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 五十二話 森の特産品



 ネルの村に向かったマギはここでも増資とともにお願いをした。ネルのみんなには村の柵の強化と宿屋の設置に加えて、特産品について相談したかったのだ。


 道が多少良くなって歩きやすくなったとしても、目的がなければ商人にとって美味しい話とは成り得ない。鉱山エリアを見ればわかるように、商人たちに欲しいと思わせることさえできれば彼らは無理をしてでもやってくる。商人たちが立ち寄りたくなるような何かを作り出さないといけないのだ。それには話をしやすいネルの村の人たちに手伝ってもらいたかった。


 ここでの増資は今のところ金貨二十枚。この金額では大規模なことを始めるのは、まだ難しいだろう。だから、まずは相談。できそうなことを見つけて試してもらう程度、計画の準備段階から少しずつ始めていくしかない。


 村長のギュンターはちょうど狩りに出てしまっていて村を離れていると言うので、まずはアンプロに相談してみることにした。


「狩った獣の肉で保存食を作るのはどうかな?」


 マギが提案するが、


「そういうのは牧場の町の者たちの方が本場なんじゃねえか? すでにあるもので商人たちの目を引けるかどうか微妙だな。それに、ここでは塩は貴重品だ。肉を日保ちさせるなら塩がたくさん必要になるが、ここまで運ばれてきた塩は高い。採算が取れるかな……?」


 なるほど、この案はどうも上手くなさそうだ。




 こんな風にアンプロといろいろ案を出し合ってみているのだが、マギが考えつくようなアイデアはだいたい二番煎じだった。わざわざ商人がここまで足を運びたくなるような決定打に欠けるのだ。


 その時マギは、ふと街道で追い抜いた時に聞こえてきた商人たちの話を思い出した。


「ねえ、アンプロ。この辺りには蜂も出るんだよな? 蜂蜜はどうだろう」


「どうだって言われたって……。たまには採ってくることもあるが、売り物になるような量じゃないぞ? 蜂の巣を採ってくるのは大変だし、痛い目見ながら集めても大した量は集まらないんだ。村の中で全部使っちまう。自分ちの分を確保するのがせいぜいだ」


「養蜂はやらないのか?」


「よーほーって何だ?」


 マギは自分の故郷の村でやっていた、木箱に蜂を棲まわせて蜂蜜を分けてもらう方法を話してみた。


 薄い木枠を段々に重ねて作った蜂の巣に女王蜂が入ってくれれば、上の方には蜂蜜を蓄えて、真ん中から下あたりで子育てをする。蜂蜜が溜まった頃合いで一番上の木枠を抜き取ると、蜂蜜がゴッソリ採れるのだ。

 蜂蜜を採取した後の木枠はまた一番下に入れておけば、子育ての場が少しずつ下へと下がっていって、一番上にはまた蜂蜜の貯蔵庫ができあがる。そうやって定期的に蜂蜜を手に入れることができる寸法だ。


「蜂の子には手を出さないで蜂蜜だけを分けてもらうから、蜂たちの子育てを邪魔しない。花の時期が終わると巣箱ごと次に咲く花の近くに移動してやるから、蜂たちはずっと花の側で暮らせるんだ。効率良く蜂蜜を集められる巣箱を用意してあげる代わりに、蓄えた蜂蜜の一部を分けてもらう。これが養蜂だよ」


「はあ、なるほどなあ。さすがマギ様、勇者様、魔法使い様だ。使い魔だけじゃなく蜂まで手懐けちまうのか」


「勇者も魔法使いも関係ないぞ。これは森の民の知恵だからな」


「ハッハッハッ、違いねえや。俺たちにもできるんなら、それは森に住む者の技術ってことだな。とりあえず、それはやってみるよ。簡単な木箱くらいならノースの町に頼むまでもないだろう。俺たちでも作れるだろうからな。作り方だけ詳しく教えておいてくれ」


 マギは設計図とも言えない程度の、自分が覚えている限りの養蜂箱の詳細を伝えた。五段ほど積んで屋根を付けた箱を、蜂が好む花の近くに設置する。レンゲから始まり、アカシアにシロツメクサなどなど、花の時期に合わせて巣の位置を変えていくことで春から夏いっぱいは蜂蜜を採取できる。今年はギリギリだろうか?

