“あの日”
青い空を見ながら歩いていると時折虚しい気分になる。
そんな時はいつも、自分の元にこの空から巨大なロボットが墜落してきて、中には可愛い女の子が居て、乗り込んで戦ったり女の子と楽しく過ごしたりするんだと夢想する。
行き交う人々。晴天と清涼の風が祝福するのは、そんな充実した人々のみであると思っていた。
だから快晴がキライだった。皆が、世界が活き活きとしているように思えるから、見えるから。
――こんな世界、壊れてしまえばいい。
空からロボットも、女の子も降ってこない様な、自分に優しくない世界などどうにかなってしまえばいい。
誰もが誰も、充実し幸せになれぬ世界なら、いっそみんな不幸になってしまえばいい。
自分を残して先に行く世界など無くなってしまえばいい。
――そんなことを願ってしまうからだろう。だからいつも、ロクな目に遭わない。
これが彼の、毒嶋孝太郎の不幸の、絶望の始まりにして世界の終わりの始まりであった。
迸った一筋の閃光が街を引き裂き、火の海へと変える。
彼の呪った世界が、彼の呪った人々の声を借り悲鳴を奏でた。
真っ赤に染まる世界。
その赤は炎の赤にして、血の赤。
裂けた大地と崩れた建物、千切れて散らばる赤い人々。
赤一色の光景を、炎の中に突っ立つ孝太郎はただ眺めていた。
煤に汚れ、熱気に炙られ赤くなって行く顔で彼はそして――嗤うのだった。
――これが“この世界”に於ける“あの日”の事件であった。