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15話 信用できない男と蝶の知らせ

 別れ際鴉さんはいつでも俺のバンドの演奏聴きにきていいからと彼の名刺を手渡された。

「木澄くん」

 私は静かに尋ねた。彼自信何か言われるだろうと思っていたようでこちらをみたいまま言葉を返した。

「どうしました?」

「君やっぱり葵の場所知ってるんじゃないの」

「いえ知りませんよ」

 彼はきた時とは違い、あっちこっちの建物を眺めうんうん頷きながら歩いていた。

「どうして鴉さんに辿り着くわけ?」

「それは言ったじゃないですか。鴉さんがオーブの曲を歌っているからって」

「本当に?本当に鴉さんは上げていたのかしら」

「……どういうこと?」

「鴉さんの声は低かったわ。でも葵の作った曲はそこそこ高音だわ。胡蝶さんですらキーが合わないと言っていたもの」

 私は声を落とした。

「彼には葵の作った曲は歌えないわ」

「ははは」

 木澄は笑い出した。

「ちょっとこっちは真面目に話してるんですけど」

「いえいえすいません。葵さんから聞いていた通りだなって思って」

「何が言いたいの?」

「彼女は謎解きが得意なのって」

 私は眉をひそめた。

「まぁ半分正解で半分は不正解だね〜」

 木澄は相変わらずニコニコしていた。真意を尋ねようとした時彼の携帯の着信がなった。

「ちょっとごめんね」と言うと彼は小さい声で誰かと話し始めた。しばらくして通話が終わると彼は「ごめん用事ができた」と言って私を残して去っていった。

「ちょっと」という声は数メートル離れた彼には届かなかった。


 帰る頃には原宿は少しずつ人が増えていた。私は葵が載せていた写真と同じお店を探し、同じ飲み物を飲んだ。しかしそれは私には少し甘すぎた。こんなものが流行っていたのかと知らない物に触れて葵の思い出と触れ合った気がした。


 私はバンドのメンバーに連絡をいれると歌っていない曲を含め歌詞カードを送ってもらった。

 この前のライブでは3曲しかやらなかったが、他にも曲があった。私はそれを1つずつ読んでいった。その歌詞カードはまるでラブレターのようだった。私が知っている葵はやはり葵なのだ。届かない手紙の代わりに歌に届けて想いを乗せてくれていたようだ。ポタポタとこぼれる雫が携帯の画面に落ちていく。

 どれくらいの時間すぎたのかわからないが、彩芽さんから直接話したいことがあると告げられた。時計を見るとすでに18時過ぎだったので私は翌日会う約束をした。


 翌日私は彩芽さんに指定されていた場所へやってきた。見るからに大きな家だった。ここは彩芽さんの家なのだろうか。疑問に思っていると後ろから声をかけられた。

「なんであんたがいるのよ」

 それはオーブのピアノを担当している胡蝶だった。

「あ、ちょっと待った。今メイクしてないから記憶から抹消して」

 運動靴にスポーツウェア姿の彼女。どう考えても運動をしてきた後のようだ。

「そこで待ってて」

 彼女の家は彼女同様どこか派手だった。赤を基調とした家具はお金があることを惜しげもなく現していた。待たされること30分。シャワーを浴びていつも通り派手なメイクをして戻ってきた彼女。

「それであなたはどうして私の家の前にいたのかしら」

 胡蝶から質問されるが私も聞きたかった。

「昨日彩芽さんから直接話したいことがあるって連絡があって場所がここって指定されたんだけど」

「あの女狐」

 胡蝶は舌打ちをしたが、仲が悪いのだろうか。

「ごめんなさいね取り乱したわ。彩芽さんは来ないと思うわ」

「そうなんですか?」

「まぁいいわ私に任せたってことはきっとあれについてね」

 そういうと彼女は席を立ってどこかへ行った。

「これどうぞ」

 彼女は楽譜を持って戻ってきた。

「これは?」

「楽譜よ」

 胡蝶は当たり前のことを答えた。

「葵が最後に残した楽譜と歌詞よ」

 私は静かにそれを広げた。


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