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流星の舞う空

「よせっ、橘! オレだ、道明寺だっ」

「落ち着くのじゃ、ラク! 其方の声は届いておらんっ」

「うるせえっ! テメェの声が邪魔なんだよっ」

「アレは敵じゃ! テオドールなのじゃ!」

「ふざけんな! じゃあこの声はなんだ!?」


 完全復調した防護電柵をしかし再び苛むのはシャールが放つ光弾の雨あられ。

 つるべ打ちに放たれるそれをステゴロオー――落雁は躱すことなく両腕による防御により凌ぎながら容赦無い攻撃を加えるシャールに対し呼び掛け続ける。


 しかしシャールから返って来るのは唸り声や叫び声ばかりで、それはまるで獣の様であった。一号が上げた鯨の様な不気味ながら神秘的幻想的な音色とはまるで違う。

 その内ステゴロオーの防御と隼人楯をすり抜けた一発が腹部へと命中し、その威力に遂にステゴロオーはその場に膝をついてしまう。


 一撃をもらった腹部を押さえながら、息も絶え絶えに落雁は無情にも己に銃口を向けるシャールを見る。

 忘れるわけもない。“あの日”失った者たちの声である。

 毒嶋孝太郎に続き、橘六花までも現れた。

 これはどんな悪夢なのだと落雁はコクピットの床を殴り付ける。そしてステゴロオーも。


「孝太郎に橘……どうなってんだっ! どうなって……」

「以前のあの男の言葉を思い出せ、ラク。其方が蘇ったように、“あの日”亡くなった者たちの中にも蘇ったものがおるのじゃ。敵がテオドールを持っている以上、あり得ん話ではない……じゃが、ラク! あの男がそうであったように、もう其方の知っておる者たちではないのじゃっ」

「じゃあっ……敵って、ワケかよ……」

「っ……ラク……」


 徐にステゴロオーが立ち上がる。

 それはつまり落雁が立ち上がったということ。


 だがようやく立ったステゴロオーへと浴びせかけられる光弾。

 防御も間に合わず、防護電柵による軽減こそあるがそれでもステゴロオーの巨体は遂に仰向けに倒れてしまう。


 巨体を受け止めた地面が割れる。生じた地震に近くにあったビルディングの窓が揺れて音を立てる。

 そして落雁は目の前に広がる青空を見上げながら唇を噛み締めた。鈍い鉄の味を覚えるほどに強く。


 これは弔い合戦のハズ。

 突如現れたテオドールにより殺された者たちの弔い合戦。

 それを成すために己は黄泉から帰って来たハズ。

 だというのに、だというのにその敵こそが――


「……あんまりだろ、そりゃ」


 必死に呼び掛ける鹿子の声も遠く、見上げた空は清々しいほどに青く、そして高い。

 弱々しく呟いた声など薄雲よりもあっさりと青に掻き消え溶けて無くなってしまう。


 ――あんなにも好きだった空が今は少し、忌々しかった。


 だからだろうか、その空を駆け抜けて行く三つの機影を見ても彼は、落雁はなんの思いも湧かなかった。

 どうしてこんな事になったのか、そればかりが彼の頭の中をぐるぐると行っては来たり渦を巻く。


「見ちゃいられないねェ」


 ――大の字になり地面に寝そべるステゴロオーを見下ろしながら、空を行く三機の巨大戦闘機――メテオファイター。

 その赤い機体のコクピットでデミウスはその光景を見下ろしながら呟いた。

 しかしその表情は言葉とは裏腹に微笑を浮かべている。


 メテオレッドを先頭にブルー、イエローが並び続く。

 隊形は三角、ヤジリの形。

 それは三機編隊のメテオに於いての基本形である。


 デミウスはステゴロオーが対峙しているテオドール・シャールにも一瞥向ける。トドメを刺すべくそれは両腕の銃砲を合体させ、巨大な一つの大砲へと変えている最中。

 このままでは危ういとデミウスが呑気に構えていると、天蓋モニターに小窓が開きそこに黒髪のルカが顔を見せた。


「……本当に良いのですか?」

「仕方ないさ、一応アレの打倒を任されたのは俺たちなんだ。大将か、それか“総”大将は信用していないみたいだけどね」

「そ、それにあの人には助けてもらったから……」


 ルカへと苦笑しながら告げるデミウス。

 彼の言葉はもっともであるが、もし謀反を疑われでもすればただでは済まない。それを心配してから彼女の表情は晴れない。


 すると途中、二人の会話に割り込んで反対側のモニターに白髪のリタが映ると言った。

 ルカは彼女に対し何か言いたげであったが、デミウスはリタの方を見るとにっと笑い掛け指を鳴らす。


「そう、それだ! 結局はやっつけるにしても、借りは返しておかなきゃね」

「デミウスッ」

「まぁまぁ、鉄拳重機を相手取るならこっちだって全力で挑まなきゃならない。負い目があっちゃそうもいかない……そんなこともあり得るだろう。憂いの芽は摘んでおくのさ。ねっ、リタ?」

