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 二十二話 潮の香り



 マギが次に金貨百枚で権利を購入した漁師たちの住む港町スピカは不思議な匂いのする町だった。


『お魚の匂いにゃ。いい匂いにゃん!』


「お魚の匂い……なのか?」


「ははは、勇者様。これは潮の香りって言うんでさあ」


「……!」


 またルビーとの会話という名の独り言に返事されてしまって頬を染めるマギ。その様子をどう勘違いしているのか漁師の男は微笑ましそうに見ている。


「勇者様は海は初めてですか? 潮の香りってのは海の匂いってことです」


「……海! 近くにあるんだよね!」


「近くも何も、ここは港町ですからね。目の前ですぜ。その道の先は海です」


 南神殿の丘の上から遠目に見ただけでも、その大きさに圧倒された海がすぐそこにあると聞けば、思わずソワソワしてしまう。


「宿屋からももちろん見えますが、宿屋に案内する前に行ってみますか?」


「はい! お願いします!」


『お魚にゃ? お魚いっぱいにゃ!?』


『ずらーっと! ですよね? ご主人様!』


 ルビーもクロウもわくわくが止まらない様子ではしゃいでいる。先導する漁師を追い越す勢いで小走りに道を進めば、漁に使う道具の収められた小屋や、朝方には人で賑わうのであろう市場の建物などの向こうに、夕日に彩られた海原が現れた。

 青い水面は太陽の光にキラキラと輝き、白い波頭がレースの縁取りのように立っている。埠頭に当たった波が割れて水飛沫を上げる。その海水が風に吹かれてこちらまで飛んでくると、潮の香りが濃く感じられた。


「うわあっ! デカい! これが全部水でずーっと続いてるの!?」


『チャプチャプしてるにゃ!』


『ご主人様、私がいくら飛んでも向こう側までずっと海なのですよ!』


 圧倒的な壮大さに口も目も大きく開けて固まるマギを、漁師は黙って嬉しそうにニコニコと見つめていた。ひとしきり感動を与えられていたマギが我を取り戻したのを見計らってから漁師が口を開く。


「もう少ししたら、夕日が海に沈みます。そりゃあ綺麗なもんですから、ぜひ見ていただきたい。いかがですかね?」


「見ます! もう少しここにいていいですか?」


「俺っちなんかは見慣れちまって普通の景色なんですがね」


 なんて言いつつも、漁師も付き合ってくれるようだった。


『ご主人様、お魚は? お魚はどこにゃ?』


「お魚は市場の方かな?」


 しかし、市場に魚が並んでいる様子は無い。


『ずらーっと、はどこでしょうか?』


「もう夕方だからかな? 朝に来れば並んでいるのかな?」


 ずらーっと、どころか一匹も並んでいない市場。店自体が開いていないようだ。マギたちの疑問には漁師が答えてくれた。


「今は商売になってねえんですわ。他の町に売りに行くことも、誰かが買い付けに来ることも無かったですから。漁師はみんな自分たちで食べる分だけ捕ってくるだけで……」


『ずらーっとじゃないにゃ……』


『魚は食べられないということですか……』


 ルビーもクロウもがっくりと項垂れてしまった。


「農業エリアはモノポリーして解放したし、商業エリアも順調に権利を購入できそうだから。もうすぐ、ずらーっと並ぶようになるさ。今回だけ、お魚は我慢しよう」


「いや、今晩、宿でマギ様に食っていただく分はちゃんとありますぜ? 宿屋の主人が言ってるんですから、安心して腹いっぱい召し上がってください」


「宿屋の主人が……?」


「はい、俺はベンノと言います。漁師で宿屋もやってるんですわ」


 なぜか上手いことマギと漁師の会話が成り立っていたおかげで今晩は期待して良さそうだとわかった。腹いっぱいの魚と聞いて、マギも含めてみんなの笑顔が輝いた。


「やったーっ!」


 素直に魚を喜んでくれるマギに、漁師の笑顔もますます嬉しそうにほころんだ。




「綺麗だ……」


『すっごい、真っ赤っかにゃ……』


『どんどん色が変わっていきますね……』


 夕暮れの海はあっという間にその表情を変える。沈む夕日が海へと近付いていくにつれ、オレンジ色から燃えるような赤へ。そして紫へと変わりゆく海の色は、太陽がすっかり顔を隠すと漆黒へと変化した。どおん、どおんと響く波の音だけが聞こえていて、真っ黒な海に吸い込まれそうな気持ちになる。


「……なんか、怖いくらいだ」


「夜の海はおっかないですよ。日が暮れたら、近付かないでください。事故があっちゃあなんねえですから」


 自然は美しく、そして恐ろしい。

 そんな当たり前のことを久々に実感できる体験をさせてもらって、胸いっぱいの感動とともに宿屋に案内された。


 胸いっぱいの後は、腹いっぱいになる時間だ。


「あんまり種類は用意できなかったが、量だけはたっぷりありますから。お連れさんも遠慮なくどうぞ!」


 との言葉通り、ずらりと並べられた魚づくしの料理をマギたちは目いっぱい、いや腹いっぱい堪能した。




「漁が平常通りに再開されれば、もっといろんな海の幸を楽しんでいただけますから」


「うん、楽しみにしとくよ。そのためにも俺もモノポリーがんばらないとな」


『お魚美味しかったにゃ……。また来るにゃ!』


『素晴らしい料理でしたのに、これ以上があるとは! ぜひまた来ましょう!』


 港町にはポーション屋は無く、町長も不在だったが、ベンノさんが紹介してくれた港の管理局でポーションを買ってもらえた。海も魚も満喫して、意気揚々と旅を続ける。




 そのままの勢いで続く貿易都市“ショーキ”を金貨二百枚で購入。ここではポーション屋の他にも兵士の詰め所でもポーションを買ってもらって、合わせて金貨六十枚もの収入になった。大きな街だったので少し街をぶらついていたところ、詰め所の兵士の方から声を掛けてくれたのだ。少し話もしたが、みんな元気に明るい顔をしていた。


 そしていよいよ、次の町“センバ”を金貨百五十枚で購入したことにより商業エリアも独占完了(モノポリー)


 これで環状街道の南側は全てマギのものとなった。






    権利購入  -100枚

 ポーション買取   +6枚(良20本)

    権利購入  -200枚

 ポーション買取  +60枚(良50本、ハイ5本)×2

    権利購入  -150枚


 現在の所持金貨  1041枚

     町資産  2150枚分



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