三十二話 炎を纏った何か
「あれは……何だ!?」
「……わかりません。でも戦ってくれている」
『あれ、あれは知ってる気がするにゃ!』
『私も、よくわかりませんが、何かを感じます』
『我を、助けてくれたのだ!』
それは、素早い動きで大蛇の周りを飛び回っては翻弄している。あまりにも早過ぎて、ここからではそれが何なのかはわからないが。身に纏った炎と時折飛ばす火球で、今も大蛇の気を引き付け続けてくれている。味方だと考えていいのだと思う。
「あれが気を引いているうちに、蛇の頭を落とせますか?」
「隙がある今なら……。いや、だが、剣が……。剣を飛ばされてしまった」
先ほど打ち付けられた時に、男は剣を手放してしまっていた。深い下草の中に落ちたのだろう。すでにどこにいってしまったのか見つけることはできない。
「俺は何をやってるんだ! ちくしょうっ!」
「これを!」
マギはマジックバッグの中から一振りの剣を取り出した。タテの町でポーションの礼にと渡された剣だ。自分には扱えないと思ったが、あの時もらっておいて本当に良かった。
ありがとう! ギヨームさん!!
「慣れない剣でもいけますか?」
「ありがたい、使わせてもらう!」
剣を渡すと男は立ち上がった。ポーションによって、すでに先ほど打ち付けられた時の傷は癒えていた。スラリと鞘から剣を抜き放つと、握りを確かめ、振り下ろし、斬り上げ、体に馴染ませる。
「……いい剣だ。……やれる!」
呼吸を整え、大蛇の動きを確認し、気を引いてくれている何かと反対の方向から、音も無く駆け寄って行く。それは達人の狩人の身のこなしだった。
だが、大蛇は自分に近付いてくる熱源に気がついているようだった。顔の周りをちょこまかと動き回る炎の熱量に気をとられつつも、チラリと後方にも意識を割いた。同時に尻尾が鞭のようにしなり、再び男を捕らえようと襲いかかる。
「風の刃!!」
マギは鋭さではなく風の勢いを高めることを意識して、その尻尾に向けて魔法を放った。スピードを上げて迎え撃つ風の塊は、切断するようには構築されていない。凝縮された風を打撃としてぶち当てることによって、衝撃とともに解放された風圧に押されて蛇の尾は空へと跳ね上がる。今度の横薙ぎの一撃は、男を捕らえること適わなかった。
「シャーッ!!」
大蛇は悔しそうに大口を開けて威嚇する。耳障りな音とともに息を吐き出す。
その瞬間を狙いすましていたかのように、口の中に目がけて炎が打ち込まれた。たまらず蛇が首を引っ込めたところを、
「ったあぁぁぁっ!!」
男の冴え渡る一撃が、その図太い首に撃ち込まれ断ち切った。
ドオンッ!! ……ドスンッ!!
地響きを上げて頭が地に落ち、続いて力を失った体も倒れ伏した。
「ハアッ、ハアッ、ハアッ」
とてつもなく長く感じられたような、たった数合の攻防に、マギも、助けに入ってくれたその男も息を荒げさせていた。
ルビーたちもひと声も発せられずに、もう起き上がることの無い大蛇の姿を見つめ固唾を呑んでいる。
「はあっ、はあ、ふう……」
なんとかマギと男が呼吸を整えることができた頃、ようやくルビーが口を開いた。
『や、やっつけたの……にゃ?』
「ああ、危なかった。みんな無事だよな? ……あなたも、ありがとう」
「あ、いや、こちらこそ……」
マギと男はガッチリと握手を交わす。汗ばんだ手にギリギリの戦いだったのだと実感させられる。
追撃は無いか。周辺の警戒も今度こそ怠らない。激しい戦闘により逃げ出したのか、この辺りにはマギたち以外の気配は感じられなかった。
「あいつは?」
「そういえば……」
先ほどまで蛇を引き付けてくれていた最大の功労者、炎の正体。それをみんなでキョロキョロと探す。
『や、やめ……、やめてくれ。熱っ! 何をするのだ……!』
ドンクの声に振り返ると、体に纏った炎は消され、尻尾の先にだけ小さく火を灯した紅い瞳の白いイタチのような生き物が、ドンクの頭の上に居座っていた。てしてしと不機嫌そうに尻尾でドンクの顔を叩いている。
『熱っ! やめてくれ。なんだと言うのだ。……ごめんなさい、やめて?』
ドンクはチラチラと揺れる尻尾の火に焙られ悲鳴を上げるが、ドンクの頭上でツンと澄ました顔をしているイタチはお構いなしでてしてしと叩き続ける。
『なんか知ってる気がするにゃ』
『私も、知ってる気がします』
「奇遇だな。俺もあの感じ、覚えがある気がする……」
……主に自身の経験として。じとっとルビーを見るが目を逸らされた。
ともかく、伝わるものかもわからないけれど、イタチにも「助けてくれてありがとう」とお礼を言う。
イタチはペコリと頭を下げ……た?
『一緒に来るって言ってるにゃ。よろしくって』
「お、おう……」
またもや、マギたちの旅に仲間が増えるようだ。白いイタチ……、で合ってるのか。炎を纏い、火球を扱えるからには魔物なのかもしれない。師匠も鼠の魔物を使い魔にしていたので、通じ合えれば魔物でも使い魔にはできる。
戦力にもなってくれそうなのでマギとしてもありがたい申し出だった。攻撃魔法は風魔法だけなので、今回のような大型の魔物を相手にするには攻撃力に不安がある。マギたちにとって、文字通りの火力アップが期待できる。
「名前は……フェレ。どうだろう? 気に入ってもらえるかな?」
「きゅーっ!」
ドンクへの対応からして女王様気質が感じられたマギは、なんだか怒られそうな気がしてしまい、おそるおそる名付けてみたのだが、思いのほか可愛らしい鳴き声ですんなりと受け入れてもらえた。
『なぜかしら? この鈍くさいロバが気になって仕方ないのよ。こいつがご主人様に迷惑かけないように、私がしっかり目を光らせます! この子たちも可愛いし、楽しくなりそうだわ。よろしくね、ご主人様!』
予想外に流暢に、くだけた喋りを披露してくれたフェレとは上手く付き合って行けそうだ。
「こちらこそ、よろしくな。頼りになりそうな仲間が増えて嬉しいよ」
『ドンクって鈍くさいって意味だったのにゃ!?』
『鈍くさいからドンクですか……。なんだか似合ってる気がしますね』
『な!? それは酷いのではなかろうか!?』
「違う、違う! 俺はそんな風に名を付けた覚えは無いぞ! ドンクってのはロバって意味で……」
『ご主人様、それはそれで安直だにゃ……』
新しい仲間を迎えたことで楽しい話も盛り上がる。マギたちはリンクで会話をしているので、いきなり一人で叫び出したように見えるマギを、一人取り残された男はポカンと見つめていた。
それに気がついたマギがまたもや赤面する羽目になるのは間もなくのこと。気を付けると言っても何度でも繰り返してしまうこの悪癖は、もう直す気など無いのであろうと思われる。
『我の扱いが酷いのである……』
『黙りなさい、愚鈍!』
新しい仲間 (ドS系女王様)