「あ、ありがとうございますっ! は、ハニー……」

「……まったく……」


 ほのぼのと笑い合うデミウスとリタを見てルカは呆れた溜め息を吐きつつも、メテオブルーに乗る彼女は改めて操縦桿を握り締め「やるならそろそろ動き出さないと間に合わなくなりますよ」そう二人に告げる。


「おっ、と……じゃ、行きますかっ」

「はいっ! リタ、行っきまーっすっ」


 そして操縦桿を切ったデミウスのメテオが真っ逆さまに降下を行うと、ルカとリタのメテオも遅れることなく隊形を維持したまま急降下。

 ヤジリが目指す先にあるのは砲筒を抱えたシャールである。デミウスの掛け声と共に三人の指が引き金を同時に引く。


 それぞれの砲口から射出された色鮮やかな光線の数々が大地へと向けて照射され降り注ぐ。

 絢爛さとは裏腹に、相当の破壊力を秘めたビームの雨に曝されるのは無論シャールである。

 奇襲を許したそれは立ちこめた爆炎の中から飛び出し、空を仰いでメテオ三機を窺い見る。どうやら直撃はしていないらしい。


「流石に当てちゃ面目ないからなっ」

「誰に言っているんですか、貴方は」

「反撃っ……きっ、来ますっ」

「ハッハァッ!!」


 YEEEHAWッ――本来ステゴロオーに向けられるはずであったシャールの砲撃は三機のメテオへと向けられ、虚空を引き裂き天空へと立ち昇った真紅の閃光はプラズマの瞬きを纏う。

 掠めただけでも甚大なる破壊をもたらすであろうそれを、しかしデミウスを筆頭に続く二人も見事に回避して見せる。


 散開すら必要としないメテオの迅速なる機動を前にシャールは翻弄され、空へと無数に光弾を放つ。

 しかしてその攻撃は虚空を射貫くばかりで三機の翼を穿つには到らず。逆に彼らの放つ閃光は的確にシャールの行く手を阻み、防御行動を誘発させることで足止めと注意を釘付けにさせる。


「……覚悟はあるのだろう、青年。見せてみろ、キミの覚悟っ」


 友すら討ち果たす、鉄拳重機の担い手としての覚悟を――三機が天空に登り詰める。

 デミウスの言葉はステゴロオーには届かない。落雁には届かない。結局の所彼のその独り言は願望なのだ。彼の、彼にそうあってほしいという願望。


 だからこそデミウスは落雁を助ける。しかし全てではない。


「フォーメーション、ウルフッ」


 ルカが告げる。

 その言葉を受けて先頭をルカ機に変え、天空に登るメテオを追って照射されたシャールのビームが追い付く間際に三機の編隊は花が咲くように広がる。

 そうやってビームをやり過ごし、それの周囲を伝うように急降下して行く三機は仕返しとばかりにビームを放つ。


 無論命中させる気のないそれはシャールの足元を射貫き爆炎を広げるばかりであったが、どういうワケか平静を欠いているシャールのパイロットである六花は機体に防御行動を取らせ攻撃手段と機動力を自ずと殺してしまった。


 そこへと降下を続け、あわやシャールと激突という寸前で散開したメテオ各機。

 シャールが硬直を解き、敵を追うがその姿は無い。

 周囲を頭部のセンサーで探索するが、メテオファイターが有する高度なステルス能力の前にはその効果は微々たるもの。


「奥手と見せておきながら、出す時は出すのが奥の手っ」


 シャールが別方向を向き、そこに死角が生まれた刹那、並び立つビルディングの合間を低空で更には高速で飛翔していたメテオレッド――デミウス機が飛び出しシャールを掠めて過ぎて行く。

 驚き動揺した六花によりシャールはデミウス機を執拗に狙うようにある。だがそうすることで更に死角は増える。


「私の考案した作戦に変な意味付けをしないでいただきたい! これは歴とした攪乱戦法……そんな不埒な思惑はありませんっ」


 そこに付け入るルカ機。シャールの狙いは彼女に移り変わる。


「わ、わたし……なんだかドキドキしてきちゃいました……」


 狙われたルカ機と入れ替わる形でやはりシャールの無数にある死角から飛び出してきたリタ機が今度は標的になる。


 そうやって三機が三機、入れ替わり立ち替わりでシャールの注意を掻き乱し、六花を疲弊させて行く。

 彼女の狙いは加速度的に乱雑になり、その内その時誰を、どの機体を標的に据えているのかさえ不明瞭になる。


 もはや六花の中にステゴロオーという当初の標的は無くなっていた。代わりに据えられたメテオファイターたちを彼女は夢中で追いかけ回し、そしてメテオたちは彼女を煙に巻く。


 そして――

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