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 二十七話 鉱山エリアを救え③



 翌日には鉱山エリア最大の町“トガリ”に入った。最大のこの町でも権利は金貨百枚と南側の町に比べれば高くない。

 ここではたくさんの鉱石が採れるのだそうだ。そのため商人たちも多くやって来るので他の町よりはやや大きいが、流通の止まった今となってはここも絶望に打ちひしがれていた。それでも少しは備蓄があったので、腹を空かして倒れるほどの者は出ていなかったのが救いだった。




 この町には宿屋があったので、部屋を借りて休んでいるところに町長が訪ねてきた。迎え入れた町長は青ざめている。何も言わずにオロオロしているだけなので不思議に思っていると、いきなりガバッと土下座した。額を床に擦り付けるようにして震えている。


「な、なんで!? 何!?」


「ま、ま、マギ様……、勇者様のお手を煩わせる失礼をお許し下さい!」


「……何かあったのか?」


 立ち上がらせようとしても立ってくれない。小さく蹲りガクガク震えて言い出せずにいる町長を無理やり促して口を開かせる。


「マギ様……、ポーションをお持ちではありませんか? もしお持ちでしたら、いくらでも構いませんのでお譲りいただけないでしょうか……」


『……いじめてるみたいだにゃ』


『何をこれほど恐れているのでしょう?』


「……ポーションなら持ってる。必要なら渡すから、ちゃんと話して。何があったの? どのくらい必要なの?」


「……怒らないで聞いていただけますか? ……実は、鉱山でガスが出ました。数人が毒にやられたようです」


「大変じゃないか! それなら毒消しのポーションだな!」


 チカの村でもらった毒消し草でさっそく作った毒消しのポーションをマジックバッグから取り出しながら、ふと思う。


「ここの鉱山には毒消し草はないのか?」


「毒消し草は生えておりますが、薬師が……」


 王様の御触れが出される直前に、町でただ一人のお抱え薬師が、薬草を集めるために城エリアの草原へと出かけたところだったというのだ。戻ってこようにも入場税を払えるような金を持っているはずもなく、野宿を繰り返せるほどの強さも持ち合わせていない。今でも城エリアのエンタの町から出ることができずに足止めされているだろうと思われる。


「毒消し草のままではガスの毒には効果が薄いのです。商人が来るようになれば、多少高くても毒消しポーションを手に入れることはできます。それまでの延命にポーションがあれば……」


 平伏している町長は、マギが手に持つ毒消しポーションに気が付いていないようだ。


「商人が来るまでは、まだ数日はかかるだろう。ちょうど毒消しポーションを作ったところで良かった。すぐに飲ませてやってくれ」


 まさかの毒消しポーションの存在に町長は飛び上がって喜んだ。でも、まだ戸惑っている。


「ほ、本当に譲っていただけるのですか?」


「いいから、早く持っていってあげて!」


 とりあえず三人が倒れているというので、余裕をみて五本の毒消しポーションを持たせ、町長の尻を叩く。もし追加で大量に必要になってもいいように毒消し草の採取の許可も得ておいた。




 その後、集めた毒消し草でポーションを作っているマギの元へ、再び町長が訪ねてきた。


「マギ様、ありがとうございます。迅速に処置ができましたので、全員命に支障はございません。後遺症も残さず済むと思われます。先ほどは名前も名乗らずすみません。ベルナフと申します」


「それは良かった。この町の薬師はエンタの町だと言ったね。悪いけど、そこは最後に回ることになるから、薬師が戻ってくるまでにはまだ時間がかかると思う。今、毒消しポーションを作っているから、必要なだけ備えに持っておいて」


 町長はマギの言葉にキョトンとしている。その反応にマギもキョトンとしてしまう。


「……失礼ながら、お聞かせ願えますか? なぜ、マギ様はそのように我らを気にかけて下さるのでしょうか……?」


「え? だってポーションがなかったら困るよね?」


 話が噛み合わない理由は他の勇者の存在だった。これまでに数人、この町を訪れた勇者たちがいたという。


「最初にお泊まりになった勇者様は我らに興味が無さそうでした。先日お泊まりになった勇者様方からは、入場税に始まって、あらゆることにお怒りを受けました。じゅうぶんにおもてなしできなかった我らがいけないのですが……」


 マギにも、なんとなく予想がついた。その()()()()が誰でどんな態度だったのか。いきなり土下座したのも、妙に怯えていたのも、あいつらのせいだったのかと。


「……ああ、それは災難だったね。ねえ、ベルナフさん。勇者はみんな勝手だろう? 俺もやりたいようにやってるだけだから、気にしないで。自分たちが安全に旅がしたいから権利を購入させてもらってるんだし、良くしてもらうんだからポーションを譲るくらい当然だ。だから遠慮しないで」


 ため息混じりに項垂れて言ったマギだったが、その言葉に町長は打ち振るえた。この人こそが我々を救ってくれる本物の勇者様だと感涙にむせび泣いている。


「やめてよ、そんな大層な人間じゃない。俺は弱くて、俺にできることなんてほんの少しだけだ……」


 ポーションだってたまたま作れたから、金策のために始めたことだし、とマギは自嘲気味に笑ってみせる。


「マギ様、ありがとうございます。それでも我らはマギ様に救われております。よろしければポーションを買い取らせて下さい。商人が来ない今、無用の長物と思っておりましたが、幸い金ならございます。毒消しポーションと、お持ちでしたら怪我用のポーションも。売っていただけないでしょうか?」


 ずっと固さがほぐれたように見える町長からの提案を、マギはありがたく受けさせてもらった。

 毒消しポーションの相場はわからなかったけど、いつもは銀貨七十枚で買っていると言うので、良品質ポーションと同じ銀貨三十枚で買ってもらうことにした。先ほどの五本と合わせて二十本、良品質ポーションを三十本、ハイポーションも一本買ってもらえた。金貨十八枚のお買い上げ。遠慮しないで、あるところからはしっかりいただこう。


 この町の鉱山は、鉄や銅のみならず、金や銀も少しは出るので比較的お金持ちなのだと言う。また、宝石の類が掘れることもあるのだそうだ。

 滅多に掘り当てられるものではないのだが、一攫千金を狙いたくなってしまうのも人の(さが)なのだろう。そうした男たちが普段は入らないような側道を掘り進んで、運悪く今回のようなガス溜まりにぶち当たってしまう事故も、多くはないが少なくもない。


「一度痛い目を見れば、大概は目が覚めて実直に鉄鉱石なんかを掘ってくれるんですがね。ついつい夢を追い掛けてしまう気持ちもわからないではないんです。みんなちょっとばかり荒っぽくても、根は気の良い鉱夫たちなんでね。最初の一回はこちらでポーションを用意してやるんです。二回目からは実費だぞって言うと、死ぬ想いした怖さと相まって無茶もしなくなりますから。それでもたまあに当たりを引く奴もいますんで、いつまでたっても夢見る奴はいなくはならないんですよ」


 苦笑しながらも、こうやってポーションを揃えてあげたり、蒼白になって震えながらもマギを頼ったりしたのは、この人が鉱夫たちとこの町を大切に思っているからなのだろうと感じられた。


「強制するつもりは無いけど、流通が持ち直すまでは、せめて控えめにするようにお願いするよ。長いことじゃないからさ」


「はい。マギ様のお言葉として、しかと伝えさせていただきます」






    権利購入  -100枚

 ポーション買取  +18枚(良30本、毒20本、ハイ1本)


 現在の所持金貨   863枚

     町資産  2350枚分



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