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1小節目「位置について」

「位置について」


俺は悩んでいる。

先月の席替えで隣になった野上さんがどうしても会話中に韻、つまりステルス韻を入れている気がするのだ。

ただ勿論そんなわけはないと思っている。

成績はいつも上位で、顔も良くて、そんな野上さんがステルスなんてするわけがない。

Z〇ebraさんでもない限り。

だから俺は一つの仮説にたどり着いた。

『野上小町は無意識で韻を踏む天才である』

…これはだいぶ核心をついている気がする。日本文学の音の響きを追求するあまり、無意識で韻を踏んでいるのではないか。

俺は一度左隣の席を見て、まだ野上さんが来ていないことを確認するとポケットからスマホを取り出してメモを起動した。

メモの最終更新の一番上。

『韻』

と書かれたタイトルのメモ。

俺はここに野上さんが今まで踏んできたステルスを書き記している。

これは初めて隣の席になった一か月前。


9/2 構字くん‐よろしく(ooiu)


国語の授業中に答えられず何故か野上さんにディスられた日。


9/16 才能‐無いよ(aiou)


『おい桜井、この文章において適切な語句はどれだ?』

『あ、えっと、3番です』

『違う。隣の野上。』

『1番です』

『正解だ。桜井、野上を少しは見習えよ?』

『はい…すみません』

『ねえ君』

『どうしたの野上さん』

『君、多分才能とか無いよ。』

『えっ』


小声で言ってきたのがより一層効いた。

肩を叩かれて横を見たら耳貸して?みたいなジェスチャーをしてきて、励ましてくれるのかと思ったら普通にディスだった。

…思い出したらまた傷ついてきた。


軽くため息を吐くと教室の前のドアから悩みの種、野上さんが入ってくるのが見えた。

さて、今日はどんな韻を踏んでくる?

楽しみでニヤついているのがバレそうなので背を向ける形で座りなおす。

背中の方から椅子を引いて座る音がした。机の上に何か置く音がすると、野上さんが話しかけてきた。


「構字くん、おはよう。教科書って今日はそんなに使わないよね?」


俺は頭の中で文章に書き起こす。

(おはよう、教科書…今日はそ…。3つ踏んでないか?)

3つ踏んでいることに気が付くと驚きで声が出そうになる。今まででも3つは無かったはずだ。

一度飲み込んでから平常心で…落ち着け俺、平常心だ。

「そーだよ。おはよう野上さん」

…変じゃなかっただろうか。俺は背を向けたまま返事を返して、メモに書き加える。


10/4 おはよう‐教科書‐今日はそ (ouao)


返事を返したのに返答が無かったので俺は野上さんの方を振り向いた。

野上さんは頬杖を付きながら窓の外を眺めている。

窓に反射する野上さんは、隣の席になって初めて見るような笑顔だった。

何処か嬉しげに見えるのは俺の気のせいだろうか?

しかし、やっぱり野上さんは韻を踏んでいる気がする。

メモを閉じると音楽アプリを開いて、耳にイヤホンをつけた。

ホームルームが始まるまで音楽でも聞いて居よう。

朝7時半の太陽は野上さんの頬を赤く照らしていた。

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