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 四十八話 海の幸



 潮の香りが濃く漂い、波の音が響く港町。マギたちは再びスピカの町を訪れていた。町の門には前回と同じく宿屋の主ベンノが待機してくれていた。今朝、馬を使って先駆けて帰った町長アンデレから案内を頼まれていたのだと言う。


「お久しぶりです。スピカの町へようこそ。お元気そうで何よりでさあ。勇者様のおかげで以前のように漁も復活したんで、今回は人も魚も活きが良くてピチピチしてます。夕飯は楽しみにしといてもらっていいですぜ」


「それは嬉しいね! みんな元気に漁に出られるようになったんだね!」


『お魚ずらーっとにゃ!?』


『ピチピチ! 楽しみです!』


 聞けば市場も再開していて盛況なようだ。宿屋に行く前に今回も海に寄り道させてもらうことにした。ルビーたちの好奇心と期待が爆発寸前まで高まってしまっているし。


『んにゃーっ! ずらーっとにゃ! 小っちゃいのもでっかいのもいっぱいにゃ!』


『あっちには開いた魚もずらーっと干してありますよ! ほらっ』


『活きたまま水槽に入れて売ってるのもあるのね。あんなに大きな水槽初めて見たわ』


『魚を焼く良い匂いがしてくるのである……!』


 市場には活気が戻っていて、前回は見れなかったお魚ずらーっとの光景もやっと見ることができた。その量たるや圧巻で、マギも使い魔たちもキョロキョロとそこら中に興味を惹かれてははしゃいでいた。


 市場に並ぶのは色とりどりの魚だけじゃない。川で見るものとはサイズ感がだいぶ違うけど、たぶん貝やエビ、カニだと思う生き物もいた。


「あ、あれは……、魔物なのか?」


「あっちの奥で捌いてる巨大なのはそうですが、この辺に並んでいるのは普通に海に暮らす生き物でさあ」


『大っきいにゃ!』


『うわ、まだ跳ねてますよ!』


『活きが良くて美味しそうね』


『である!』


 マギの知る川にいるエビ、カニ、貝なんかは、手のひらにちんまり乗るような、指先でつまめるような小さなものばかりで、こんな大きいのは見たことがない。

 それだけじゃない。うねうねと蠢く長い紐のような手足を持つグロテスクな生き物もいた。ルビーたちはそれを知っているのか美味しそうだとか言っている。あの這い寄るような動きからどうしたら食べ物だと思えるのか。


「こ、これを食べるの……!?」


 マギはちょっぴり引いてしまったが、


「今晩を楽しみにしていてくだせえ」


 ベンノは狼狽えるマギを見て楽しそうに笑っていた。




 夕食には様々な海の幸が並べられた。マギたちの目の前のテーブルには中に炭の入った小型のかまどが用意されて、その上には金網が乗せられている。浜焼きと言うのだそうだ。


 網の上には市場で見た大きなエビやカニが食べやすいように切られて並び、ゲンコツや手のひらのようなサイズの貝も乗っている。焼き上げられるにつれて香ばしい良い匂いが漂って、そこにジュワッと黒い調味料がかけられると音も香りもさらに食欲を刺激してくる。


「さあ、これはもう焼けました。どうぞ」


 ベンノはゲンコツのような巻き貝から細い串でクルリと上手いこと中の身を取り出して渡してくれた。


「はふっ、はふっ、旨い!」


 ただ焼いただけと思われたその料理はびっくりするくらいに美味しかった。手のひらサイズの貝にはバターもちょっぴり落とされ、これもまた旨い。エビやカニも川のものならバリバリと殻ごと食べるのだが、大きな海のものは殻から中身だけを取り出して食べるのだ。プリプリとした身には甘味も感じられて、海水の塩気のせいか味付け無しでもめちゃめちゃ旨い。思わず口数も減って黙々と食べ続けてしまう。


 おそるおそる手を伸ばした、生きていた時はうねうねと気持ち悪かったアレも、噛み付くとまずコリッとした歯応えや弾力があり、噛み応えがあるのに柔らかいという不思議な食感と旨味が良い。ベンノがおすすめしてくれるだけのことはある。怖がっていたらこんな美味しいものを食べ損ねたかもしれない。


