイクが違うのか?」
服だけでここまで印象が変わるだろうか。いつまでも幼いままの白夜ではないようだ。
「ほらそこ座って」
白夜に促され椅子に座ると慣れた様子で化粧水を肌に染み込ませられた。そのまま1ミリも笑わず真剣な表情で化粧を終えると簡単にヘアアレンジまでしてくれた。