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 二十六話 鉱山エリアを救え②



「ギヨームさん、こんな時間にすみません。少しいいですか?」


「マギ様……」


 夜明け間近の執務室の薄明かりの中、町長は仕事をしていた。寝ていないのだろうと窺える。町の権利が購入され、もうすぐ商人が来ると聞き、やらなければならない仕事は増えていた。それでも、辛そうな顔はしていない。何もできなかったこの数日間を思えば苦でもないのだろう。

 昨日のことがあってか少しギクシャクしてはいたが、仕事の手を止めるとマギに向き合う。


「この町でもポーションが必要でしょう? とりあえず、これを使って下さい」


 マジックバッグから取り出した良品質のポーションを十本テーブルの上に並べる。


「ありがたいことですが、今は予算をできるだけ食料に回したいのです。……三本だけ、お譲りいただけますか?」


「金はいいから。自作の品なので気にしないで使って欲しい。お金は町を持ち直すために使って下さい」


 町長は深々と頭を下げると、自嘲するようにポツリと言った。


「私のやっていることは無意味なのだろうか……。民のために王命に従い、それが皆を苦しめる……」


「みんなできることしかできないんだ。ギヨームさんは町長としてちゃんとがんばってるよ」


「マギ様は私たちに食料を与えてくださり、ポーションまで……。町を解放して商人も。私は何も……」


「それがたまたま俺のできることだっただけだ。人のために尽くしている訳じゃない。毎日みんなのために尽くしているのは勇者じゃなくて町長だろ? 今も寝ないで働いている。みんなを守っているのは町長だよ」


「マギ様……」


「これからも、俺は俺のできることをする。ギヨームさんは町長だからできることを頼む」


 泣き顔を見せたくなかったのだろう。背を向けて、声を上げずに肩を震わせて涙を流す町長。出発の準備があるからと、マギはそっと部屋を出た。




「それじゃあ、隣村が心配だからもう行くよ」


「はい、重ね重ねありがとうございます。次にお立ち寄りの際には、きっとおもてなしさせていただきます」


「そうだな。楽しみにしておくよ。だから、あと少し、みんなでがんばって乗り越えてくれ」


 別れ際に、町長から一振りの剣を渡された。今は他に何も返すものが無いから、せめてこの町で鍛えたこれを持っていって欲しいと。マギは剣術は苦手だったが、ありがたく受け取ることにした。


「チカの村をよろしくお願いします」


 使者の男はまだ弱っていて、マギたちのスピードには付いてこれないので別行動とし、後からゆっくり帰ってもらうことになった。大きく頷き返すと、黎明の空の下、マギたちは出発した。




『剣じゃお腹は膨れないにゃ』


『皆、耐えているのです。我慢しなさい』


『クロウ、あそこのトカゲ狩ってきてにゃ!』


 使い魔たちのやりとりに苦笑しながらも、焦りから足が早まる。チカの村はタテの町よりも逼迫しているようだ。


「北側の村や町は、後回しになった分、みんな辛い暮らしをしていると思う。城エリアに戻ったら、きっとまたすごいご馳走でもてなしてくれるだろうから、それまでは俺たちも我慢しような?」


『……わかってるにゃ。冗談にゃ』


『私は大丈夫です。ひもじい想いは味わっておりますから』


『ゴミあさりしてたにゃ』


『ひと言多いのです。忘れなさい!』


 またしても遣り合う使い魔たちを軽く宥めつつ、北へ、北へ。道が悪く、岩がゴロゴロしていたりして歩きづらい。余計な体力を奪われてしまう。昼過ぎにチカの村に着いた時にはだいぶ息が上がっていたが、自分がぶっ倒れている場合ではないと門へ急いだ。




「マギ様、こちらです!」


 金貨五十枚で権利を買って飛び込んだ鉱山の中腹の小さな村、チカの村は酷い有り様だった。門番の話では、二十人近い炭鉱夫たちが怪我を負い苦しんでいるらしい。怪我をしていない村人たちも空腹で弱り、立ち上がれない者の方が多いと言う。それでも、かろうじて動ける者たちには食料を渡し、炊き出しを頼んで、マギは怪我人の元へ走った。


「ポーションを持ってきたぞ! 動ける者がいたら手伝ってくれ!」


 怪我人の看病に当たっていた女たちとともに、怪我に直接ポーションを振り掛け、さらにもう一瓶を口に捻り込んで飲ませて回った。しばらくすると、苦しそうな呻き声も治まり、みんな眠りについたようだった。


「怪我が治っても、体力が落ちて弱っているんだ。しばらくは眠り続けるかもしれないが、目を覚ましたら食事を摂らせてやってくれ。少しだが食料も持ってきた。商業エリアの隊商も近々やってくる。もう心配しなくていいぞ。我慢するのもあとほんの少しだ」


 寝ている怪我人たちを起こさないようにと大きな声を上げる者はいなかったが、女たちはみなポロポロと涙を溢して「よかった、よかった」と口にした。女たちは鉱夫の嫁や娘たちなのだそうだ。夫が、父が助かったことを、村が救われたことを、心から喜んでいた。


「そろそろ炊き出しも出来ているかな? みんなもちゃんと食べるんだぞ?」


「炊き出し? 誰が?」


「動ける男たちに頼んでおいたが……」


 女たちは、ほとんどが血相を変えて飛び出していった。看病に残った少ない者たちに聞くと、


「この村の男たちは腕っぷしばかりが自慢で……。料理ができるような繊細な腕を持つ者は一人としていませんから……」


 と苦笑交じりに教えてくれた。

 大切な食料を無駄にされてはかなわないと、慌てて飛び出していったということだ。


 果たして、怪我人の治療が手際良く進められたことが良かったのか、男たちの料理下手が功を奏したのか、食材は無駄になる前に女たちの手によって救い出された。

 男たちは広場にかまどを組んだまではいいが、鍋のある場所さえわからずに右往左往するばかり。何一つ調理には取りかかれていなかったのだそうだ。


 そんな訳で、ちょっとばかり出来上がりが遅れたが、マギの持ち込んだ食料は女たちのおかげで無事美味しいスープへと変わった。たくさんではないけれど、あと数日分の食料も残っている。隊商が来るまで、力を合わせて持ちこたえられる希望がつながった。


「怪我人たちにたくさんのポーションを使っていただき、さらに備えの分まで。お代を受け取っていただけないのなら、せめてこれを……」


 村長からは石炭を現物で持っていって欲しいと言われたが、それは怪我をしてまで掘ってきた大切な収入源だ。マギには受け取れない。「ならば、他に何か」と言われたので村を見回してみると、鉱山の山肌には毒消し草が生えていた。


「ぜひ、あれを譲って欲しい。採取させてもらってもいいかな?」


 お願いを口にした途端、「勇者様は毒消し草が欲しいそうだ」と光の速さで話が村中に回り、しっかり食べて元気を取り戻した村人たちが張り切ってくれたので、たくさんの毒消し草をお礼として手渡されることになった。


「嬉しいけど、まだ本調子じゃないんだ。あまり無理しないで! もうじゅうぶんだから!」


『元気が出たようで良かったですね』


『みんな笑ってるにゃ!』






    権利購入  -50枚


 現在の所持金貨   945枚

     町資産  2250枚分



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