【短編詐欺注意】アポカリプス・ウォーカー~崩壊世界探索記~
第一話 ある男の死に際
ある病院の一室にてその男は死を迎えようとしていた。
傍らに看取る人もいない死に際に想う事は、己の人生に於ける後悔ばかり。
ブラック企業に務めてどうにか頑張った挙句に脳出血で倒れて入院して、ストレス解消の積りのギャンブルとソシャゲと食道楽で積み上げた借金を親に肩代わりさせ、家族全員から縁を切られた事。
人付き合いが疎ましく、友人はおろか、恋人・妻も作らなかった事。
脳梗塞の後遺症で半身に障害が残った後は積極性を失い、年金頼みに引きこもり、以降の人生に於いて何も為さなかった事。
両親が死んで一人住まいになった後は再び食道楽に走り、暴飲暴食の果てに再び脳出血を起こし死のうとしている自分の人生は何だったのか。
後悔と絶望の中で願う事は、若い頃に愛読していた小説の様に、この記憶を持ったまま転生する事なのだから実に救い様が無い。
次に意識を失ったらそのまま死んでいるのだろうか。もし生まれ変わる事が出来たのならば、次こそは…
そんな事を考えながら、男は気絶して、その肉体は二度と目覚める事が無かった。
第2話 新しい朝が来た
ふと目が覚めると、見覚えの無い景色が目の前に広がっていた。長年住んでいた自宅でもなく、最近お世話になっていた病室でもない…
ここは、どこだ?
起き上がって周りを見渡そうとすると、更なる異変が…
起き上がれない!?
右腕で身体を支えて上体を起こそうとしても力が入りきらないのか、身体が上がらない。腹筋で起こそうとしても同じ…
ここでようやく自分の体を見て異常に気付いた。
…俺、赤ちゃん化している!?
動かなかったはずの左手が動かせている事に感動して目から静かに涙が…
「オギャアァァァァァァァァ…」
連動して口から勝手に声が出る。恥ずかしい。おい、止めろ。
泣き声を聞きつけたのか、どこかから足音が近づいてくる。
暫くして、この部屋のだろうか、ドアが開く音がして、
女性が一人入ってきた。
俺を抱き上げてあやす様に身体を揺らしてくる。というかあやされているのか、俺。
おお、いつの間にか泣き止んでまた眠くなってきた…心地良い…寝る…スヤァ…
第3話 新しい日常様式
なんやかんやあって9年生き延びた。そう、生き延びた。
転生先はポストアッポーでミュータントやヒャッハーがそこらに生息している世界だったと言えば賢明な読者諸氏諸女にはご理解いただけるだろうか。
水食糧が比較的容易に確保できるダムを囲う有能な我が町が愉快な頭モヒカン族に年数回大規模襲撃を受け、ただいま現在今年5回目の襲撃中で、10才のガキ(オレ)も迎撃に駆り出されて時々ガトリングガンを撃ち込んだりするけれど、私は元気です。
ウォッ、バズーカで支柱が土台毎持ってかれた。シュワちゃん撃ちしなきゃ。バララララー
身体中に爆薬巻きつけた自爆兵らしきバイカーがこっちに来たのが見えたので、最後とばかりにモヒカンの密集地帯に弾をばら撒いておく。三密は解散してくださ~い。
極陽キャのモヒカン共が血煙になって千の風になったのを見届けた後、ガトリング銃を地面に置いて、手近に置いていた丸太を手に取り、突っ込んで来たバイカーをホームランして連中のボスが乗っていると思われる装甲車にお返しする。
弾着…今!
