二十五話 鉱山エリアを救え①
マギたちがこっそり動き出したのはまだ未明のこと。やっと空が白々としてきたくらいの夜と朝の間。奴らが寝ているのはクロウが偵察してくれた。奴らだけではなく神殿中が寝静まっているけど。
絶対に顔を合わせたくはないし、鉱山エリアが心配だ。手の甲に槍のような印が現れているのを確認したマギは、誰にも気付かれないように、そっと静かに神殿を後にした。
……つもりだったが、外にはシスターが見送りに出てくれていた。
「シスター・マルタ……。すみません、起こしちゃいましたか?」
マギは申し訳なさそうにするが、シスターは笑顔でふるふると首を振った。
「お急ぎなのでしょう? 勇者様の巡礼の旅がつつがなく行われますように……。これは朝食を包みました。道中でお召し上がり下さい」
「わざわざありがとうございます。助かります」
「……鉱山の皆さんを、よろしくお願いします」
シスターも心配していたのだろう。優しい笑顔が切なげに歪んだ。シスターの不安を取り払うように瞳を真っ直ぐに見る。
「できる限りのことをします。いってきます」
様子もわからないのに安易に大丈夫とは言えなかった。それでも、みんなの祈りは届いていると信じて、気合いを入れ直し道を急ぐ。
まずは鉱山エリア一番目の町へと向かう。とにかく早く状況を確認したかったので採取も寄り道もしない。途中でバテる失敗を繰り返さないように休憩だけは随時取りながら、少しだけハイペースで岩山の道を進めば、昼過ぎには町が見えてきた。
たくさんの煙突が立つ、崖に囲まれた町。鍛冶の町“タテ”だ。だが、煙突から吐き出るはずの煙は昇っていなかった。
思わず駆け出すが、門には人が立っていて少しだけ安心した。取り急ぎ金貨五十枚で権利を購入して町へ入らせてもらい町長と面会する。町中に人の姿はほとんど無く、道端に座り込む者がまばらにいる。門番も町長も顔色が悪かった。
「町長のギヨームです。マギ様、権利の購入ありがとうございます。ですが、今この町では食料を切らしていまして、何のおもてなしもできないのです……」
「俺のことはいいですから。町の人々の状況はどうですか? 少しですがセンバの町で食料を購入して持ってきています。商業エリアでも準備ができ次第、隊商を送ってくれると言ってました。何とか持ちこたえられますか?」
マジックバッグから、金貨一枚分ずつ四つに分けて梱包された食料のうちのひとつを取り出す。それを見た町長は平伏しながら涙声でありがとうございますと繰り返した。
「ギヨームさん、泣いている場合じゃないだろう? 早くこの食料を使って炊き出しをしよう! 残りは商人が来るまで、きちんと管理して使ってくれ」
少しだけ強めに言ったマギの言葉でハッと我に返った町長は、自分自身もふらつく体であったにもかかわらずテキパキと指示を飛ばして段取りをつけていった。
町の広場ではかまどが組まれ、大きな鍋にスープが作られた。動ける者たちは総出で手伝い、動けない者にも出来上がったスープは届けられた。
町長の口から、町の権利が購入されたことにより商業エリア、農業エリアとの流通が戻ったことも伝えられ、人々の顔にも安堵の表情が見られた。
炊き出しは夕方になっても続き、ようやくみんなの口に食料が行き渡ったのは日が沈みかけた頃。ちょうどその時、北側の入り口から人が駆けつけて来た。
「ギヨーム様、隣村からの使者です。どうしましょう?」
「……かわいそうだが、王命には逆らえない。入れてやることはできないのだ」
「ですが! もう夜になる! このままでは……」
隣の炭鉱の村“チカ”から助けを求めて使者が来たらしい。だが、王命で手出しはできないのだそうだ。町長は悲愴な顔付きをしながらも頑なだった。町を守る者として、上には逆らえないのだと。
