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 五十八話 再会



 西神殿に入ったマギたちは、そこで珍しい知り合いに出会った。ここでもポーションの寄付の話をしていたところに声を掛けられたのだ。


「あれ? もしかしてクロウくん?」


「え? あ、君はえーと、確かドロシー?」


 その少女は以前にサウザーの町で会ったクロウの知り合いだった。奴隷商に目を付けられたところをクロウに助けられたとか。


「お久しぶりね。うふふ、ドロテアよ。でも、ドロシーって愛称で呼んでくれてもいいわ」


 ドロテアはそんな風に気安い感じで笑って見せるけど、どうもその笑顔は晴れやかではないように感じる。


「こんなところで何をしてるの? あ、もしかして君も行商? お父さんのお伴とか?」


「違うわ。私の家は城下町なの。たまたまサウザーの親戚の家に遊びに行っていた時に御触れが出ちゃって。帰れなくなっちゃってたのよ」


 親戚の家の商会の商人たちと一緒に移動して帰るはずだったのだが、御触れのせいで商人たちの移動がストップしてしまったので、しばらくサウザーで足止めされていたのだそうだ。パーフェクトモノポリーによって城エリアも通れるようになったので、やっと家に帰れるということらしい。でも、その割には浮かない顔をしている。


「町長からの通達が届いたの。これから鉱山エリアの復興と開発に力を入れ始めるとかで。おじさんたちは、乗り遅れないためには一刻も早く鉱山エリアに向かいたかったようなの。私のために出遅れさせる訳にはいかないでしょう? おじさんたちは商人なんだもの、チャンスを無駄にはさせられないわ。ここまで来たら、城下町に連絡を取ってお父様に迎えを寄越してもらえるだろうから、みんなには北へ向かってもらったの。今はシスターのご厚意に甘えて、お迎えが来るまで神殿に居させてもらっているのよ」


 聞けば、もう十日もここにいるらしい。鳥便で使いを出せば、すぐにでもお迎えが来てくれると思っていたのに、父親と連絡が取れないのだ。


「お父様は今、とってもお忙しいのだと思うわ。今回は特に急な御触れだったし。……私のお父様はお城で働いているの」


 シスターも温かく受け入れてくれていて神殿での生活でも不自由はしていないので、もうしばらく待ってみるのだとドロテアは寂しそうに笑っていた。




 部屋に通されたマギたちは、いつものようにポーション作りをしながら話し合っていた。


『なんか、可哀想だにゃ……』


『どうせ私たちも城へ向かうのだし、一緒に連れて行ってあげたらどうかしら?』


「でも、彼女に俺たちのペースで歩かせるのは無理だろう? 馬車は無いし……」


『我の背に乗せてやったらどうだろうか』


「鞍が無いけど乗れるかな……?」


 いつもなら会話に加わるクロウが、今日は何故かひと言も発しない。


「クロウはどう思う?」


 マギが問い掛けても心ここに在らずな様子で、俯き何かを考え込んでいるようで返事も無い。


 そこにシスター・マルタが夕食を運んできてくれたので、シスターにも聞いてみることにした。


「ドロテア様は本当は一刻も早くお帰りになりたいのだと思いますわ。お迎えが来なくてここに長く置き去りにされている御身の不遇よりも、連絡の取れないお父様のご様子を心配なさっていて、毎日憂い顔を隠して過ごしておいでです。せめて、今は手が離せないから待つようにと、ひと言でも返事があればもう少しお心にもゆとりができるのでしょうけれど、お城からは一度も返事が戻らないのですもの……。無理して笑顔を見せてくれてはいますが、それがまたお可哀想でなりません……。早く隊商のみなさんが帰ってきてくれれば良いのですが……」


