二十三話 町長たちのお願い
「なるほど。この町の人たちも、それほど悲観することなく暮らしてるんだな」
マギがポーション屋に行っている間に、クロウは町の偵察をしてくれていた。
商業エリアではどの町でも、農業エリアの人々と比べて切羽詰まった様子は見られず、明るく暮らしているようだった。元々の物資の量が違うのもあるだろうが、商人気質による図太さがなせるものか、
「いざとなったら船がある、なんとかなるさ」
と常に前向きにお気楽に生きられるのも、このエリアの人々の特徴のようだった。
それでもマギによってエリア解放されたことは、商人たちにとってはもちろん、町の者たちにも朗報だったので手厚い歓待を受けた。
海産物の他にも数々のごちそうが並べられた晩餐の席には、このセンバの町の町長に加え、サウザー、スピカ、ショーキの町長たちも揃っていて、深々とマギに頭を下げた。ちょうど会議が開かれていて、この町に集まっていたのだと言う。
「この度は商業エリアの解放、誠にありがとうございます」
立ち上がり礼を告げるセンバの町長に続き、各町長からも礼を言われる。
「畏まられるのは好きじゃない。これからも何度も訪れるんだし、こういう改まった宴は勘弁して下さい」
宿ではゆっくり休みたいのだとお願いすると、機嫌を損ねたかと町長たちの顔が青ざめる。慌てて料理や宿の素晴らしさ、人々の明るさなんかを褒めて、自分は喜んでいるとアピールするが、「なんで俺が気を遣ってるんだ、早く部屋に戻りたい」と心の中では涙を流していた。
こんな時に心を癒してくれる可愛い仲間たちは、さっさと逃げ出して部屋で寛いでいることだろう。
『そのような席に不吉な鳥は不似合いでしょうから、私は部屋におります』
『ごちそうは後でちゃんと届けてにゃ』
なんて送り出した裏切り者たちを恨めしく思うけど、クロウでは集められない情報の収集のためにも、この場は朗らかにまとめなければならない。
「ま、まあまあ、乾杯しましょう。俺はこの通りの子供なので飲めないけど、皆さんは酒を飲んで下さい。それで、もっと気楽な感じで楽しく話してくれる方が俺も楽しめるから」
マギの前には、見たことも無いような珍しい果物を使ったフルーツジュースが出され、マギ様がそう言うならと酒を飲み始めたお偉いさんたちもだんだんと固さがほぐれてきた。
それからは、目の前に並ぶ珍しくも美味しい料理のことを話したり、すでに解放された農業エリアのことが話題に上がったりと楽しい食事の時間が流れた。
食後に出された南の島から買ったというバナナという果物と牛乳を使ったジュースはマギの一番のお気に入りとなり、ルビーたちにも飲ませたかったので後で部屋にも届けて欲しいとお願いしたくらい美味しかった。
そんなマギのごきげんな様子を見計らってか、サウザーの町長が姿勢を正して改まった声を発した。
「図々しくも、マギ様にお願いがございます。この先、訪ねられると思います、鉱山エリアに関することでございます」
急に雰囲気を変えた町長たちの様子にマギは身構えたが、鉱山エリアの話ならちょうど聞いておきたかったことだ。西神殿から先、そのまま北へ回るのがいいか、値段の高い城エリアを先にモノポリーしてしまうのがいいかと考えていたのだ。
「鉱山エリアに何か問題が? これから進む場所なので俺としても教えて欲しい。遠慮なく言って下さい」
「いえ! 問題がある町という訳ではないのです! 町が置かれている状況に問題があると言いますか……」
「鉱山エリアで取れる鉱物は重要な商品です。それは農具も武器も鉱物が無ければ作れないからです」
「食料のようにわかりやすくはありませんが、作物を作るにも、獣を狩るにも、船を造るにも鉱物が必要です」
「身勝手なことですが、マギ様にはこの先、鉱山エリアにも権利を持っていただけると私どもも農業エリアの者たちも安心して暮らしていけます。どうかお願いいたします」
