12話 変わったものと変わらないもの
その日も海の写真を撮るために、砂浜まで歩いていた。
早朝4時。夜と朝が交差する時間帯。
日の出を待ちながら、いつもの場所に座った。
しかし陽が上がってくると見えていなかった影が形を帯びた。それが紫葵との出会い。
彼女はたぶん泣いていた。でも空が明るくなり始めると急に靴を脱ぎ出して海に向かって「クソやろー」「ふざけんな」とか暴言吐き出してて、それがあまりにも景色とのチグハグさが綺麗でシャッターを押したんだ。
彼女はしばらく叫び続けた後、疲れたのか砂浜に寝転んだ。
邪魔しちゃ悪いかとも思ったんだけど、そこでオレ声をかけたんだ。
「写真を撮らせてくれない」って。彼女はそこで初めてオレに気づいて「キモっ」って言ったんだ。
でもそこでオレも譲らなくて今まで撮った写真を見せてどうにか説得したんだ。
人物はあんまり撮ったことなかったんだけど、彼女は何か新しい景色を見せてくれるそんな気がしたんだ。
それからは何かある度に彼女に呼ばれて写真を撮った。
「そうだ。君葵さんのSNS知らないでしょ」
木澄に葵のアカウントを教えてもらった。木澄が撮った写真意外にもいろんな人との写真が上がっていた。彼女の高校生活はこんなに笑顔の溢れるものだったのか。
写真を一通り確認した後、少し申し訳ないなとも思いながらコメント欄と友達になっている人々を確認させてもらった。
取り留めて怪しそうな人物はいなかったが、ただの高校生にしては彼女をフォローしている人は多く感じた。
「木澄くんは葵の交友関係詳しくないの?」
「そうだねー。オレが呼ばれるときは写真を撮って欲しい時だったし、彼女が他の友達を連れてきたことはなかったなー」
「そう」
静かにしていた霧峰が声を上げた。
「暁さんと同じ塾に通っている先輩から連絡きました。話しかけたら私から彼女について話すことはないわと断られたみたいです」
「そっかぁ。まぁ仕方ないよね」
あまり期待はしていなかったので仕方ない。
「取り敢えず、切り替えてSNSを調べてみるよ。ありがとうね」
そう言って2人と別れた。
白夜に葵のSNSを見せた。
「ねぇ葵別人みたいじゃない」
本日も白夜が夕飯を作ってくれた。写真を見た白夜は意外とそっけなく答えた。
「そう。別に変わってないと思うけど」
「えっよく見てよ。スカートだって短いし、ネイルもしっかりしてるしこんな今時のものの写真あげてるんだよ」
「見た目だけの話をしてるなら確かに変わったんじゃない。でも笑い方も雰囲気も変わらないと思うけど」
「うーんそっかぁ〜」
白夜のいうことは一理ある。確かに見た目はだいぶ変化したものの目が細くなる笑い方は変わらなかった。
よく男性は女性のちょっとした前髪の長さだったり、メイクの変化だったりを気付けないきくがそういうことだろうか。
「……ね」
白夜が小さく何かをつぶやいたが写真をじっくり眺めていたのでよく聞き取れなかった。
「何か言った?」
「なんでもないよ。それより僕今日夜出るから戸締りしっかりしてね」
「えっ?どっかいくの?」
家に泊めさせてもらってから一度たりとも夜に家をあけることはなかったのに、大学の集まりでもあるのだろうか。
「それは別にいいけど。むしろ私ここにいて大丈夫?」
「はいはい。大丈夫だよ。それじゃあ危ないからあんま夜は外出るなよ」
そう言って長袖のパーカーを着込む白夜を見送った。