17話 残された答え
「でもどうして彼女はそんな嘘をついたのかしら」
私は胡蝶に聞いた。
「別にポストに届いたでもよかったじゃない。それならそれを信用するだけだわ」
彩芽は確認したらバレる嘘をついていたことになる。そこには何かきっと理由があるはずだ。私達は何かを見落としているのだろうか。もう一度振り返ってみよう。そう思った矢先隣から叫び声が聞こえた。
「あぁーーーーー」
「どうしたの?」
「う〜んこの写真じゃ分かりづらいんだけど……」
そう言って胡蝶は1枚の写真を見せてくれた。
「えーっとだれ?」
「あーあなた海外で暮らしていたんだっけ?今注目されている女優の“メイ“っていう子よ。よく見て彩芽に似てるでしょ?」
「う〜ん言われてみれば」
髪の色も長さも瞳の色さえも違うのでどこかしっくり来なかった。
「絶対この子が彩芽よ」
胡蝶の謎の自信は一体どこから来るのか。携帯に着信が入った。
「琥珀くん彩芽さんと連絡取れた?」
「あっはい。そちらにも連絡入れたって言ってましたが、2時間後にいつものスタジオでとのことでした」
時計を見ながら胡蝶は落ち着かない様子でスタジオのなかを歩き回った。
「胡蝶さん落ち着いてください」
琥珀くんがイライラしている胡蝶を宥めようと声をかけるも胡蝶は歩かずにはいられないようだ。
約束の時間になっても彩芽が現れず胡蝶のストレスは爆発寸前だった。
「ボクちょっと外見てきますね」
琥珀くんが気を利かせてみに行こうとしたその時、外側からスタジオの少し重いドアが押し開けられた。
「あらみなさんお揃いで〜」
彩芽はいつもの調子で挨拶をした。
「ちょっと」
胡蝶が彩芽に詰め寄る。
「あら〜胡蝶はんどうしたの〜そんな怖い顔して」
「あんたのせいよ」
「わたし?何かしましたっけ?」
「とぼけなくていいわよ。この葵が残した最後の楽譜どうやって手に入れたのよ」
「あそこの受付の人から受け取ったのよ」
「嘘つかないで、受付の人は知らないって言ってたわよ」
「あら胡蝶はんは同じバンドのわたしじゃなくてスタジオの受付の人の言葉を信じるね」
彩芽が少し寂しそうな顔をした。
「受付の人が私たちに嘘をつくメリットがないのよ」
胡蝶が気にせず言い返した。
「あらあら〜」
どこかのん気に彩芽が答える。
「彩芽さんはこれを葵から直接受け取っているんですよね」
私は直接彩芽さんに尋ねた。彼女はにこやかにこちらに振り向いたが、その本心は見えなかった。
「あらあら〜それならどうっていうの?」
「ちょっとあんた」
胡蝶が今にも彩芽に殴りかかりそうだったのを琥珀くんが止める。
「胡蝶はん怖いわ〜」
その一言にさらに火がついた胡蝶は彩芽に問いただした。
「あなた本当は“メイ”って名乗っている女優よね」
「うふふ」
彩芽は顔を崩さずに微笑んでいる。
「そこまでバレてるなら仕方ないですね」
彼女はウィッグを外すと本来の艶やかな焦茶色の髪がサラッと顔にかかる。
「この姿では初めましてです。私は最近やっと名前が取り上げられるようになった女優の“メイ”と申します」
話声も変わった彼女の変化に1番驚いていたのは胡蝶だった。
「な……な……」
言葉が出てこず口がぱくぱくしていた。
「あらあら可愛いですね。バレると思わなかったんだけど、私もまだまだね」
「えーっとメイさんって呼べばいいんでしょうか」
私は呼び方に困った。
「彩芽が本名なので彩芽で大丈夫です」
「それで彩芽さんあなたは葵がどこにいるのか知っているのよね」
彩芽さんは静かに頷いた。
「ど……どうして今まで黙っていたのですか」
彩芽さんはどこまで話していいのか悩んでいる様子だった。
「これが葵さんとの約束なの」
「やくそく?」
彩芽さんは困った顔をして微笑んだ。
「あの子がいる場所をまだあなたには教えてあげられないの。いや私からは教えることはできないわ」
「ん、なん……で」
泣きそうになるのを必死に堪える。
「あなたには申し訳ないけれどこれは彼女が始めたゲームなのよ」
またしてもよくわからない単語が飛んだ。
「ゲーム?」
「はい。彼女はあなたに会いたがっているし会いたくないと思っています。だからあなたは彼女が残した手がかりを元に彼女を見つけ出すしかないんです。私はバレてしまったのでここで退場です」
「待ってどういうこと……」
「私から言えることは残された時間はあまりないということくらいです」
彩芽さんはもう一度鏡を見てウィッグを被り直すとスタジオの扉を開けて出ていった。