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七十九話 駅馬車の可能性



「ちょうど南側でもそろそろ増資を始めたいと思っていたところだったんだ。農業エリアでも、まだ忙しそうだったけどお金だけは預けてきた。あちらも落ち着いた頃にいろいろ動き出すと思うよ」


「おお! そうでしたか。それでは農業エリアに向かわせる商人も増強しておかないと。物資の確保も必要ですな。あちらの町長たちとも連携をとるとして、……また忙しくなりそうですな!」


 忙しくなるというのにフランチェスコは嬉しそうにしている。南神殿にいた商人たちの言葉は本当だった。


「商業エリアの増資も同じタイミングで始めるのは難しいかな?」


「いえいえ! あちらが動き出すにはまだ少し時間があります。ならば、こちらはその前に一刻も早く動き出したい。ますます必要性が高まりました」


 商人は神速を尊ぶ、ということか。


 まだまだ北側の発展が続いていて忙しないこの時期に、すぐにでも手を着けたいこととはどんなことだろうとマギは興味を惹かれた。


「じゃあ、俺も予定通り増資を始めさせてもらうとして、何かやりたいことがあるんだよね?」


「それです! いやあ、マギ様もお人が悪い。あのように素晴らしい計画を内緒で進めていたなんて。商人たちにも大評判ですよ! あの駅馬車です!」


「え? 荷車じゃなくて? もう走り始めているの?」


 どうやらマギが訪れてからの半月ほどですでに馬車による試験運行が始まっているらしい。


「一番街道の整備が進んでいるチカとトガリの間では、すでに一号車が動いております。近々、タテとチカの間でも運行が始まると聞いておりますよ。順次、西神殿・タテ間も、トガリ・ツチ間も走るようになるとか。今はまだ行きと帰り一日一本ずつだけですが、馬車の数が増えれば増便もされるらしいじゃないですか! これは流通の革命ですよ!」


 商人たちは馬車に荷を預け、身ひとつで次の町を目指せるので魔物や獣にも対応しやすいし、旅が格段に楽になったのだとか。街道が整備されたことで歩きやすいのもあるが、人通りが多くなっているので盗賊や山賊も最近は現れないみたいだ。


「マギ様の増資のおかげで、いろいろと仕事が増えていますからね。好き好んで盗みなどという危険を犯さずとも金を稼ぐ方法があるのですから、そりゃあ盗賊も減るでしょう。良いこと尽くめですな!」


 増資をして仕事ができたから職にあぶれる者が減る。安定して収入が得られれば余裕ができて物が売れる。商人たちが集まることで人々の暮らしが豊かになり町も発展する。さらに恩恵で盗賊などが減り治安も良くなっているということだ。


「はあ……。ハドルたち凄いな……」


「何をおっしゃる! マギ様のおかげですぞ!」


「いやいや、金と初期案を出したのは俺もだけど、そこから発展させてここまでのことをこんなに早くやり遂げたのは鉱山エリアの人々だよ。

 ……それで、この話と商業エリアの増資がどう繋がるんだ?」


 フランチェスコは姿勢を正し、マギの瞳を真っ直ぐに見つめると、少しタメを入れてからおもむろに語り出した。


「…………マギ様、我々にも駅馬車をやらせていただきたい」


 ガバリと頭を下げて続ける。


「幸いにも商業エリアの街道はそれなりに整っておりますから、工事に手間はかからないでしょう。馬車も既存の物を使えますから、始めようと思えばすぐにも始められます。ただ、これをどこかの商会にやらせてしまうと、その者に利益が集中してしまいバランスが壊れてしまう。独占などさせる訳にはいかない。大きな仕事となります。だからこそ町として、エリアとして、きちんと統制された仕組みを作って運営していかなければならんのです」


 フランチェスコの顔つきは真剣だった。耳聡く、目聡く、腰も軽い商人たちの中には、さっそくこれを真似た仕事を始めようと画策している者もいるのだろう。それらが動き出す前に、この仕事を公営として認めさせ、横やりが入らないようにまとめ上げなければいけない。だからこそ、あんなに急いでいたのだ。


「でも、今までの運び屋の仕事を奪うことにならないか? それに商業エリアは普段から街道を馬車が通るだろう? すれ違いの時に揉めたり、事故が起きたりしないかな?」


「だからこそです。商人同士ならばメンツが邪魔して、お互いに引くに引けず揉めることもあるでしょう。立場をかさに強引に力業に出る輩もいるのです。町が相手となれば違ってきます。街道の運行に関する条例を定めることもできます。公営ならば時刻表の管理もきちんとできます。時刻表の管理がきちんとしていれば、鉱山エリアのように必要な場所にすれ違い場を用意することもできます。運び屋の中から希望者を募って町で雇い入れる計画もできます。好き勝手に有象無象がこの商売に手を出してしまうと、それこそ問題が起きるでしょう。そうなる前に我々に託していただきたいのです」


 熱く語るフランチェスコが急ぐ気持ちも理解できた。問題が起こる前に対処できる方が良いに決まってる。だからマギは即答した。


「もちろんだ。商業エリアの町長たちなら上手くまとめ上げてくれると信じている。増資は毎回させてもらうから、よろしくお願いします」


 これは大変な仕事になると、任せることに頭を下げて恐縮するマギだったが、フランチェスコは面倒を押し付けられている気などさらさら持ってなかった。むしろ喜んでいる。


「マギ様、革命だと言ったでしょう? この駅馬車が農業エリアまで繋がる日を私は夢見ているのです。いつかは商人の動きに合わせることなく、物だけが駅馬車を使って動く日がやってくると思うんですよ。馬車から馬車へ。乗り換えられて進む商品の動きはどれだけ早くなることでしょう。私はワクワクしています。今までは日保ちの関係で売ることができなかった場所に、新鮮な魚が、牛乳や生野菜が届けられるかもしれない……。これはすごいことですよ! 駅馬車の可能性を考えると末恐ろしいほどです。商業エリアとして、鉱山エリアとも連携をとって、いろいろと考えてみたいですね!」


 瞳を輝かせて少年のように夢を語るフランチェスコの姿に、思わずマギも前のめりになった。


「……そ、そうなったら、ツチの湯治場で、湯上がりに冷たいミルクを飲むことも夢じゃなくなる……?」


『お風呂上がりにミルクが飲めるにゃ!?』


『いいですね!!』


『すごい話になってきたじゃない』


『バナナジュースもであるか!?』


 ルビーたちまで興奮している。


「それは良い夢ですな。マギ様の夢を叶えるためにも我々商業エリアはがんばらなければいけませんな」


 フランチェスコも笑顔で言ってくれた。




 すぐにできることではないだろう。

 でも、将来そんな日が来るかもしれない。


 それはマギを、みんなをワクワクさせるにはじゅうぶん過ぎる希望だった。





      増資 -300枚


 現在の所持金貨 1146枚

     町資産 7250枚分



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