13話 記憶に残る彼女
そう言えば昔って青いと何して遊んでたんだっけ?
小学生の時は私の家でおままごとしたり、ファッションショーしたりしてたっけ。中学生の頃は部活にも所属していなかったし、砂浜で遊んだり歌ったり、探索したりしてたのかな。
そんなに遠い記憶ではなかったものの、あまりにも近くにいすぎて何をしていたのか記憶にない。きっと当時の私たちには面白かったのだろう。
葵のSNSは最初の方は写真もないし、頑張るぞと意気込んでいるものが多かった。彼女の書いた日記と同様変わろうと努力をしていたようだ。しかしその後は日記とは違い努力の部分は記載されず。どこかキラキラした写真で埋まっていた。木澄が出会った葵も叫んでいたと言うのだから、SNSは明るい一面だけを載せ、誰も見ていない空にや日記には暴言や辛いことを記載して、バランスを取っていたのかもしれない。明るい部分と暗い部分そのどちらも同じく葵の一面なのだ。私といた時の葵は笑っていることが多かった。泣いている葵を見たことなかった……。
そっかぁ私も葵の全てを見せてもらっていたわけではなかったのか。
1番の親友ではあったが、知らない部分があることに少し寂しさを感じた。布団の上で転がりながら葵のことをただただ考えた。
ーーー
「陽花〜」
笑顔で大きく手を振る葵の姿があった。
私も嬉しくて大きく手を振りかえした。
短めTシャツにショートパンツ。
「葵似合うね」
私は結局自信がなくて履くことのなかったショートパンツを葵にあげた。
私より手足が長い彼女の方が綺麗に見える。
「えぇでも履いていくところないよ」
「そんなことないよ。履いていく場所がないなら私と遊ぶときに履いてきてよ」
普段は膝丈のスカートか体操服なのであまり足を出すことがなかった。
だから脚を出すことは少し緊張するのだ。細い足は羨ましく、太いと笑われる。女子は案外そういうところをよく見ている。
「陽花はこれ着てみたら?」
葵がクローゼットから引っ張り出してきたのは、奥の方にしまっておいた真っ白なワンピース。
「いや、でも」
躊躇する私をよそに「絶対可愛いから」私を信じてと言わんばかりのまなこでこちらを見つめてくる。根負けした私はそのワンピースに袖を通すと鏡を見てどこか違和感を覚えた。
当時の私は女性のお淑やかさというよりは、手や足が出るのが早いヤンチャな子であった。だからそのいかにも女の子っぽいワンピースを着るのがどこか抵抗があった。
「ほら〜やっぱり似合うじゃん」
そう言って笑顔で褒めてくれる葵。髪型アレンジして見たらとなれない手つきでアイロンで髪を巻いてみた。完成して髪を見て2人で大爆笑をした。左右のバランスが全く違かったのだ。
「アイロンって難しいんだね」
動画を見ながらやったはずなのに、全く違う仕上がりになった。その後も三つ編みにしてみたり、流行りのツインテールにしてみたり、パソコンで調べながら楽しんだ。
ーーー
ふと目をこすり。夢をみていたことに気がついた。それは寂しさを一気に運んできた。
本当にどこ行っちゃったのよ葵。
携帯で時計を見るとまだ朝の8時だった。琥珀くんから連絡が入っていた。
「本日お時間ありますか」
「私は何時から?どこで」と短く返した。すぐに返事が来て、図書館で会うことになった。
Tシャツの上からパーカーを着て7部丈のダボっとしたズボンを履いていた琥珀くんは会うなりぺこりとお辞儀をした。
「どうしたの?」
用件を聞くと、琥珀くんが「絶対に叫んだりしないでくださいね」と言うので、「大丈夫大丈夫」と軽く返事をした。
周りに人がいないのを確認すると琥珀くんは小さな声で話し始めた。
「昨日たまたま夜寝付けなくてトイレに行ったんですけど、そのときに施設長が誰かと話しているのを聞いたんです。施設長は『あの子は元気か』と言っていました。最近ここ1ヶ月以内で里親や養子縁組に入った人はいません。だからきっと葵さんのことなんじゃないかと思いました。そのまま会話を盗み聞きしていたのですが、『そうかそれは悔しいな』と沈んだ様子でした。そのまますぐに通話が終わってしまったので誰と話していたのかはわかりませんが、何か嫌な予感がしたのであなたに伝えなきゃいけないかと思って連絡しました」
「……何が悔しいんだろう。葵はどこかでもらわれる予定でもあったのかな」
「さぁその辺はボクは聞いていないのでわかりません。でももしかしたらどなたかと暮らしていて、うまく行かなかったんですかね」
「うーんどうだろうね。もしうまく行っていないのであれば、施設に戻ってきそうだけどね」
私は落ち着いていられなくなり、図書館を出ると葵が行きそうな場所へ向かった。
しかし日が暮れても彼女は姿を現さなかった。
葵を探すために戻ってきてすでに1週間以上経っていた。どうして彼女の行方を知る人はいないのか。どうして騒がれていないのか疑問しかなかった。
白夜の家に戻ると、いつの間にか帰宅していた彼はベッドで寝ていた。