 シスター・マルタも胸を痛めているようだった。




 食事の間も、やはり連れて行ってあげた方がいいのかと悩んでいたマギの頭に、不意にクロウの思念がリンクで伝わってきた。


『もっと良く笑う子だった気がする……』

『しっかりした気丈な子だったから、ずいぶん無理をしているのだろうな』

『ご主人様の旅の邪魔をする訳にはいかない……』


 ぼんやりと食事の手も進まないでいるクロウは、取り留めも無く浮かんでは消える幾つもの想いに翻弄されているようだった。ともあれ、どうやらクロウもあの子の心配をしているようだ。その様子に黙って食事をしていたマギが口を開いた。


「みんな聞いてくれ。俺はあの子を一緒に連れて行ってやっても良いと思う。でも、ここはクロウが思うように決めて欲しい。あの子のことを一番知っているのはクロウなんだし、クロウに判断を任せたい」


『え? いえ、その、私とて彼女をよく知る訳ではありませんよ。ですが……、良いのですか?』


 さっきの思念の感じでは以前から良く知っている風だったのに、きっとクロウは遠慮しているのだろうと思ったマギはただ頷いて見せた。


『では……。私は……、彼女を城下町まで送り届けてあげたいと思います』


『それが良いと思うにゃ』


『放っておけないわよね』


『で、あるな』


「うん、そうしよう。俺もそれが良いと思う」


 全員から賛成してもらえたクロウもホッとしたようだった。やっと張り詰めていた空気も和らぎ、食事ものどを通るようになったようだ。




 食後、食器を下げに来たシスター・マルタにも話すと、シスターもとても喜んでくれて、さっそくドロテアを連れてきてくれた。


「俺たちは明日、城に向けて出発する。良かったらドロシーも一緒に行かないか?」


「それは……! 嬉しいですけど、良いのですか? 私がいたら足手まといになるんじゃ……」


「乗り心地は良くないかもしれないけど、ドンク……ロバの背に乗ってくれないか? それなら一緒でも旅を続けられるんじゃないかな?」


 困ったように泳がせたドロテアの視線がクロウを捉える。縋るように向けられた視線に、クロウは頷くように首を振って、


「カアァ、カアァ」


 と優しく鳴いて見せた。


「……ありがとうございます。お言葉に甘えてお世話になります。本当は早くお家に帰りたかった。連絡の取れないお父様もお母様も心配で……」


 ドロテアの眦にうっすらと光るものが浮かんだ。


「明日、朝早くに出発するけどいいかな? ドロシーは旅立つ準備は大丈夫?」


「はい! いつ迎えが来てもいいようにしてありましたから!」


 そう言って笑ったドロテアの笑顔は今度こそ晴れやかなものだった。


「改めてご挨拶させてください。アイギス=エアハルトとオディーリアの娘、ドロテア=エアハルトと申します。ご迷惑をお掛けしますが城下町までご一緒させてください。どうかよろしくお願いいたします」


 スカートをちょんと摘まみ、膝を折って挨拶をするドロテア。見惚れるような美しい所作だ。旅装のためドレスこそ着ていないが、立派なお家のご令嬢なのだろう。


「俺たちもちゃんと名乗っていなかったね。俺はマギ。勇者なんて呼ばれて旅をしている。それから俺の旅の仲間たち。ルビー、クロウ、ドンク、フェレだ」


 名前を呼ばれるのに合わせて、仲間たちもそれぞれ首を傾げて挨拶をする。


「短い間だけど、こちらこそよろしくな。ところで、さっきの君のお父さんの名前って……。確か王様のところにいた大臣さんがそんな名前だったような……?」


「ええ、父はお城で宰相を勤めております。それより! ……勇者様だったのですね? 存じ上げず失礼しました!」


 慌てた様子でペコペコと頭を下げるドロテアをマギもまた慌てて宥めて、大層な者じゃないからと普通に接してくれるように説得する。大臣の家のお嬢様に下手に出られても居辛くて仕方ない。何とかお互いにクロウを介しての友達ということで畏まらないように折り合いを付けた。


 その後、少しの打ち合わせをしてドロテアは自分の部屋に戻っていった。二周目の旅の終わり、マギたちに臨時ではあるが人間の仲間が一人増えた。






      寄付 -3枚


 現在の所持金貨  476枚

     町資産 3850枚分



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