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 九話 ステータス



 権利さえ購入してしまえば、どの町でも宿や食事を提供してもらえる。気に入った町でのんびり暮らすのも、思うままにあちらこちらと漫遊するのも楽しそうだ。旅の途中で薬草を集めて売れば、少しずつでも収入は得られるだろう。

 生きていく分には多分困らない。それどころか、今まで以上の良い暮らしが期待できると思う。


 十万枚やこの国をもらえるということにこだわらないのならば。


 他の者たちに見つからないようにして、ひっそりとだが幸せに暮らせるんじゃないか。そんな考えがマギの頭を()ぎる。それほどにこの街での歓待は素晴らしいものだった。


「でも、いいのか? 俺はそれで。逃げるように隠れて暮らして、悔しくないのか?」


 自分の心に問いかけながら、マギは答えを探すように、睨み付けるようにしてマップを見つめる。しばらくそうしていると、先ほどは気づかなかった五つの点に気がついた。マップ上に五色の小さな光が(とも)っているのだ。


 黄色の点は城の西側の二つの町、エンタとウェスターの間にある。紫の点は城の西隣のエンタの町のすぐ外に。赤と青の点は二つ並んで今マギのいるアイパレスの東側に。そして緑の点は、この街の中に。


「これって俺たちの位置? うおっ!?」


 自分と思われる緑の点に意識を集中すると、突然、地図上に四角く囲まれた情報が表示された。


「なんだ? ……ステータス?」


 そこには現在のマギの資産内容が書き込まれている。どういう理屈かはわからないが、鑑定の魔法が作用したのだと思われる。



 *=== ステータス ===*

 ∥             ∥

 ∥ プレイヤー五:マギ(緑)∥

 ∥             ∥

 ∥  購入した町:一    ∥

 ∥  資産 金貨:二五九七 ∥

 ∥     町 : 四〇〇 ∥

 ∥     合計:二九九七 ∥

 ∥             ∥

 ∥ 次回褒賞予定: 二九九 ∥

 ∥             ∥

 *=============*



「こ、れは……。どういう? まさか、購入した町も、資産に……なる?」


 だとしたら、町は積極的に購入していった方がいいんじゃないか。いや、鵜呑みにしていいものか? これが王様の言う資産として正しいのかもわからないのだし。


 マギは混乱したけど、そもそも何でこんな表示が現れたのかもわからなかったので一旦保留することにした。ここでパニックを起こしていても解決しないし、ひとつだけとてもありがたい情報に気づいたから冷静になれた。マギにとって、不確かな情報よりもこちらの方が大切だった。


「資産についてはともかく、他の奴らの居場所がわかるってのはすごくいいな」


 今のところ、近くにいるのは赤と青。自分以外の者についての詳細は見れないようだが、マップを確認していれば気づかれないように間を空けて後ろをついて行くことができそうだ。不意にどこかで遭遇してしまう不幸が避けられるのなら常に警戒する必要もなく、旅はずっと楽になるだろう。


「おっと、いけない! お湯が沸いてる」


 調薬中だったことを思い出したマギは、考え事はここまでと頭を切り替えた。


 作業台の上の薬草に洗浄の魔法を掛けてきれいにしてから、風魔法で細かく刻み、鍋に分けて入れる。時々、魔力を流し込みながらかき回して、しばらく煮込んでいく。緑っぽい煮汁が澄んだ青色に変化したら火から下ろす。布で濾したらできあがりだ。熱いうちにポーション瓶に詰めて栓をしていく。

 ここまでしてしまえば、すぐに品質が劣化することもない。マギは、ほうっとひとつ大きく息を吐くと片付けを始めた。それも洗浄の魔法で済ませてしまえるので、あっという間だ。とはいえ、ずいぶん遅くなってしまった。支配人さんに買い取ってもらうのは明日でもいいだろうと、できあがったポーションはバッグにしまった。長い一日だったなあ、などと上の空で考えながら廊下に出ると、


「お疲れさまでした、マギ様。すぐに支配人を呼んで参ります」


「うわっ!」


 ドアの向こうにメイドが立っていた。


「いや、もう遅いし、明日にするよ」


「では、お部屋にご案内いたします」


 メイドは調薬室に鍵を掛けると、マギを部屋まで案内し、お茶を淹れてくれた。


「君も遅くまで付き合わせて悪かったね。俺も寝るから、もう休んで」


 メイドが下がると、もう一度ひときわ大きく息を吐く。メイドに世話してもらう、そんな経験はもちろん今まで一度も無かったので緊張していたようだ。一人になって気が抜けると、一日の疲れがドッと襲いかかってきた。


「赤と青に追いついてもまずいし、明日はゆっくり出発すればいいや」


 大きくて広いフカフカのベッドに潜り込むと、すぐにスヤスヤと寝息を立て始めた。前の世界での戦いから始まった一日だ。さぞやクタクタだったのだろう。




 翌朝、マギが目を覚ますと、太陽はとっくに昇っていた。前の世界では夜明け前から働いていたので、こんなにゆっくり眠ったのはいつぶりだろう。案外こんなだらけた暮らしも悪くないかも。そんな風に思いながらベッドを抜け出すと、すぐにドアがノックされる。


「マギ様、おはようございます。お目覚めでしょうか? すぐに朝食をご用意いたします」


 いやはや、メイドさんの仕事ぶりには驚かされる、と多少焦りながら支度を済ます。マップを確認すると赤と青の点もとっくに動き出しているようだ。


「みんな働き者だなぁ」


 怠惰な考えをしてしまった自分を少しだけ恥ずかしく思って、


「これだけ先行されていれば大丈夫だろう。うん、予定通りだ」


 誰が聞いている訳でもないのにわざわざ口に出して言い訳し、朝食を食べたら自分も出発すると決めた。




 昨晩作ったポーションは全部で六十本。金貨六枚で買い取ってもらえた。


「瓶も機材も用意してもらった上で、素人が作ったポーションだ。こんなもんなんだろうな……」


 参考にしていた一瓶金貨一枚からはほど遠い。この稼ぎでは、やはり十万枚は目指せそうもないとがっかりしたが、朝食も美味しかったので機嫌はすぐに直り、前向きにがんばることにした。






 ポーション買取   +6枚


 現在の所持金貨  2603枚

     町資産   400枚分



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