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14話 楽譜の正体

「おはようございま〜す」

 木澄から朝早く呼び出された。

「それでこんな時間になんのようなのよ」

 朝の6時を回ったところだった。

「せっかくなら葵さんのSNSに上がっている場所に行って見ませんか」

「……」

「もしかしたら何か見つかるかもしれませんよ」

 そう言ってまだ眠い目を擦っていた私は木澄に連れられ都内に来ていた。

「どうしてこんな早くから出かけないといけないのよ」

「まぁこの後の時間だと電車混みますからね」

 学生にとっては夏休みであっても社会人にとってはなんてことはない平日の1日。通勤ラッシュは思っているより疲弊する。

「えーっとまずは原宿ですね」

 1時間以上かけてやってきた原宿はまだお店もやっておらず閑散としていた。

「……えへへさすがに着くの早すぎましたね」

「……ほんとあなたは何がしたいの?」

 やはり木澄という人物の考えていることがよくわからない。

「それで本当の目的は?」

 木澄が嬉しそうな表情をした。

「おぉいいですね。その表情。これがミステリーものだったらオレが犯人役ですかね」

「物騒なこと言わないで」

 声の調子とは裏腹に木澄の目はどこか本気っぽさを感じ身震いした。

 

 原宿駅から歩くこと10分。私は木澄に連れられて人気のない道を歩いていた。

「もうすぐつくよ」

 木澄は淡々と歩き続けた。

「……ねぇこんなところに何があるの」

 本当に木澄が葵を攫った犯人なのではないかと、警戒しながらもついて行く。木澄は迷わず進んで行った。そして1つのコンクリート出てきた建物に入っていった。

 誰かが生活をしているのか、必要最低限の家具などは置いてあった。少しホッとしたのも束の間。急に後ろからガチャっと扉の鍵が閉まる音が聞こえた。

「えっなになになに?」

 木澄は私の前を歩いていたので彼ではない。彼に共犯者がいたのだろうか。私は木澄そして扉を閉めた人物を交互に見つめた。

 電気がついていないため、フードを深く被ったその人物の顔が見えない。静かにこちらへ歩いてくる彼へいつでも攻撃できるように少し身を低くした。


「初めまして(からす)さん」

 木澄がそのフードを被った人物に声をかけた。鴉と呼ばれる人物はそっとフードを下ろした。黒い髪に血色の悪い白い肌。目元にはしっかりとアイラインが引かれており、俗にいうビジュアル系バンドのような格好をしていた。彼はこちらを見るとズカズカと歩いてきた。しかしその見た目に気圧され後ろへ後ずさる。

 足元に何かが触れ私は後ろへ倒れ込む。しかしソファだったようで柔らかい感触が包み込んだ。

「あなたが紫ちゃんの親友ですか」

 近くで見ると化粧の濃さにより圧倒される。私はどうにか頷いた。


 木澄が鴉を私から引き離すと反対側の席に座らせた。そして木澄が彼を紹介した。

「彼オーブの曲を作っていた鴉さん」

 葵がどこからか持ってきていた曲を作った本人だという。

「どうやって見つけたの?」

 私は木澄に尋ねた。

「SNS見てたらオーブの曲を上げている人がいたから連絡を入れてみたんだ。そして今日ここで会うことになってたってわけ」

 鴉は木澄なんか興味がないというようにこちらをずっとみていた。

「俺紫ちゃんの友達に会うの楽しみにしてたんだ」

「葵が何か私のことをあなたに話してたってこと?」

「うん。曲を作るときに遠くにいる親友に向けて気持ちを伝えたいからって、あなたの話を聞かされた」

 見た目の割に優しく話す彼。

「だから実際に会って話してみたかったんだ。見た目は地味だけど歌声も良かったし紫ちゃんが好きな理由もなんだかわかるよ」

「はぁ……」

 まだよく理解していない私はなんと返事をしていいのかわからなかった。

「それで……。鴉さんは葵といつ知り合ったんですか?」

「2年前くらいです」

 意外にも長い付き合いのようだ。

「どうやって知り合ったんですか」

 質問を続ける。

「紫ちゃんから連絡があったんです。曲を作りたいから教えて欲しいって」

「それで教えるようになったんですか?」

「いや最初は知らない人だし断りましたよ。でも彼女引き下がらなくて1回私の歌声を聞いてから判断して欲しいって。それで彼女は何曲か歌った動画を送ってきました」

 鴉はPCを取り出すとその時の動画を見せてくれた。

「正直ギターを弾き慣れてない様子で歌も自信なさそうな感じだったのでもう一度断りました。ネットには曲を作っている人なんてたくさんいますからね。俺にこだわる必要なんてないし、その時まだ有名でもありませんでしたからどうして俺にこだわるのかわかりませんでした」

 彼は懐かしそうに微笑んだ。

「俺の作った曲に“紫陽花“って名前が入っている曲があって、それが好きだったから彼女は言ってました」

 私は葵がよく私の名前と葵の名字をくっつけると紫陽花になると言っていたのを思い出した。

「あなたと紫ちゃんで“紫陽花“でしょ」

「……はい」

 木澄も今気がついたとばかりに目を大きく見開いていた。

「彼女の作った曲よく聞いてみるといいよ。あなたへの想いを綴った曲が多いから」

「ありがとうございます」

 私はバンドの存在は知っていたし、曲も覚えたつもりだったが、曲名や歌詞を深く考えていなかった。帰ったらもう一度確認しようと思った。

「あなたは葵が今どこにいるのか知ってますか?」

 これはあった人全員に聞いている。鴉さんは驚いた様子で何かぶつぶつ呟いた。

「ごめん。最近連絡ないなとは思っていたんだけど、受験生だからかなってあんまり連絡しないようにしてたんだ。だからごめん。というか紫ちゃんに何かあったの?」

「あっいえ、ちょっと連絡つかなくて……」

 鴉さんは静かにそれでいてはっきりと言った。

「大丈夫だよ。きっと今はなんらかの事情で連絡できないだけなんじゃないかな。落ち着いたら君には絶対連絡をいれはずだよ」


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