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 三十三話 魔法使い



「あー、その、失礼しました。俺は魔法使いで、こいつらは俺の使い魔なんだ」


 マギの風魔法をその目で見ていたので、男はコクコクと頷いた。だが、不思議なものを見てしまったと顔に書いてある。


「えーと、魔法使いと使い魔ってのは頭の中で意思の疎通ができるんだよ。だから、決して一人で叫び出した危ない奴じゃないんだって」


「ほお……、それで何やら動物と話していたって訳なんだな? ふうん……」


 説明したところで男の不思議なものを見る目は変わらなかったので、マギは仕切り直すことにした。


「改めて、ありがとう。助かったよ。俺はマギ。今は東神殿に向かって旅をしている」


「旅を……? 子供が一人でこんな森の中にいるなんてビックリしたんだぞ。思わず飛び出しちまった。だが、もしかしてあんた勇者様ってことか? 旅をするにしても街道を歩いた方が良いぞ。今さら遅いが、森の中は危ない」


「俺も元々は森の中の生まれだからな。わかっちゃいたんだけど、すまない。気が緩んでた。おかげで迷惑かけちゃったな」


「いや、俺は蛇を狩りにここに来たからな。どっちかと言ったら俺の方も助かった。ありがとう。俺はネルの村のアンプロって者だ。食料調達に来たんだが、この有り様だよ。こちらこそ剣を借りちまったし、それにポーションも……」


 すごい効き目だったことで、高価な薬を使わせてしまったと気に病んでいるようだ。


「ああ、いや。剣をなくしたのも俺たちを助けようとしてくれたからだし。その剣は貰い物なんだけど、俺は魔法使いなので剣は得意じゃないんだ。良かったら使ってくれ。ポーションも自作のものだから気にしなくていい」


『得意じゃないとか、また格好つけてるにゃ?』


「うるさいぞ! 今、話してるんだ。ちょっと黙っとけ……」


 あっ、と思って振り返ると、苦笑いの男と目が合った。


「……? また動物、……いや使い魔だったか? それと話してたのか?」


 せっかく仕切り直したつもりだったのに、また一人で叫んでしまったと赤面するマギ。


「いいさ。なんとなく理解できたから気にすんな。それで、このイタチ? も勇者様の使い魔だったってことか?」


「……気を遣ってもらってすまん。こいつは今、使い魔になったんだよ。なぜだか気に入ってくれて。名付けを受け入れてもらえると使い魔として、主の魔法使いとはリンクがつながるんだ」


「ふんふん。とにかくマギ様は勇者様で魔法使い様で薬師様で、すごいってことだな」


 やはり理解はしてもらえないようだが、それで納得できるならもういいか、とマギは開き直った。


「ともかく、俺たちはこれからネルの村に向かい、権利を購入させてもらう。明日にはナワに行って、そこでも権利を買えば森林エリアも解放だ」


「本当か!? それはありがたい! 早く、一緒に村に帰ろう! いや……、その前にこの蛇をどうするか……」


 目の前に横たわる巨大な蛇の(むくろ)。担いでも引きずっても持ち帰れそうにはとても見えない。


「こんなデカい蛇を一人で狩りに来て、どうやって持ち帰るつもりだったんだ?」


「いやあ……」


 男が狙っていた蛇は、この辺りに生息する大蛇ではあったものの、もっとずっと小さいものだった。大蛇とはいえ、首に担いで持ち帰ることもできる。ここらで見られるのはそんなサイズのものばかりのはずだったのだ。


「こいつは、この辺りのヌシだな、たぶん。森の中を駆け回ってる俺でも初めて見る大きさだ。一人で遭遇してたら無事じゃあ済まなかっただろう」


 子供が襲われていると思い考え無しに飛び出した自分の蛮行に背筋が震えるが、その子供が勇者様で助かったと頭を下げ頬を掻く。


「こんだけデカけりゃ村のみんなで腹一杯食えるし、何日ももつ。……だが、運ぶのは無理だな。もったいないが、せめて少しだけでも」


「持ち上げられるくらいにぶつ切りにしてもいいなら、俺が運ぶよ?」


 マジックバッグをポンポンと叩いて説明してやると、男は大いに驚き喜んだ。


「いやあ、やっぱりマギ様、勇者様だ! そんなバッグ持ってるなんてスゲえや!」


 そう言うやいなや、喜々として手早く蛇を細切れにしていく。先ほども目にした流石の剣裁きであった。マギはそれを端からバッグに詰め込んでいく。


「蛇は食える部分は少ないんだが、この巨体ならたっぷり肉が取れそうだぜ」


 ホクホクと嬉しそうな男が「これだけあれば、もうじゅうぶんだ」と言うところまで拾い集めたら、男と一緒に街道に出てマギ様御一行様はネルの村へと進んでいった。




 道中、いろいろと話を聞いた。

 森林エリアの人々は、彼のように森や林に出る獣や魔物を狩っては、その肉や素材を商人に買い取ってもらって暮らしているらしい。森に入れば何かしらはいるので食うに困るということは無いけれど、普段から商人のいない村ではいつでも買い取ってもらえる訳ではない。つまり、現金収入としてはままならない。だから町に発展することもなく、だから商人もあまり寄ってくれない。悪循環らしい。


「それでもな。前までの王様だったなら、食ってく分にはなんとかなるから、それなりに暮らしていくこともできてたんだよ」


 小さな村々にも定期的に行商が回るように手配してくれ、年に数回と少なくても日用品や薬、塩などの必需品、武器の調達もできていた。自分たちで村を出るのは本当にイレギュラーな何かしらがあった場合くらいで、森の中の狭い世界しか知らずとも生きていけた。


「王様はなんで変わっちまったのかな……?」


 いったい何がどうして、と男は愚痴る。今のところはこれまでと変わりないまま暮らしているが、行商人が来ない、他の町にも出掛けられない、となれば、近い将来に生活は破綻する。こんな風にジリジリと苦しめるような御触れを出されるなんて、自分たちは何かをしでかしてしまったのだろうかと。


 以前までの王様は、抜けてるところはあったけど、そんな部分も民から愛される方だったのだそうだ。行き過ぎたトンチンカンをやらかそうとする時もありはしたが、そんな時はしっかり者の王妃様がきちんと手綱を引いてくれて、なんだかんだ上手く治世されていた。


「小さい国だし、外との戦争なんてものも無い。たまのお戯れが良い刺激になって国は上手く回ってた。みんな、この国も王様も大好きだったんだ。王様も俺たちを愛してくれてると思ってたんだがな……」


 今回の素っ頓狂な御触れも、最初はまたまたお戯れかと、それほど大ごとに感じていなかったらしい。なのに、いよいよみんなが困り果ててきても、御触れが撤回されることはなかった。


「みんな王様が大好き、か。だからギリギリの暮らしでも王命には逆らわないで踏ん張っていたのかな」


「他の村や町でも、やっぱりそうか?」


「ああ、みんな一生懸命耐えていた。……それにしても、謁見した王様は確かに憎めない風貌と言えばそんな感じだったけど、王妃様は見なかったな。大臣って人はいたけど」


「その大臣って奴がいけねえのかな? 俺らには難しいことはわかんねえが、前の愛すべき王様に戻ってくれねえかなって、みんな思ってるのさ……」




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