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 外伝 プライドとヒーロ②



 西神殿の先、商業エリアはどの町も栄えているようだった。つまり町の価値が高く、入場税も比例して高い。

 鉱山エリアから魔物の素材を持ち歩かされていたヒーロは、当然どこかの町で一泊くらいはできると考えていた。背中の荷物はかなり増えている。商業エリアなら確実に素材を売却できるはずなのだから。


「わざわざこのような高い町に泊まらずとも良いだろうが!」


 プライドにそう一蹴された時には、思わず物理的に蹴飛ばしそうになったが、ぐっと堪えた。まだだ、まだブチ切れるには早いと。


 それでも、もう体力の限界だったヒーロは、南神殿で休んだ時に訴えた。


「さすがに農業エリアはさほど高くないでしょう。必ず一泊はして素材を売りましょう。もう私一人では持ち切れません。プライド様に持たせるなんてもっての外ですし……」


 泊まらないのならお前が持てよ! という言葉は飲み込んで、申し訳なさそうな仮面を被って説得し、なんとか「安い村ならば」という了承を得られた。

 次の町はエリア最大の町だという話なので、そこで泊まるのは無理だろう。後まだ二日はこの重い荷物を運ぶことに耐えなければいけないのかと思うと体も気も重くなる。それでも予定が覆されては堪らないので、せっせとプライドの機嫌をとるヒーロだった。




 そうしてやっとたどり着いたクワの村は、金貨五枚で泊まれるというのでプライドも納得してくれた。二人だから十枚ではあるのだが。


 ただし、この村に商人はいなかった。物不足で困っているとかで村長が買い取りをしてくれたが、農業エリアに入ってから狩ったイノシシの肉の方が喜ばれて、鉱山エリアからずっと持ち歩かされた蝙蝠やトカゲの素材にはあまり良い値がつかなかった。

 魔法素材など農業エリアに必要はないので当たり前だ。だから商業エリアで売っておけば良かったのに、と愚痴っても仕方がない。この旅ですっかり身に付いた言葉を呑み込むスキルをまた発動した。


 大量の素材を全て買い取ってもらっても金貨三十枚。この村ではそれが出せるギリギリだと言う。金の無さそうな小さな村だ。当然だろう。

 けれど、そういったことに頭が回らないのか、プライドは顔を真っ赤にして怒っていた。もしかすると自分よりも馬鹿なのかもしれないとヒーロは醒めた目で見ていた。

 ともあれ、これ以上この荷物を持ち歩かされるのは真剣に嫌だったヒーロは、その値段で全て売ってしまった。それが更にプライドの怒りを買い、それからのプライドは癇癪と我が儘で手が付けられないほどになっていたが、村の者に任せてヒーロは知らんぷりを極め込んだ。




 クワの村には宿屋も無く、質素な食事と質の悪い寝床では碌に疲れも取れず、ヒーロは体力的にも精神的にも限界だった。


 そこからの旅は最悪だ。癇癪ばかりのプライドの機嫌をとる気も起きず、重い体を引きずるようにして歩くヒーロは明らかにペースダウンしていたので、それにまたプライドが怒鳴り散らす。作業のように野宿の準備や魔物の討伐は熟していたが、話をする気にもなれず、一方的にがなり立てるプライドと無言のヒーロの二人旅となっていた。


 東神殿では泥のように眠ったが、溜まり続けた疲労はやはり取れない。なんとかギリギリ日没までに次の町にたどり着く毎日を繰り返して、やっと今日、王城に戻ってくることができたのだった。




 王様との謁見の際、プライドは六千二百枚の金貨を持っていたので褒賞金として金貨六百二十枚を受け取ることができたが、ヒーロは手持ちがゼロなので褒賞金ももらえなかった。


 プライドは王様から直々に声を掛けられ、


「現在の一位はお主である。飛び抜けて資産を増やしておるな。いや、あっぱれ!!」


 と手放しで誉められたので上機嫌であった。一応ヒーロにも、


「お主は早々に脱落か? (あわ)れよのう」


 との言葉はあったが、鼻であしらわれていたように思われる。疲れ果てていたヒーロにとっては、最早どうでもいいような気さえしていた。



 ◇



 褒美ももらって機嫌の良かったプライドは、城下町で宿を取ることを許してやった。ここでは入場税ではなく、通常の宿代なのでお値段も常識的であったからして。

 それでも自分の金を減らすのは勿体ないのでそこそこの宿屋で我慢してやると、鬱陶しくもフラフラと覚束ない足取りで付いてくるヒーロを連れて部屋に入った。


 ヒーロの奴は領主である自分の身の回りの世話に気を遣うことも無く、部屋に入るなり荷物を降ろして装備を解き始めている。睨み付けても気にも止めず、ガチャガチャと重い鎧や兜を音を立てて脱ぎ捨てており、プライドはその態度と騒がしさにまた腹を立てた。