 新しい女王蜂が生まれると巣を譲って、分かれた群れが新たに別の箱に巣を作ってくれれば、巣箱はどんどん増やせる。一度巣箱として認められた養蜂箱には、翌年以降も女王蜂が棲み着きやすいから、年を追うごとに箱は増えていくだろう。


 一朝一夕に大規模にやれる仕事ではない。徐々に増やしていくしかない。それでも、なんとか上手くいって欲しい。この国では砂糖は南国からの輸入品で賄っていると、商業エリアでリサーチした時に聞いていた。

 国内で買い付けられるとなれば、甘味は商人たちも絶対欲しいはずだ。それに量を集められるようになれば、蜂蜜で酒も作れるはず。珍しい酒なら商人たちも気に入ってくれるかもしれない。


「そうだ、酒もあった!」


「酒か? この辺りじゃ、あまり作ってねえぞ?」


「でも、森には果物もいろいろ実るよね? りんご酒やブドウ酒は? 果実酒を作ってないの?」


 子供が何に興味持ってんだ、と笑いながらもアンプロは答えてくれる。


「酒なんて、それこそ自分ちで飲む分をそれぞれの家庭で作ってるくらいだよ。売るような量を作る設備も無けりゃ、都会の町の人が喜ぶような洒落たもんでもねえぞ? 酔えりゃいいってシロモノだよ」


 なるほど、それなら果実酒の類も出回っているとしたら輸入品なのかもしれない。作れたら特産品にできるかもしれないぞ、とマギは鼻息を荒くした。


「蜂蜜からもお酒が作れるんだよ。俺は飲んだことはないけど甘いお酒らしい。ハーブを入れたり、果物を漬け込んだり、果汁で割ったり、いろんな味を楽しめるって大人たちは言ってた。人気が出るかもしれないよ!」


「ふうん……。酒はみんな嫌いじゃねえからな。面白いかもしれねえ。でも、それもよーほーが上手くいったら、だろ?」


 それは全くその通り。良い案が見つかった気がして、ついつい先走ってしまった。


「養蜂が上手くいけば蜜蝋も採れる。これもいろいろ作れるんだけど、まあ、まだ先の話だよね。焦らなくていいから、ちょっとがんばってみてよ。上手くいけばいいなあ……」


「おう、わかった。あれこれ試してみるさ。他には宿屋と柵だったな」


 今後、産業を興すかもしれないので、作業場を用意するためにも村の敷地はぐぐっと広げて、大きく柵で囲ってもらうようにお願いしておく。


「なんつうか、そっちの方が大仕事だなあ。村を広げるって言ったって、森を切り拓かなきゃなんねえし。まあ、木材がいっぱい取れるしそれも良いか。やれるだけやってみるよ。マギ様のお願いだしな」


「うん、頼んだ。でも、生活第一でいいからね。無理はしないで」


「何言ってんだ。俺たちの暮らしを良くしようと思ってくれての話だろ? 無茶はしないが、少しくらい無理はするさ。マギ様ありがとうな」


 本当にこの男は真っ直ぐに想いをぶつけてくる。ムズムズするが嬉しいことだ。マギがひとりでニヤニヤしているのを見てルビーが言う。


『やっぱり名前を付けてやったらいいのにゃ。あいつなら子分にちょうど良いにゃ』


「まだ言うか。そういうんじゃないんだって」


『あの男なら、じゅうぶん使い魔に成り得るだけの信頼関係が築けていると思いますが』


『ふふっ、二人ともまだ子供ね。信頼し合えているからこそ離れられるのよ』


「そうそう。一緒に来るんじゃなくて、ここにいてやって欲しいことを任せるんだ」


 マギとしては、ちょっと良い話をしてる気持ちでいたところに、冷静にアンプロから(たしな)められてしまう。


「……また姐さんたちと話しているのか? 俺はいいけど、あんまり他所でやらない方が良いと思うぞ?」


「…………ああ、うん、ソダネ。……わかってる」


 冷静にツッコまれるとがっくりきてしまう。


『こういうのも信頼ゆえの刺さる言葉であるな!』


『ハハハハハ!』


 頭の中に使い魔たちの笑い声が響くが、注意されたばかりだったので、今回ばかりは敢えて叫び出さずに我慢して口をつぐんだマギだった。






      納金 +2枚

      増資 -20枚


 現在の所持金貨  781枚

     町資産 3450枚分



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