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 二十八話 ロバの啼き声



 次に立ち寄った陶芸の町“ツチ”で鉱山エリアも独占完了(モノポリー)となった。ツチの町は岩山の間にぽっかりと急に現れた大きな穴のような地形にできていた。昔の火山活動によるものなのかもしれない。

 この町から先、北神殿へと続く道は、高い崖の間を切り取ったように狭い峡谷が続いている。起伏の激しい山道もここまでだ。


 この辺りでは良質の粘土が取れるらしく、町には焼き物の窯元が並んでいた。また、手先の器用な者が集まっているので細工や絵付けなどの巧い者も多く住むらしい。その辺のつながりで北神殿の向こう、森林エリアの木工の町“ノース”との交流が盛んだった。


 鉱山エリア最後の町となるので、長く放置されていた分どんな状況に置かれているかと心配していたが、北神殿からの施しもあり、さらには北神殿を介して森林エリアのノースの町とも秘かにやり取りをして凌いでいた。

 森林エリアには獣も多く出るし、木の実や果物などの山の幸も採れるので、それらを流してもらって何とか飢えることなく過ごしてこれたのだそうだ。普段からエリアを跨いで仲良くやっていたことが危機を救った。


「それじゃあ、森林エリアは逼迫した状況では無さそうだね」


「ずっと先の町のこたぁわかりませんが、ノースの町には飢えで苦しんいる奴ぁいないと思います」


 ツチの町長ゴアールにこの先の様子も聞けて、ホッと胸を撫で下ろす。もちろん、先の不安は感じているだろうが、今日、明日の猶予も無く飢えているなんて切羽詰まった状況でないのなら、流通が戻れば希望も戻るのだから。


 この町も思ったより余裕があったので隊商が来るまで持ちこたえられそうだ。それでもギリギリであることには変わりないので、もてなしは次の機会にお願いするからと遠慮して、一晩の宿だけ借りさせてもらった。

 食事は持参した食料で炊き出しを行い、町の人たちと一緒に食べた。物作りの町に商人が来ないというのは致命的なので最初はみんな暗い顔をしていたが、食事をしながらまた隊商が来ることを話したので町の人々にも笑顔が戻った。


 その晩は慎ましくも楽しい時間を過ごせた。マギとしては大袈裟に歓迎されるよりも、畏まった宴の席を開かれるよりも、こうして笑顔を見せてくれればそれだけで嬉しい。やれるだけのことはやれたのだと実感が湧いて、久々に心安らかに眠りにつくことができた。




 翌朝、この町でもポーションを渡して旅立とうとすると、ゴアールにお礼にぜひとも焼き物を持って行って欲しいと言われてしまった。マギには焼き物の価値がわからなかったし、旅を続ける身としては使う当てもない。気持ちはありがたいけど、どうしようか困っていたところにそれが現れた。


「イーヒッホーッ、イヒッイヒッ!!」


「ウオッ!?」


 どこからか大音量の笑い声、いや、(いなな)きが空気を振るわすように響き渡る。思わずビクッとして、危なく手にしていた焼き物を落としそうになって焦りまくった。


『んにゃっ!?』


「カアーッ! カアッ! カアッ!」


 ルビーとクロウも驚いたのか、興奮したように反応していた。ドカッドカッという地響きとともに土埃がみるみるうちに近付いて来て、マギたちの目の前に現れたもの。


 ――それはまさかのロバだった。


「あー、騒がしくしてすんません。そいつ最近いつの間にか住み着いちまったんですよ。毎度、こうやって奇声を発するもんだから、その度に焼き物を取り落とす奴がいて困っとるんですわ」


「ろ、ロバって、こんな奇声を上げて啼くんだ……?」


 マギも危ないところだったが何とか落とさずに済んでホッとした。またいきなり啼き出したら次こそは落とすかもしれないとヒヤヒヤしたので、取り急ぎ、手の中の焼き物は町長にお返ししておく。焼き物を受け取りながら、ゴアールは苦い顔でため息を吐いた。


