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 六話 冒険の始まり



 店を出たマギは、これからの行動について考えていた。


「今日はこの街で買い物して、一泊してから明日出発しようかと思っていたけど、この分だと宿に泊まるのも高いんだろうな。買い物もすぐに済んだし、ここで立ち止まっててもしょうがない。俺も出発することにしようか」


 他の者よりは出遅れたけど、まだ午前中だ。マギは緊張にドキドキしつつも、とりあえず東門に行ってみることにした。




「今から出てもボウズの足でも日暮れまでには次の町に着けるだろう」


 街道に出る門の詰め所にいた兵士にそう教えてもらったこともあり、先に出発した奴らに遭遇するかもしれない恐怖は呑み込んで、いよいよ出発することに決めた。


「この街道を、途中二つの町を通って真っ直ぐ行けば東の神殿だ。王城を通るこの街道には魔物は少ないが、東の神殿から先は魔物も増えてくる。街道を外れて森へ入ったりすると危ないから気を付けろよ、ボウズ!」


「夜は魔物が活発になるからな。この街道沿いでも安全とは言い切れん。できるだけ町の中に泊まった方が良いと思うぞ。がんばれよ、ボウズ!」


「ありがとう。兵士さんたち! 行ってくる!」


 親切な兵士たちから、ちょっとした情報ももらった。マギは小柄で中性的な顔立ちをしているし、とても魔法使いには見えない。兵士たちからすれば、子供がナイフひとつで旅に出ると言っているようにしか見えないので、ついついおせっかいも焼きたくなるというものだ。


「ここから三日で東の神殿。そこから次の神殿までは歩いて五日ほどか……」


 一日毎に町か村があるということなので、水や食料の調達は心配することはないだろう。魔物についても、街道に現れるような魔物は、それほど強いものではないということだったので、障壁と魔法で対処できそうだ。昼間ならば。


「夜は強い魔物も出ると言っていたし、町に泊まった方が良さそうだな。何より、どこであいつらに出くわすかわからない。あいつらの誰に会っても身ぐるみ剥がされる想像しかできない……」


 マギが最も恐れているのは、強い魔物よりも悪どい人間だった。魔法で魔物を倒すことはできるのに、力が弱く虐げられていたマギには、あの男たちを倒すビジョンは浮かばない。ぶるりと震えがきたけど、振り払うようにして歩き出した。



 ◇



 道中、心配するようなことは何もなかった。

 他の者より遅れて出発したこともあって、誰かに会うこともなく平和に歩みを進められていた。門の兵士たちの言うとおり街道に魔物が現れることもなく、休憩の時に遠く広がる草原に魔力を使って目をこらすと、角兎や、それを狙っているのかはぐれの銀狼のような魔物がたまに見つけられる程度だった。


 夜になると、あの狼のような肉食系の魔物たちが活発になり、群れで襲ってくるのかもしれない。ぞわりと背筋に冷たいものが走り、やはり夜は町で泊まろうと心に決めた。




 でも、あまりにも平和で、代わり映えのしない景色にも飽きてきたマギは、じきに緊張が緩んでしまった。警戒し続けるのも疲れるだけなので、考え事をしながら歩いていた。


「三千枚の金貨の一割ということは、一周して戻った時には三百枚の金貨がもらえる。繰り返していけば、えーっと、四週目には四百枚くらいになって、六週目には五百枚くらい、八週目には六百枚くらい。だんだん七百枚、八百枚と増えていくから、んーっと、一年後には千万、二年後には三千枚くらい。そうなるとぐぐっと増えてくから……、なるほど、三年で十万枚まで増やせるのか……」


 一周して戻ってきた時に王様からもらえるという資産の一割の報酬。暇にまかせて、懸命に指折り数えて計算してみると、確かに三年くらいで十万枚に到達できる。でもそれは、元手の三千枚を減らさなかった上での計算だ。しかも三年間、休日なく歩き続けるという前提で。

 すでに三枚の金貨を使ってしまったし、毎晩町に泊まるとなると、これからもお金がかかる。使ってしまった分はどうにかして稼がないといけない。魔物を倒して素材を売る? 自分には向いてない気がするけど。


「そうだ! 薬草を摘んで売れないかな? あの店でもポーションを金貨一枚で売っていたし、薬草の需要はあるはずだよ」


 それからは、通りすがりの街道脇の草原にマップと鑑定の魔法を使いながら歩き、近場で薬草を見つけた時にはせっせと集めながら道を進んだ。幸い薬草はあちこちに群生していて、苦労することなく集められていた。

 時には角兎に出くわしてしまい倒したりもした。角兎程度が相手なら、倒すのも血抜きするのも魔法のおかげで簡単だけど、荷物が増えるのが大変だった。


「薬草と一緒にカバンに入れたりしたら、潰されて薬草が傷んじゃうからな。ちょっと重いけど、これも売り物になるかもしれないんだから仕方ない」




 そんな風にして寄り道を繰り返し、都合三匹の角兎を吊しながら街道を進んで行ったので、最初の町に着いたのは本当にギリギリ、日暮れで町の門が閉められる時間に滑り込みでなんとか間に合ったくらいに遅くなってしまった。




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