そこそこ派手に汚い花火が散った後、原型を保っていた装甲車からゴリラが降りてきた。
何か言いたそうな感じだったが、ゴリラ語の通詞が出来る人はこちらに居なかったので飛び掛かって脳天に丸太を叩きつけて黙らせた後で手下の生き残り共々千の風になってもらった。
これから防御施設の修繕で忙しくなるから君達の為に人生の無駄遣いはしたくないからしかたないよね。
「隊長さん、おつかれ~」
「おうカタル、。今回もおつかれさん。オヤジさん呼んでくるからそれまでお前さんの出来る範囲で設備直してくれるか?」
「りょーかい、資材は前回と同じとこ?」
「おう、詰所前の倉庫から必要なもん持ってってくれ。今度の棚卸ん時に差分は確認するから持ち出しの正確な記録はいらねーぞ」
「おう、さすが隊長太っ腹!一応メモはしとくんで後で確認ヨロ。」
「おうよ、終わったら事務方の誰かに渡しといてくれ。」
言質、ヨシ。
横領ナンザする気はないが予備資材のいくらかは実地技術研修の教材に使わせてもらおう。未来ある若者の成長の糧になるのだから資材も本望だろう……
運悪く生き残っていたモヒカンの頭を丸太でカチ割りながら修理の見積もりを付け終ると資材と工具箱を持って来てお仕事開始。
仕事半ばでメカニックのバイト先の工房長・通称:オヤッサンが現着。
「おう、カタル。今回はどんなもんだ?」
「オヤッサン、お疲れ様です。パッと見で分かると思いますが、1,3,9番陣地が壊滅状態で基礎から作り直し、33列4番防壁はエコー入れたら中がボロボロでした。こいつも一から作り直さんと次回は持たないですね。」
「あそこは前からやばかったがお前から見てもやばいとなるともう駄目だな。今度都市会に話を上げとくわ。最近の景気も悪かぁねぇだろうし予算出るだろ。」
「へ~い。所であそこにある装甲車なんですが……」
「ん?なんだありゃ?」
「バカ共のボスの足でしたわ。あれ、工房で引き取りますか?」
「状態を確認しないと何とも言えんが、お前、アレどうしたいんだ?」
「工房行きじゃなければオレが欲しいかなって思いまして…」
「オメエが欲しくて買えるってんなら買えば良いんじゃねえか?オレァ別に構わんぞ?」
「アザッス!」
後は隊長に話をつければ念願のクルマが……
「タイッチョさ~ん。お疲れの所すいません。今回の防衛の報酬の件で~すが~♪」
「何だ気色ワリい。いつも通り大物はこちらで査定して雑魚分は頭割りだが?」
「あっ、それは良いんですが。足出る分は払いますので鹵獲したブツの現物支給を頂ければ……」
「ん?何が欲しいんだ?」
「ゴリラが使ってた装甲車ですけど」
「あれか?クルマが欲しいんだったら工房で買えばいいんじゃないか?オヤジサンなら割引もしてくれるんじゃないか?」
「工房製がイヤって訳じゃないんですが、こう一から自分で手掛けた専用の一品物ってロマンがあるじゃないスカ。」
「言ってる事は分からんでもないが……まぁ、クレジット払えるならいいぞ。評価額は後日出るんで持ち帰りは今度な。」
「アザッス!」
第4話 それはそれとして
「それじゃ、今回も死者無しで襲撃乗り切った記念カンパ~イ!」
「「「カンパ~イ!」」」
今回の防衛に参加した知り合い連中とバーで打ち上げ開始である。
「いや~、今回も多かったすね~」
「ホント、死ぬかと思ったわ!」
「カタル、ボス撃破のボーナス出るんでしょ?何に使うの?」
「ああ、ヤツの乗ってたクルマを買おうか
と。」
「すげーな。あれか?前に言ってた冒険用に使う積り?」
「おう、長期移動用に何年か掛けてガチイジリしようかと。」
「まじで!?あれ本気で言ってたの?つーか、ミカちゃんどーすんの。てっきりお前あの子とくっついてオヤッサンの跡を継ぐんだと思ってたんだが。」
「工房はレイ兄が継ぐだろ。そもアイツとオレは付き合ってねーぞ?」
「うっそだろ、お前!?ミカちゃんと一緒になるから工房で仕事してたんじゃねーのか?」
「あそこで仕事してたのはメカニックの技術を身に着けるためだし、最初からオヤッサンにもそう言っているぞ?」
「ネズミ焼きお待たせしました~」
「あっ、シーラちゃん聞いて!コイツ普段ミカちゃんとラブラブオーラ出しまくっているのに付き合っていないとか抜かしたんだけど!」
「え~そうなの、カタルくん。あまり女の子を泣かせるような事しちゃだめよ?」
「してませんし。いやマジで。アイツ泣かせるような真似したらオヤッサンがクルマで怒鳴り込んで来て、主砲叩き込まれた後、スパナで頭ブン殴られますって!」
「「オヤッサンならやる」」「「な。」」「「わね。」」
分かり切った死亡ENDの回収作業なぞ出来るのはセーブ・ロードができるチート転生者様のお戯れの中だけである。
そんなものが無い…無かった(泣)凡人は大人しく知識と技術と筋肉の下積みをするしかないのである……
「ジャリジャリソーダ3杯おまたせしました~」
「あっ、俺です」「俺も!」「あたしも~」