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(一)
「香川! 香川! 香川輝彦はどこへ行った」
オフィスのデスクで受話器を片手に持って怒鳴る番田栄治部長に、香川輝彦は名前を呼ばれた。
輝彦はちょうど自分のデスクで電話に出ているときで、返事ができなかった。
部長は輝彦の方を見て、電話をしているのを見るとさらに怒鳴った。
「おい香川! 電話している場合か! すぐにこっちへこい!」
輝彦は「あのすみません、今部長に呼ばれたので、一度切りますね。すぐに折り返しますので」と受話器に聞かせるとそれを電話器の受け皿に戻した。そして立ち上がると部長のデスクへ向かった。
(続く)