五十九話 ドロテアとの帰り道
ウェスターに向かう道すがら、マギとドロテアは話していた。
「大臣さんなら謁見の間で見たよ。怖そうな……いや、ごめん」
「ふふっ、厳しい父ですが優しいところもあるのですよ。忙しくてなかなか家にも帰ってこれませんが。そうですか。元気にお仕事していると聞けて安心しました。一人で家で待っているはずのお母様も心配ですが、もうすぐ会えますね」
「今はきっと、俺たち勇者が入れ替わり立ち替わりに謁見に訪れるのもあって、余計に忙しいのかもしれないね。ドロテアは早く帰ってお母さんを安心させてあげなきゃね」
「はい、本当にありがとうございます。勇者様」
クロウくんも皆さんもありがとうね、と今度こそ明るい笑みを浮かべるドロテア。やはり無理して笑っていたのだろう。
無理して、と言えば、自らの足で歩いてないとは言っても、ドンクの背に揺られているのも少女の身にはかなり疲れるはずだ。それでも弱音も愚痴もひとつとして零したりしない。
お貴族様のお嬢様でもこんな人もいるんだな、とマギは思った。位の高い家の人間は、みんなわがまま言いたい放題という偏見を持っていたのだろう。まあ、大概の者には当てはまるし、平民に気を遣うような者はごく稀なのだから仕方ない。
ドロテアはあの怖そうな大臣に厳しく躾られたのかもしれない。そもそも持ち前の人柄、明るさや優しさによるものなのかも。
『あの大臣に優しいところなんてあったかな?』
『そんなに怖いにゃ?』
『あらあら、宰相と言えば苦労性の働き者ってイメージだけどねえ……』
などと口にこそ出さないが、まだ二回しか会っていない人間に対して失礼なことも考えながらマギたちは進んでいった。
ウェスターの町には相変わらずゴロツキっぽい輩がウロウロしている。この辺りからはルビーたちの調子もだんだん悪くなってくる。お嬢様を連れてこの街中を彷徨く気にもなれなかったし、マギたちはポーション屋にだけ寄るとさっさと宿屋に引っ込んだ。
マギの連れということでドロテアにも部屋が用意されたが、ドロテアは一人は寂しいのかマギたちと同室で良いと言っていた。そうは言ってもマギの方が可愛い女の子と同室なんてとても受け入れられなかった。
仲間たちも一緒とはいえ、みんな動物なのだ。人間の女の子と同じ部屋に泊まるというのはダメな気がする。しかもお嬢様だし。
「いやいやいや! 全員一緒はさすがに狭いし! みんなもゆっくり休まなきゃだし! ドロテアも疲れたでしょ? 明日もがんばってもらわなきゃだし、ね?」
俺、大臣に殺されたくないし!
「……そうです、ね。わがまま言ってごめんなさい。これ以上迷惑かけちゃダメですね……」
「え? いや、わがままなんかじゃないし! 迷惑じゃないけど、俺の心がね!?」
苦肉の策としてドロテアが寂しくないようにクロウ、ドンク、フェレが同室で付いていてあげることになった。ドンクがうるさくしないかが少し心配だったが、フェレが付いているので大丈夫だろう。
二人っきりの部屋でルビーの機嫌が良い。
『最初の頃みたいだにゃ!』
嫌な感じも気が紛れているようなので、たまにはこんないつもと違う感じも良いのかな? とマギものんびりした時間を楽しんでいた。
ふさふさの首回りを優しく撫でてあげると、ルビーの目が細く閉じられゴロゴロと喉を鳴らしている。まったりと幸せな時間がぼんやり眠気を誘うような、撫でているマギもうとうとしてきていた。
そんな中、部屋にノック音が響く。ルビーとの静かなひとときもお構いなく、強面の男が二人きりの部屋に訪ねてきた。パーフェクトモノポリーの時にも迎えてくれた町長のゲオルグだった。相変わらずマフィアのような風貌をしている。
「お寛ぎのところを邪魔しましたね。そのまま寝転んでいて構わないですよ。私も忙しいのでね、すぐに出て行きます。こちらに金貨は置いていきますから」
ふんっと小馬鹿にしたように鼻を鳴らして笑ったゲオルグは、納金と収入利益を届けに来てくれただけのようで、軽く挨拶して金をテーブルに置くと、碌に話もせずに帰っていった。
『なんか嫌な感じのする奴にゃ! ご主人様を馬鹿にしてる気がするにゃ!』
ルビーがゲオルグが出て行ったドアを睨み付けている。確かにノックをしたとはいえ勝手に入ってきて自分の用だけ済ませてさっさと出て行く態度は感じ悪かった。鼻で笑ったのも隠す気も無さそうだったし。
