七十八話 お願いごとと困り事
南神殿にも以前よりもずっとたくさんの商人たちが訪れている。マギの知る“以前”の方がおかしかったのだから、どちらかと言えば今の方が通常なのだが。
南神殿を取り仕切っているシスター・スコラは厳格な聖職者なので商人たち相手でもビシビシ指導が飛ぶのだが、そこには愛があるとかで農業エリアを担当する商人たちの中にはシスター・スコラファンも多いらしい。確かに、いつもキリッとしているシスター・スコラに優しく微笑まれたり、労いの言葉を掛けられたりすると妙に嬉しく感じるので、マギにも気持ちはわかる気がした。
そんな同朋でもある商人たちに現在の商業エリアの様子を聞いてみた。これから商業エリアでも増資の話を持ちかけたいと思っているので、エリアの忙しさが気になったのだ。
「私たち、農業エリアを相手にしている者は、ここが一番の書き入れ時なので忙しい時期ですが、町長たちともなると忙しさは年中変わりませんよ」
「いつもどこかしらに儲け話のアンテナを張りつつ、通常業務もこなしているからねえ」
「むしろ、忙しくて喜ぶのが商人ですからね。増資の話も喜びますよ!」
「そう思う? じゃあ、話してみるよ」
商人たちに背中を押してもらえたマギは少しだけ安心しながらサウザーへと足を運べた。
マギたちがサウザーの南門に着いた途端、伝令の門兵が町長の元へ駆けていった。何やら町長はマギの到着を待っていたらしい。
「今回は先に北から回って来ちゃったから。困り事でもあったのか、待たせちゃって悪かったなあ」
「話の内容までは知りませんが、心待ちにしておりましたね。すぐにお伺いすると思いますので、宿屋のお部屋の方でお待ちいただけますか?」
町に入る手続きをしてくれた兵士にもそんな風に言われたし、これはポーション屋に寄るのも後回しにした方が良いだろうと真っ直ぐ宿屋に向かったのだが、なんとフランチェスコはすでに到着して宿屋のロビーで待ち構えていた。
「おかえりなさいませ! マギ様! お疲れのところ大変恐縮なのですが、少しお時間をいただいてお話しをよろしいですか?」
あまりの動きの早さに何か問題でもあったのかと心配したマギだったが、フランチェスコの顔色からも口調のトーンからも困り事の雰囲気は感じ取れない。どちらかと言えば意気揚々として見える。
どちらにせよ、いつも忙しいフランチェスコがこんなに急いでいるのだからと一緒に部屋に通してもらい、メイドにお茶を淹れてもらって一息だけつくと、さっそく話し合いを始めた。
「こちらからも増資の件で相談したかったんだ。そろそろ増資を始めたいと思って。でもまずはフランチェスコの用件から聞こうか」
「そう! まさしく我々からお願いしたかったのもその件なのです! ゴボンッ、いえ、報告などもございますので二、三お話しがあるのですが……」
鼻息荒く、目を輝かせて前のめりになったフランチェスコだったが、自制心が働いたようでぐぐっとこらえた。どうやら商業エリアの増資はあちらも望んでいたみたいでタイミングは良かったようだ。フランチェスコも一番のお願いごとがすんなり通りそうなので興奮して声を上げてしまったが、お茶を一口飲んで落ち着きを取り戻し仕切り直した。
「ふう、増資についてはじっくり話したいので最後に回すとして、まずは納金と報告からですね」
キリッと姿勢を正したフランチェスコが金貨の入った袋を差し出しながら話は続く。マギも金貨を確認しながらも心持ちを真剣なものに変えて受け答えする。
「前回、おかしな動きをしている者がいると聞いたけど、問題は起きてない?」
「……はあ。悪い報告からになってしまいますが、ではその件から。やはり、一部の者の動きが不穏ですね。自分たちには勇者様の後ろ盾があると大々的に看板を掲げて、派手に動き出しています。どうやらその者たちで派閥まで作り上げているようなのですが、表立って悪い商売をしている訳ではないので取り締まることはできません。現在調査中ですが、詐欺や拐かしと思われる陳情も数件ありまして、関係性があるかどうかもまだわからないのですが……」
