ペンネーム『聖女うさぎ』に俺は逢いたい
金曜の夜。いつもの時間にラジオをつける。
読書好きな彼女と毎週のように聴いていたラジオ番組を、今は一人で聴いている
ベッドに横になりながら聴くのがいつものスタイル。
番組宛へ寄せられたメールが読まれる。ペンネーム『聖女うさぎ』さんから。
『私には今、気になる人がいます。その人は朝のバス停でよく見かけるのですが、その人が読んでいる本が、私も好きな本で、とても気になって仕方なく、私全シリーズ持ってますよって自慢したくなります。そして、一ヶ月程前になるのですが「その本、面白いですよね」と等々声をかけてしまいました』
そのメールの内容に俺はいじっていたスマホを落とした。
俺が彼女と初めて会ったのは朝のバス停だった。
朝の混雑を避ける為に、早めのバスに乗るのが日課だった俺は、バスを待つ間に、その時ハマっていた小説を読んでいて、それで唐突に横から話しかけられたのだ。
「その本、面白いですよね」と。
同じだ。バス停も。本も。台詞も。
まさか「聖女うさぎ」は彼女なのか?
そんな期待を含んだ疑念も、一秒で打ち消す。
あり得ない。そんな訳がない。
俺が初めて彼女に会ったのは三年も前の事だ。つい一ヶ月前の出来事なんかじゃない。
それに、彼女はもう、この世にいないじゃないか。
床に落ちたスマホを拾う手に力が篭る。
仰向けになって目を閉じると、先程のメールの続きが聴こえる。
『それから一度もその人に会えていないのですが、また会えたら話しかけてもいいと思いますか? もしお二人が彼の立場だったら、どう思いますか? 引きますか?』
引かねぇよ。
嬉しかったよ。
「また、会えるからな。本屋でさ」
『聖女うさぎ』が彼女なわけないはずなのに、無意識にそんな事を呟いていた。
彼女と二度目に会ったのは本屋だった。弟に漫画を買っくるよう頼まれて入った近所の本屋で再会する。仕事の関係でバスの時間をずらしていたから、彼女と会う機会も暫くなかったんだよな……と、気づけば、いつの間に寝てしまったんだろう。時計の針は午後一時を指していて、半日以上も寝てたらしい。
コンビニへ行こうと階段を下りると、リビングにいた弟に呼び止められる。
「どこ行くの?」
「コンビニ」
「じゃ、ついでに漫画買ってきて。最新巻の31巻な」
弟の、その台詞を聞いた瞬間、俺は気付いた。
三年前と同じ事を繰り返している、と。
「本屋!」
俺は玄関を飛び出すと必死で自転車を漕いだ。
いる!
絶対に!
君に逢いにいく――!
実は、本編に書ききれなかったのですが、二人が出会うきっかけとなった本は、タイムリープのお話なのですよ。