「うーん、まあ、そうだろうね。俺なんてこんな小僧だし。でも良いんじゃない? 俺としても、あのタイプの人と仲良くなりたいとも思わないし。下手にすり寄ってきてベタベタされるよりも良かったと思おうよ」
『……そうにゃ?』
マギの言葉で渋々ながらルビーも納得した。マギだって苦々しく思っている。増資するとなったらこんな好き嫌いの話もしていられないのだろうけど、今はまだこの関係でいいか、と嫌いなタイプの大人との関わりを避ける。
くさくさした気持ちを払拭するように、再びルビーを撫で倒してまったりと過ごしたのだった。
ドロテアと一緒の旅は順調に進んでいった。次のエンタの町でも、マギたちは宿屋に引き籠もって町には出なかった。
「こんな言い方悪いけど、俺はこの町の雰囲気あんまり好きじゃないんだよ……」
『お酒臭いし! 嫌な感じがするし! お部屋で寝てるのが一番にゃ!』
ルビーたちの調子もだいぶ悪くなってきている。機嫌のあまり良ろしくないルビーの相手をドロテアにさせる訳にもいかないので、今日も昨日と同じ部屋割りだ。
ドンクはフェレと一緒なら大丈夫だし、クロウはドロテアを何かと気に掛けているようだ。そんなクロウの様子を見るのが楽しいらしく、フェレは向こうの部屋を楽しんでいるようだ。
『若いっていいわねえ』
なんて訳の分からないことを言ってはニヤニヤしつつ、嬉しそうに溜め息を吐いていたフェレたちと別れた。
そうして今はルビーと二人きりの部屋でおとなしく過ごしているところなのだが、それにしてもこの町の騒がしさは落ち着かない。マギは光のローブを被ってもなおイライラを隠しきれないルビーを落ち着かせるように撫でてやりつつ、自分も癒やされてやり過ごしていた。
エンタの町は久しぶりだというドロテアも町の雰囲気が変わった気がすると言っていた。人々が刺々しく感じるらしい。以前はもっと明るく楽しい場所だったはずで、みんなの笑顔も優しい表情だったのに、と。
人の行き来ができるようになったことで更に人が溢れていて混沌としている。人々の表情もギラついて見える。
この町でも唯一立ち寄ったポーション屋では、人が増えたことから小競り合いも増えて、怪我人も多く、兵士たちも忙しそうにしているのだと聞いた。おかげでポーションは良く売れたけど。
「ウバルト町長はこの状況に対して特に対応する気はないみたいなんですよ。こんなことで儲かってもなんだか後味が悪くてかなわないですよ……」
ポーション屋の店主は愚痴っていた。マギも同意せざるを得ない。浮かれているのか荒れているのか、早く落ち着いて欲しいと願うしかない。
そうして翌日には二回目のゴールとなる王城の城下町へと入る。三日間の短い旅だが、女の子にとってはなかなかの強行軍だったかもしれない。怪我も体調を崩すことも無く、無事にここまで一緒に来れたことにホッとする。
本当ならドロテアをきちんと家まで送り届けてあげたいところだけど、使い魔たちの様子が前回にも増して良くないように見えた。
「ここまで来れば一人でも帰れますから。連れて来ていただきありがとうございました。私のことよりクロウくんたちの方が心配です。早く休ませてあげて下さい。本当に家で休まなくていいんですか? お礼に精一杯おもてなしさせていただきたかったのに……」
ドロテアも使い魔たちを心配してそう言ってくれた。
「癒やしの力が関係しているのか、教会の方が気分が落ち着くらしいんだ。申し出はありがたいけど今回も教会に泊めてもらうよ。送ってあげれなくて悪いけど、ドロテアは早くお母さんを安心させてあげて」
「本当にありがとうございました。何もお返しできなくてすみません。またいつかエアハルトの邸にも顔を出して下さいね」
「ありがとう。いろいろ落ち着いたら、友達として訪ねさせてもらうね」
「はい! お友達ですからね! みんなの旅のご無事をお祈りしてます!」
ドロテアとは町の門を入ったところで別れることになった。門の詰め所にいた衛兵が宰相のお嬢様だと気がついて、護衛して送ってくれるようだったので安心して預けられた。
そちらは一息つけたけど仲間たちが心配だったマギは、今回も王城への報告は後回しにして、まずは町外れの教会を目指して足早に歩いて行くのだった。
納金 +50枚
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ポーション買取 +105枚(高50、ハイ20、魔20)
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