 他にも、もちろん魚もいろいろ出されたし、貝やエビなんかと一緒に煮込まれた汁物は全ての旨味が凝縮された最高の一品だった。


『美味しいにゃ! どれもぜーんぶ美味しいにゃ! 幸せにゃーっ!』


『すごいです! この町はすごいです!』


『波の音を聞きながら海の幸を楽しむなんて素敵よね……』


『どの品も見事である!』


 仲間たちも大満足で楽しそうだ。ルビーなんて驚喜している。


『はあ、この町にずーっといたいにゃ。……は、無理だってわかってるにゃ。もう一日だけ、ダメにゃ……?』


「例の二人組がすぐ後ろから来てるんだよ。今回は無理かな。また今度、ゆっくりできると良いね。ごめん」


 そう、一日遅れで城を出た二人組は、マギたちと同じルートを使い後ろから続いて来てるのだ。ルビーはがっくりと肩を落としながらも受け入れてくれる。


『仕方ないにゃ……。また来るにゃ!』


「もっと落ち着いて旅ができるようになればいいな。そしたらこの町にもゆっくり滞在したいね」


「季節が変われば、また旨い魚も変わります。その度にまた違ったおもてなしもできると思いやすから、ゆっくり滞在できなくても時期を開けて度々訪ねてくだせえ。それも楽しみなもんですぜ?」


 ベンノの言葉でルビーの気持ちも晴れたようだ。マギもまた楽しみが増えた。




 夕食後、アンデレが訪ねて来た。納金を届けてくれたのだ。ついでにポーションも買い取ってくれた。港で評判なのだとか。


「体が資本の海の男たちにとって怪我は大敵ですからね」


 日に焼けた笑顔でそう言うこの人も、港町をまとめ上げているだけあって屈強な海の男だ。漁が再開されて港町に活気が戻っていることを嬉しそうに話してお礼を言われた。


「そう言えば、マギ様のお仲間はロバですよね? すっごく脚が速いんで驚きましたよ。馬を使って先駆けて帰ってきた私と到着が然程変わらなかったですよ? ロバが人を乗せてそのスピードを出せるなんて……」


「……? いや、俺たちは歩いて旅をしてる。ロバには乗ってないよ」


「え!?」


 町長も全速力で駆けてきた訳ではない。馬を使っての移動でも、途中で馬を休ませて飼い葉や水を摂らせたりとなんやかんや時間がかかるもので、町に着いたのは午後になってからだったのだと言う。

 ちなみに馬に無理をさせて潰す勢いで乗り継いで駆けさせれば、一日で神殿から神殿まででも進めないこともないのだそうだ。それはかなりの無茶をしてのことらしいけど。普通は無理して町三つ分くらいみたいだ。


「歩いて? このスピード? やはり勇者様の御一行というのは体の作りから違うのですかね?」


 そう言えば最近、思ったよりも早く着いたなと感じることが多くなった気がする。国を一周歩き続けたことで、しかも焦って先を急ぐことの多い旅だったこともあって、マギの身体強化の魔法もパワーアップしてきてるのかもしれない。


「あー、そういうものなんですかね? 俺の場合は荷物が少なくて済むのもあるかもしれないですね」


 魔法のおかげだとはあまり吹聴したくなかったので、マギはポンポンとマジックバッグを叩いて見せた。


「なるほど……。それもあるかもしれませんね。装備と言い、身体能力と言い、さすが勇者様だ。納得いたしました。それでは今後ともつつがない旅を……」


 海の男とは言え、アンデレも商業エリアの町長だ。目利きの力も持ち合わせているのだろう。目聡くマギたちの光のローブに視線を向けると、うんうんと頷き、納得顔で退出していった。


「勇者の名と光のローブやマジックバッグでなんとか誤魔化せたのかな……?」


 薬師でもあることから魔法が使えるというのは隠しきれないだろうけど、最近迂闊になっていた自分を反省してはいたので、魔法の能力を誤魔化せたことにホッとするマギだった。






      納金 +10枚

 ポーション買取+36.5枚(良50、ハイ5、毒5、魔5)


 現在の所持金貨 585.5枚

     町資産 3400枚分



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