偉い大人たちが顔を青ざめさせて、一斉に小さなマギに頭を下げて懇願した。
「え? うわっ、頭を上げて下さい。俺も元からそのつもりでした。城エリアの権利を先に購入するべきか悩んでたけど。俺もいくらでも資金がある訳じゃないから、その辺りを相談したかったんです」
町長たちの話を聞くと、大切な資源である鉱山を優先して欲しいということだった。何よりも人的資源を。
「町自体が大きく、王城にも近い城エリアは、まだまだ自力で過ごしていける余力を残しております」
「比べて鉱山エリアは町も小さく、食料なども他の町からの取り引きに頼っております。この度の急な御触れに最も戦々恐々としているのは鉱山エリアに暮らす者たちだと思うのです」
「国王の御触れから二週間。その日暮らしの鉱夫やその家族の中には倒れている者も出ているかもしれません。事は一刻を争うのです」
「マギ様の解放の知らせが届きましたら、すぐに食料を積んだ隊商を向かわせる準備をしておきますので。どうか鉱山エリアの者たちにお慈悲を!」
吃驚した。今度はマギが青ざめる番だった。
こんな状況でも常に明るく、呑気に暮らしているように見えた商業エリアの人々。でも、上に立つ者たちは切羽詰まっていた。自らの町の民のことだけではなく、他のエリアの住民たちの暮らしまで気にかけ考えを巡らせていた。
各エリアを股にかける商人たちの目線だからこそ気が付けたことなのかもしれない。それぞれのエリア、どこが欠けても自分たちの暮らしに直結すると。ひいては自分たちの暮らしのためとは言え、顔色を青くしてまで真摯にマギに懇願したのは、他のエリアの人々を救って欲しいとの想いだった。
先々に不安を感じながらも、とりあえず目の前に食べる物を持っていた農業エリアでも、あれほど悲嘆に暮れていた。商人が来なければ明日の暮らしもままならない鉱山エリアの人々が、今どんな思いでいるのか。考えるまでもない。
「わかった。明日、早朝にこの町を立ち西神殿に、その後は北を目指す。とりあえず隊商が着くまでのつなぎになるように食料を持って向かいたい。この町にも現状それほどの余裕はないかもしれないけど、金貨四枚分、食料を売ってもらえませんか?」
「おお! ありがとうございます!」
歓声が響めき、涙ながらに感謝される。
「エリアが解放された今、買い取ってもらえるなら備蓄を差し出す者もいるでしょう。この町の食料をかき集めます!」
「この町には我々の町から食料を運ばせますから大丈夫です」
「ええ、我々の町は農業エリアに買い付けに行けますから」
「金貨四枚分もの食料となると運び屋を手配しなくては……!」
マギは、すぐにも食料と運び屋の手配に動き出そうとする町長たちを止めた。
「大丈夫です。大容量のマジックバッグを持ってるので詰め込んで先を急ぎます。神殿には一泊しなければいけないので急ぐにも限界があるけど、できるだけ急ぐので! 皆さんはその後の隊商の準備をお願いします!」
「おお!」とまたもや響めきが起きた。大容量のマジックバッグの存在に商人であれば食いつきたくなるのが当然だが、「今はそれよりも鉱山エリアのこと」とそれぞれが諫め合い、今日の晩餐はお開きとなった。
町長たちはそれぞれが手配に走り出し、マギは早朝に出発できるようにと、逸る気持ちを抑えつつポーション作りだけはして早めに床に就くことにした。
もちろん待機組の使い魔たちは、マギがポーションを作っている間に届けられたごちそうをしっかり堪能していた。
『これめちゃめちゃ美味しいにゃ!』
『むむっ。これは優しい甘さがたまりませんね』
バナナジュースはやはり大好評だった。
ポーション買取 +9枚(良30本)
食料の買付 -4枚
現在の所持金貨 1046枚
町資産 2150枚分




