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 二十九話 森の中の町



「これで、四つ目だ。印は揃った」


 峡谷では蝙蝠の襲撃に遭い難儀した。迫るような高い崖には、ところどころに洞穴があるようで、そこを住処としている蝙蝠が時折マギたちを見つけては襲ってきた。日中であったから数も少なかったし、マギは魔法を使えるので空を飛ぶ相手にも対応できたが、夕刻ともなれば群れで襲われたかもしれない。クロウも勇猛果敢に立ち向かってくれたので助かった。だが、やはり仲間を守りながらの野宿には無理があると再認識した。


 そうして通り抜けた峡谷の先、北神殿に一泊したことで、最後の印、星型の紋章が浮かび上がった。とうとう、旅のチェックポイントとも言える神殿の巡礼は完遂したのだ。後は森林エリアを通って東神殿経由で王城を目指せばいい。まだまだ旅は続くが、目に見える成果というのはわかりやすく嬉しいものだった。


 ちなみに、北神殿のシスターは幼い少女だった。後見の司祭や修道士たちが共にいるとはいえ、ツチやノースの様子にも気遣い、立派に勤め上げている。その年で神殿を任されるだけの力を身に宿しているということだ。

 小さくとも立派なシスターだと理解しても、「ししゅたーアガタでしゅ」と可愛く挨拶された時や、別れ際、辿々しい口調で見送ってくれる姿を見ると心配にもなった。あの子が身勝手な勇者たちに苛められたり、嫌な思いをさせられないといいけど。

 もちろんここでも金貨一枚を寄付させてもらった。ツルペッタンだって贔屓したりしない。幼女には幼女の良さが……ムニャムニャ。




 森林エリアに入ると、遠くに深い森が広がっているのが見えてきて、街道もじきに林の中へと入っていった。街道近くでも薬草が群生している場所もあるので、採取は続けていた。

 時々、魔力草も見つけることができた。魔力の多い場所に生える魔力草が見つかるということは、魔物も増えるということだ。奥へと踏み入らなければ遭遇を避けることはできそうだが、動物も多く、雑多な気配が感じられるので、ますます道中気を抜かずに進まなければならない。


 さらに鬱陶しいことに、東神殿から森林エリアへ進んでくる者がいる。前にもサウザーの町でニアミスした紫の点、奴隷商の奴だ。森林エリア内で、またすれ違うことになりそうだ。道ですれ違うなら林の中に身を隠さないといけないし、この先にある小さな村の中では見つからずにやり過ごすのも難しいかもしれない。仲間たちを危険に晒すようなことはしたくないが、どこですれ違うのか予想がつかない。何を企んでいるのか知らないけど、奴隷商の奴はずいぶんゆっくりしたペースで進んでいるのだ。


 また、他のプレーヤーたちも、それぞれ一周目の旅の終盤を迎えて、王城を目指し集結してきている。赤と青の二人組は南神殿から農業エリアを北進中だし、王城以来見かけていない黄色の点は城エリアに戻ってきている。盗賊の奴は間もなく一回目のゴールということだ。先駆けられていることに焦りを感じるが、この後どう動くかにも注視しておかないといけない。


「しばらくは、マップも頻繁に意識していかないとな……」


『ご主人様、心配ごとにゃ?』


「うん、ここから先は敵が多いなってね」


『周辺の索敵は私も行います』


『我も気にしておこう』


「そうだな、みんな頼りにしてる。一緒にがんばろうな」


 この日のマギたちは、ノースの町はあまり切羽詰まって無さそうだとの情報も得ていたので、久しぶりの森の中という環境に慣れるためにも、焦らずにゆっくりと進んでいった。マップや周辺の獣の気配を気にしながらだと、どうしても足が鈍り時間がかかってしまう。それでも落ち着いて行動できたことにより、日暮れ前にはノースの町に到着できた。




 ノースの町は木工で潤っている町で、以前であれば商人も足繁く通っていたので、このエリアの中ではきちんとした町として整っている。権利も金貨百枚支払った。

 マップで見ると、この先の三つは小さな村のようだ。次の“ニア”の村が金貨五十枚、その次の“ネル”の村は金貨二十枚、最後の“ナワ”の村も金貨三十枚と、金額だけで見ても規模が小さい。森林エリアはこの国で一番発展していないエリアのようだ。


 安いからと奴隷商に買われてしまわないかが心配だったけど、とりあえずナワの村が買われた様子はない。奴隷商はナワの村は素通りして、村の外で野宿をするようだ。こんな魔物も獣も多い林の中の街道で、村の近くとはいえ野宿できるなんて、案外肝っ玉が座っているとマギは感心した。

 それとも危機感が薄いのだろうか。襲う側の人間は襲われることに慣れていないからわからないのかもしれない。それとも用意周到な奴ならば、魔除けの香のひとつも準備しているのかもしれない。などと、いろいろと思考が過ぎったが、詮無いことは考えるのを止めて、マギはノースの町の様子に意識を移した。


 町の中には工房が並び建っており、職人たちが今日の仕事を終えて家路につく時間のようだ。聞いていた通り、食うに困っていないからか、絶望に縁取られたような顔は見かけられない。親を迎える子供たちの笑い声なども聞こえてきて、ホッと安堵する反面、仄かな郷愁も感じさせられてしまった。


『ご主人様? どうしたにゃ? 寂しいにゃ?』


 遠慮の無いルビーの問い掛けにドキッとさせられながらも、いつも気持ちに寄り添ってくれている、一人じゃないんだと安心する。


「ううん、この町は落ち着いているようで良かったな、と思ってね」


『ご主人様にはルビーたちがいるから寂しくないにゃ!』


 取り繕ってもバレバレである。クロウやドンクにまで優しい目で見つめられてしまった。


「……? はい、この町も少しは落ち着いてきました。マギ様のおかげです。鉱山のツチの町から鳥便で急ぎの知らせが届きまして、間もなく隊商も復活するだろうとの吉報に、人々にも笑顔が戻りました」


 宿屋へと案内してくれている門番がいたのを忘れ、ついついルビーと会話してしまったマギの大きな独り言のような台詞に、律儀にも返答し深々と頭を下げる門番さん。マギは居たたまれない気持ちになってしまった。

 ……だが、今、気になることを聞いた。


「鳥便? ツチの町から?」


「はい。二つの町の間では、この急場を凌ぐために鳥便を使って頻繁に連絡を取り合っております。二日前、“鉱山エリアはマギ様によって解放され救われた。近々そちらの町にも訪れるはずだから、忍耐の時もあと少しだ”との知らせを受けました。今、みんなが明るく前を向いていられるのは、マギ様のおかげです。ありがとうございます」


「うわあ、先触れがあったんだ……」


 そう言えば、コンサの街でも到着に先んじて情報を手にしていたようだったし、あれも鳥便とかを使っていたのかもしれない。

 商業エリアでもすでに情報を掴んでいて、さっそく動き出してくれているのだろう。


「期待を裏切ることにならないで良かったな……」


 マギはもちろんここも買うつもりであったが、うっかり誰かに先を越されたり、お金が足りなくて買えないなんてことにならずに済んで良かったと冷や汗を垂らした。

 大丈夫、まだ金貨は七百枚以上ある。奴隷商の出方次第なところもあるが、たぶんまだあいつは権利を買うことの意味に気付いていない。


 途中でばったり鉢合わせして、有り金を巻き上げられることのないように、残る村が買われてしまうことのないように、とマギは天に祈った。






      寄付   -1枚

    権利購入  -100枚

 ポーション買取   +3枚(良10本)


 現在の所持金貨   715枚

     町資産  2500枚分



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