「おいっ! 部屋に入ったのなら、まずは儂のためにお茶の用意であろうが!」


 大声でわざわざ指示を出してやっても、聞く気も無いようだ。身軽になった途端、ホッと安心したような顔をすると、そのままベッドに倒れ込んだ。


「なっ!? 何をしておる! そこは儂の寝台だぞ!?」


 プライドがいくら叫んでも意に介さず、すでに眠り込んでいる有り様だ。ますます腹が立つ。


「ええい! この軟弱者め! 主を差し置いてベッドを占領するとは何事だ!」


 ヒーロの獅子の鬣のような青い髪を引っ掴んで、ユサユサと手加減なく揺さぶるが、役立たずの兵士は起きる様子もない。


「忌々しい奴め! このまま捨て置いて出て行ってしまおうか……。いや、それでは儂の世話をする者も護衛もいなくなってしまうか……。仕方ない……」


 妙な形の揉み上げが厭らしさを増す七三分けの赤髪。顔中に刻み込まれた皺の、太い眉の間だけを更に濃く深くしてプライドは吐き捨てるように呟く。


「ワイズの奴が、儂のための人足を集めてくるまでの繋ぎだ。護衛やメイド、小間使いが揃えばお前のような者に用は無い。まったく腹の立つ男だ!」


 小太りの体に身に付けたヒラヒラした襟のシャツも、金モールで装飾されたベスト付きの上着もスラックスも、どれも草臥れて薄汚れている。すでに威厳も何も無い姿のプライド。それでも、自分は高貴な者なのだから、と身分の高さを疑わない。傲慢に気高く生きる権利と価値がある人間なのだと。


 プライドはニヤリと厭らしい笑みを浮かべると、自らの手に持つたったひとつのもの、奴隷の折檻にも使っていた杖を振り上げる。その杖も過去にはあったはずの煌びやかな装飾は剥がれ、みすぼらしいものへと変わっているのだが。今となっては強靭さだけが残されたそれを、反応の無いヒーロに向かって醜悪な笑顔で躊躇なく振り下ろした。



 ◇



 プライドは宿代をケチってベッドがひとつしか無いシングルの部屋を取っていた。兵士など椅子か床にでも寝ればいいと考えて。ところが、そのたったひとつのベッドを部屋に入るなり奪われてしまったのだ。

 腹立たしくて仕方ないが、体の大きなヒーロを動かすこともできず、目を覚ますこともない。腹癒せにと抗うことのないヒーロに向けて、気の済むまで打ち据えてやった。

 自分が床に寝ることはしたくないので、嫌々ながらもう一部屋とることにした。あんな奴には食事もいらないだろうと、自分の部屋だけに食事を用意させ、ヒーロの部屋のことなど忘れたかのように放ったらかしておいた。




 弱った体に文字通り鞭打たれたヒーロは、それから丸二日寝込んでしまった。体だけは強靭に鍛え上げていたおかげで、そのまま目を覚まさないなどどいう最悪の状況だけは避けられた。気を失っていたヒーロ本人はプライドの蛮行に気付いてはいなかったので、ガッツリ寝て体力を回復した脳筋は再びプライドとともに旅立つのだった。

 仕返しとも言えないが、起きてから食った大量の食事代と二日間二部屋分の宿賃で、ほんの少しだけケチなプライドの懐に傷を付けてやったことが小さな復讐と言えるだろうか。




 いつまでこの二人の関係が破綻せずにいられるのかは定かではない。






 ◇◆◇ 一周目リザルト ◇◆◇


   プレイヤー3:プライド(赤)


   購入した町:0

   資産 金貨:6820枚

       町:0

      合計:6820枚分


  次回褒賞予定:682枚



 ◇◆◇ 一周目リザルト ◇◆◇


   プレイヤー4:ヒーロ(青)


   購入した町:0

   資産 金貨:0

       町:0

      合計:0


  次回褒賞予定:0



 城下町の宿屋での支払い  金貨2枚






 ちょこっとお休みして二章に入ります。


 やる気と元気の源、皆様からの感想や評価などなどお待ちしております。これからも応援よろしくお願いいたします。



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