わざわざ並べて話すのだから、物的証拠こそ掴めてないけれど疑わしいということなのだろうとマギにも伝わった。
「収入利益が出ているということは、他の勇者も町に泊まっていったってことだよね? 後ろ盾というのが口から出まかせでないとしたら、他の勇者とつながりがあると見ていいか……」
「はい。私もそう思います。他の町長たちも同じ意見です」
商業エリアでは定期的に町長会議が開かれていてエリア内の情報交換を密にしている。そこでの話だと他の町でも同様の派閥が立ち上がっているらしい。スピカを除いて。そして、スピカ以外の町には同じ勇者が度々立ち寄っているという。
「黒づくめの勇者様です……」
「やっぱり奴隷商の奴か……」
「奴隷!?」
イングランデ王国では奴隷制度自体が無く、元々無いものなので特に禁止されている訳でもなかった。この小さな国の中で人間を売買しようなどという考えすら誰も持たなかった。小さい国どころか町村単位の極々小さなコミュニティに生きている人々だったのだからそんな考えが浮かびもしなかったのだ。
フランチェスコたち商人は、他国との取り引きもあるので奴隷の存在は知っていたが、まさか自分たちの国でその言葉を聞くことになるとは思ってもみなかったようだ。
「この国に喚ばれる前、その黒づくめの勇者は奴隷商をやっていた。件の商人たちと関わっているのがそいつなら、何か企んでいると思う。証拠も無くこんなことを口にするのは間違っているかもしれないけど、気を付けて欲しいんだ」
「そのようなことが……、我が国で受け入れられるとは思いませんが……。さらに気を付けて動きを見ておきます。商人同士のことはこちらで何とかします。この件はお任せください」
奴隷はさすがに想定外だったのかフランチェスコは顔色を悪くしたが、商人には商人のやり方があるとかで、たしなめるにしても制裁するにしても今後の動向次第で何とかすると言われたのでこの件は任せることにした。
もう一つのお願いというのはポーションのことだった。
「どこもポーションが不足しているとかで、売り物になるからと旅をする商人たちに使わせずに貯め込む者が出てきておりまして……。安全確保のためにもマギ様のポーションは町で管理した方が良いと決まりました。今後は各町長に卸していただきたいのです」
「それも会議で?」
「はい。できるだけ多く卸していただけたらありがたいのですが、サウザーで買い占めたなどとなるとエリア内で軋轢が生じますので、各町に同数納めていただきたいのです。どのくらい譲っていただけますか?」
不公平が出ないように納品するポーションの量を決めて各町同数を卸し、過不足に関しては町長たちでやり取りして融通し合うことになったのだそうだ。なるほど、それならどこかの町を贔屓しているなどという不興も買わないだろう。
マギとしてもポーションは必要な人に使って欲しいので貯め込まれるのは勘弁願いたい。
「城エリアが深刻なポーション不足で、そちらの分も確保しておきたいんだ。悪いけど各町五十本ずつが精一杯かな」
他のポーションも同様にできるだけ多く各町平等に卸して欲しいとのことで、高品質ポーション五十本、ハイポーション二十本、毒消しポーション十本、魔力ポーション二十本をそれぞれの町で納品することになった。
この量なら城エリアで売る分の在庫もしっかり確保できる。魔物の討伐に出向いてくれている兵士たちが一番怪我を負う確率が高いのだし、そちらに回せる分がありませんでした、なんて言う事態は絶対避けたい。兵士たちの命綱だと、自分のポーションがあれば安心して戦えると言ってもらっているのだから。そこは抜かりなく計算した上で数を決めた。
悪い方から順番に話が片付いていき、いよいよ残るは増資の相談となったのだった。
寄付 -3枚
納金 +30枚
収入利益 +30枚
ポーション買取 +108枚(高50、ハイ20、毒10、魔20)
現在の所持金貨 1446枚
町資産 6950枚分