「それでも、どこにも行くところが無いのか、何度追っ払っても戻って来ちまうんですよ。まったくどうしたものやら……。はあ……」


 灰色の毛並みに、小さいけれど円らな茶色の目。睫毛がパチパチしているところは可愛いと言えなくもないのか。大きな白い鼻面をふんがふんがと鳴らし、ピョコンと立った頭の上の大きな耳をピコピコと素早く動かすので、そこにうちの使い魔たちがじゃれついている。


『ご主人様! こいつ面白いにゃ!』


『なぜか、放っとけない気持ちにさせられます』


 っていうか、いつの間にロバの上に飛び乗ったんだ? つい今し方まで、頭と肩の上で叫んでたのに。


 視線を向けると件のロバと目が合ってしまった。マギと目が合うと、潤んだ瞳で切なそうにこちらを見つめてくる。雑な啼き声も相まって、なんだか妙に哀愁を感じさせられる。ルビーとクロウも目力とリンクとで訴えてくる。


『一緒に来たいって言ってるにゃ……』


『ご主人様、ダメでしょうか……?』


「……はあ、……仕方ないか」


 一応、許可はもらっておいた方がいいだろう、町長に話を通しておこう。


「あー、あの、ゴアールさん? もし良ければ……。このロバを譲ってもらえないかな? うちの子たちと、その、ずいぶんと打ち解けているみたいで……。ポーション代には、このロバが欲しいんだけど……」


 どうぞ、どうぞと大喜びで押し付けられ……、もとい、譲ってもらえた。焼き物はもらっても困ってしまうので、ルビーたちが喜ぶなら良かったのか? これもじゅうぶん手に余りそうな気もするが。そんな風に考えているのが顔に出てたのか、町長が不安げにマギの顔を覗き込んできた。


「なんだか、逆に申し訳ねえことになっちまったが、……本当にいいんですかい?」


「いやいや、こっちの我が儘聞いてもらったんだ。嬉しいよ、ありがとう!」


 楽しそうにじゃれ合う三匹と、吹っ切れたように笑うマギを見て、ゴアールも肩の荷が降りたように笑顔を見せた。




 朝っぱらから騒がしいことこの上なかったが、無事、鉱山エリアもモノポリーできたマギたちは、ツチの町から続く切り立った崖に挟まれた狭い道を抜けて北神殿を目指す。

 ルビーとクロウがロバの背中に移ってくれたので、頭と肩が軽くなったのは、まあ嬉しい。三匹も何やらはしゃいでいるし、楽しそうで良いことだ。


『ご主人様、我が儘を聞いていただき、ありがとうございます』


「イヒッイヒッイヒッ!」


『ご主人様ぁ、名前欲しいって言ってるにゃ』


「ええ? ロバの使い魔なんて聞いたこと無いんだけど……。一緒に来るなら俺の使い魔になるか? んー、じゃあ、名前は……ドンク。どうだ?」


「イヒッイヒッ!」


 ドンクはまた変な笑い声のような啼き声を上げて受け入れてくれた。同時に使い魔のリンクがつながり、


『主殿、拾ってもらい、嬉しく思う』


 なんて気持ちが流れ込んできた。口を開けば喧しいのに、リンクだとずいぶん口数が少ないようだ。これなら、上手くやっていけるかもしれない。


「おお、俺も嬉しいよ。仲間が増えて。これからよろしくな。でも、うるさいからあんまり啼くなよ!」


『………………承知した』


 一瞬の間を置いて、ドンクはちょっとだけ切なそうな雰囲気で素直に返事した。やっぱりなんだか哀愁が漂っているのだった。






    権利購入  -50枚


 現在の所持金貨   813枚

     町資産  2400枚分


   新しい仲間 (騒音注意!)



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