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(二)-4
南青山の裏通りに位置する雑居ビルの三階に、その会社はあった。化粧品のベンチャー企業「イリヤスビューティ」だ。
輝彦はその入口で「申し訳ありませんでした」と大きな声を張り上げて腰を直角に曲げた。
「で、原稿の手配はしてくれたんでしょうね」
頭を下げる輝彦の目の前に入谷雅隆が立っており、ドスのきいた声で輝彦に尋ねてきた。
「す、すみません、まだです」
輝彦は慌てて答えた。
「まだじゃないのよ! うちはもうスケジュール立てて動いているのよ!」
「延期とかは……?」
(続く)