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 五十六話 駅馬車



 チカの村に着くとすぐに、「勇者様あーっ!」と叫びながらブンブンと大きく両手を振り近付いてくる者がいた。男は駆け寄ってきた勢いそのままに地面にベタッと貼り付くと「ありがとうございました! ありがとうございました!」と繰り返す。


「え? ちょ、待って。頭を上げて!」


『こいつ、前に隣の町で見たにゃ』


「え?」


 確認したいと顔を覗き込もうとしても、地面に擦り付けるようにべったり頭を下げていて全く見えない。オロオロするマギの前に進み出てきたのは一人の女性で、平伏している男の尻に向かってビシッと蹴りを入れた。そのまま顔から崩れてひっくり返った男に対し、


「あんた、いい加減にしな。勇者様が困ってらっしゃるだろうが!」


 止める間もなくさらにビシバシと入る蹴りと共に怒鳴りつけていた。一切容赦のない行動に、やっぱりどこでも女性は強いものなのかと、マギはあんぐり口を開けて、声も掛けられずに呆然とその様子に見入ってしまった。


「ほらっ、顔を上げてちゃんと挨拶しなきゃ!」


「お、おう。勇者様、タテの町ではお世話になりました。ペドロってもんです」


 顔を泥で汚しながら名乗った男は、確かにあの時の使者の男だった。


「勇者様がこの町を救ってくださった。俺たちが生き延びられたのは勇者様のおかげだ。俺も……無理してタテまで行ったけど、勇者様がいなかったら町にも入れてもらえず魔物のエサになってたかもしれねえ。本当に、本当にありがとうございました!」


「ありがとうございました」


 隣の女性も一緒に頭を下げた。仲は良いみたいだ。これもどこも一緒か。思わずルビーやフェレに視線を向けるが、


『なんにゃ?』『なにかしら……?』


 じとっと見つめ返されて目を逸らした。慌てて男に向き直る。


「無理をしてでもペドロさんが助けを求めに来てくれたから、ポーションも食料も間に合ったんだ。あんたの頑張りの成果でもあると思うよ」


 マギがその場凌ぎに取り繕って言った適当な言葉だったが、思いのほか人々の心に響いたようで、周囲も含めて何やら感動的な良い雰囲気になってしまった。たくさんの瞳がウルウルと見つめてくる。これもこれで居たたまれないと焦るマギを救ったのは村長のハドルだった。


「良い雰囲気のところを邪魔してすまんが儂にも挨拶させてくれ。マギ様、先日はありがとうございました。ようこそいらっしゃいました」


「ハドルさん! お久しぶりです。村の様子はどうですか?」


「おかげ様でもうほとんど元通りですよ。マギ様のおかげです」


 ルビーたちのジト目からも村人たちのウルウルからも逃げ出せるチャンスとばかりに、いろいろと話をしたいからと村長と連れ立って、マギはその場を退散することに成功した。

 方便を使っただけではない。本当に話さなければいけないことならあるのだ。増資による街道整備の件。トガリと共同で考えて欲しい荷運びの仕事の件もだ。




「……そう言う訳で、街道の難所を直しつつ荷運びの仕事を受ければ、商人たちの旅も楽になるし商売も捗ると思うんだよ。どうかな?」


「なるほど。それは儂らの村としても嬉しい話ですな。引退後の仕事か……」


 ハドルは吟味するようにふむふむと何やら考えを巡らせている様子だ。やっぱりどこか落ち度があったかと心配顔になるマギだったが、ハドルのアイデアはマギのさらに上を行っていた。


「これはほんの思い付きなんですがのお。二つほど話を聞いてもらっても……?」


「もちろんだよ。俺だけのアイデアじゃ詰めが甘いからね。何か気がついたことがあったなら教えて欲しい」


「まず、街道整備ですがの。せっかく街道を直すんですから、思い切って馬車一台くらい余裕で通れる道にしちまうのはどうでしょう?」


 それは、そんな風にできるなら願ってもないが、岩山の難所にそれだけの道を作るのは大変な作業ではないのか。マギの考えを読んだかのようにハドルは話を続けた。


「元々、先祖が岩山を削って作った道なんじゃ。掘って削ってが生業のこの村やトガリの面々なら、やってやれんことは無いはずじゃ。場所が場所だけにすれ違うほどの広さまで欲張るのは無理じゃろが、馬車一台、せめて荷車が通れるくらいにできれば、荷運びの仕事も捗るってもんだろう。なんで今までやらなかったかと問われれば、そんなことに回す金なんか無かったの一言に尽きるんじゃからな」


「増資ができる今ならそれが可能ってことか……」


 ハドルはニヤリと笑って見せた。そうなると……、とマギの頭も回転を始める。


「峠道用に頑丈だけど小ぶりな馬車を作ってもらえば……。牽くのは大きな馬じゃなくていい。ドンクみたいな力持ちのロバを……。それに鉱山エリアの中だけを定期的に行ったり来たりするようにして、街道ですれ違わないように時間を決めて運行すれば……。駅馬車だ! エリア内の荷物を運ぶ、駅馬車の荷運び屋ができる!」


「ほお、ほお、それはまたすごい! ロバを引いて歩ける体力さえあれば引退した年寄りたちでもやれそうですな。すれ違いも広く場所を取れる地形を探して、ところどころにすれ違い場を作ればいいのでは?」


「うわっ、それも良いアイデアだね!」


 それからもマギとハドルは白熱したアイデア合戦を続けて、「鉱山エリア駅馬車運送屋(仮)」の青写真が練られていった。


「じゃあ、トガリのベルナフさんとも話し合って煮詰めてみてね。くれぐれも普段の生活を圧迫するような無理はしない範囲で頼むよ」


「マギ様はタテの町で馬車の相談をお願いしますな。やはり、マギ様から直々に話がいった方がタテの者も受け入れやすいでしょうし。ノースとの連携も取りやすいと思いますからの」


 マギもハドルも、皆で力を合わせての大きなプロジェクトに夢は膨らみ、とてもワクワクしてついつい熱が入ってしまった。ずっと付きっきりで見ていられないのは残念だったが、現場の仕事は現場の者に任せようと、ぐぐっとこらえたマギだった。






      納金 +5枚

    収入利益 +5枚

      増資 -50枚


 現在の所持金貨  524枚

     町資産 3800枚分



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