「この町は西神殿の皆様による施しがありましたので、まだ何とかやってこれていましたが……。隣村にはそれも無く、さらに悲惨な状況なのだと思います……」
「とにかく、入れてあげよう。チカの村には明日にも向かう。その使者の人にもスープを食ってもらって話を聞こう」
「しかし、王命が……」
王命ってのはなにがなんでも破れないものなのか。なぜこんな非道い御触れを出したのか。それでも弱い者は従うしかないのか。マギは泣きたい気持ちを押し殺した。
「……この町の権利はもう俺のものだ。その俺が言ってもダメなのか?」
「マギ様はまだ隣村の権利は手に入れておりません……。あの者は隣村の者ですから」
「なら、俺が入場税の金貨五枚を払おう。それなら入れてあげてもいいはずだ!」
マギのひと声で直ぐさま隣村の使者は広場へと連れてこられた。スープが与えられ、人心地ついたところでチカの村の状況を聞く。
「俺っチの村じゃあ、石炭を掘るのが仕事だ。飯もろくに食えねえまま穴に潜って、怪我した奴らがいっぱいいるんだ。頼む、食料が分けられねえのは仕方ねえが、ポーションがあったら分けてくれねえか」
「す、すまん……。この町もポーションを切らしていて無いんだ。少し待てば商人が来るらしいから、それまで待ってくれ……」
「そんな! 商人はあと何日したら来る? それまで持つかどうか……」
蹲ってがっくりと肩を落とす男に顔を上げさせると、きちんと視線を合わせて話し掛ける。
「大丈夫だ。ポーションなら俺が持ってる。こう見えて薬師の真似事をしている。怪我を治すポーションなら作れる。チカの村には明日、朝一で出発するから。心配しないで俺に任せておけ」
「勇者様、ポーションをお持ちなのですか!?」
「エ? 勇者、様? ほ、本物……あ、ありがとうごぜーます。あああ、ありがとう、ありがとう」
安心したのか、使者の男はひとしきり泣きじゃくった後、そのまま広場で大の字にぶっ倒れて眠ってしまった。残りわずかな体力で、一日かけて必死に歩いてきたのだろう。
鍛冶師の男たち数人がかりでずるずる引きずって、なんとか宿屋に運ばれていった。マギもそれに合わせて宿屋に向かい、明日も早いので休ませてもらうことにした。
「マギ様、これを……お納め下さい」
部屋を訪れた町長が持ってきたのは、先ほどマギが払った使者の男の入場税、金貨五枚だった。マギが払った金だが、マギの収入利益となって戻ってきた。
町長も苦い顔をしている。自分のしていることに納得がいってはいないのだろう。マギが何も言わず受け取ると、頭を下げてとぼとぼと部屋を出て行った。
「町長が悪い訳じゃないんだしな……」
『ご主人様……、悲しいにゃ?』
『何がいけないのでしょうね……』
今日は空気を読んでおとなしかったルビーたちが寄り添ってくれる。
「俺も納得いかないけど、強い者には逆らえないんだ……弱い者は。不条理でも、理不尽でも……」
『強いのに意地悪するにゃ?』
『上に立つ者が守るべき、と口で言うのは簡単ですが……』
「ふふ、クロウは難しいことわかってんだな」
『私には力はありませんが、ご主人様のことは守りたいです』
『んにゃ! ご主人様はルビーが守るにゃ!』
「そうだな。俺も弱いけどルビーたちのことは守るよ。ありがとうな」
もやもやとした苦い気持ちが、使い魔たちのおかげで少し楽になった。ベッドに横たわり、目をつぶると急速に眠気に襲われる。今日も一日駆け回った。明日もまたがんばるしかない。
「目の前のできることを、できる限りやるしかないもんな……」
せめて、この手の中のものは守りたいと思いながらマギは意識を手放した。
権利購入 -50枚
使者の入場税 -5枚
収入利益 +5枚
現在の所持金貨 995枚
町資産 2200枚分




