二話 プロローグ②
「大臣のアイギス=エアハルトである。まず、その方らのこれからやるべきことから話そうか」
徐にのっぽの男、大臣は語り出した。
「このイングランデ王国は二十の町や村と四つの神殿が街道で結ばれた小さな国である。隣同士の町はだいたい歩きで一日ほどの距離にあるからして、ひと月もあれば国を一周できる。それくらいの小さな国だ。
神殿はこの王城を中心として、東西南北の位置にある。その方らは、それぞれこの王城を旅立ち、四つ全ての神殿に立ち寄り印をもらって、またこの王城へ戻ってくるのだ。
旅立ちに伴い、各々に三千枚ずつ金貨を渡す。一周して戻ってきた時、その方らの資産の一割の金貨をさらに褒美として渡す。それを繰り返して、一番最初に金貨十万枚分の資産を手にし、この城に戻ってきた者にこの国が与えられる。なあに、元手を減らさなければ、何もせず歩き続けたとて三年もあれば成されることだ。
ただし、早い者勝ちであるからして、その方らの持つ才能を生かし、他者よりも早く成し遂げなければならない。魔物を倒して素材を売って金を増やすも良し、商売をして金を貯めるも良し。何をしようと勝手だ。己の力でこの国を手に入れてみろ。
諦めてその金で生涯を静かに暮らす道を選ぶのも自由だ。まあ、勇者なら、どこまでやれるか自分の器量に賭けてみる気概は欲しいと思うがな」
大臣の言葉に、皆それぞれ思案に耽り、コクリと頷いた。
この王城のある街では、買い物も宿を取ることも自由にさせてもらえるが、他の町や村を利用するには、入る時に入場税を取られる。町の施設を利用せずに素通りするだけならば税を払う必要は無いが、監視の下で速やかに退出しなければならない。
神殿では無料で寝る場所と食事が施される。町でも神殿でも怪我などの治療も受けられる。
その程度の簡単な説明がされただけで、軍資金となる金貨三千枚の入った布袋が配られた。
再び王様が口を開く。
「この城から東西それぞれに延びる街道を進むと、三日程の距離に東と西の神殿がある。まずはどちらかを目指すと良い。途中、一日の距離ごとには村や町がある。そこで休むも、何かをするも、お主らの自由だ。誰が最初に金貨十万枚分の資産を貯めて戻ってくるか、まずはひと月後を楽しみに待っておるぞ。早い者勝ちじゃ、さあ、行け!」
「ハッ!」
そうして五人は謁見の間を後にした。
◇
城門を出た広場で、五人の男たちはお互いを確認し牽制し合う。それぞれがそれぞれをどこかで見た覚えがある。良く知っている者もいる。
一人は、前の世界では盗賊だった。
盗みの技とすばしっこさには自信がある。早い者勝ちと言うのなら、さっさと一周回ってこよう。なんなら途中の町で盗みを働いて金を増やすのも有りだ。そう思っていた。
自分なら誰よりも早く十万枚に辿り着けると。
一人は、前の世界では奴隷商だった。
盗賊と一緒に辺境の村を襲って子供を攫い、違法奴隷を売って儲けたこともある。人に取り入ったり騙したりが上手い男は、町で詐欺を働いて元手を増やし、ここでもまた商売をするのも悪くないと思っていた。
奴隷商はとても儲かる。十万枚もなんてこと無いだろうと考えていた。
一人は、元の都市の領主だった。
奴隷商から違法と知りつつ、奴隷を買ったこともある。彼は、金は自らが苦労して稼ぐものではないと思っていた。ちょうど良いことに、この場には見知った顔もいる。あいつらを扱き使って金を稼がせれば良い。
自分は生まれついての上に立つ者なのだから、自分がこの国を手に入れるのは当然だと思っていた。
一人は、領主に仕える兵士だった。
前の世界では数々の魔物を退け、討伐し、英雄とも呼ばれていたほどの男だった。だが、この男は名前通りの英雄ではなかった。根が悪どい男で、人の手柄を横取りすることや、上に取り入り甘い汁を吸うことに長けていた。
腕っぷしには自信があるし、この世界でも上手いことやってやろうと思っていた。さっきから領主がこちらをチラチラと見ていることにも気付いており、最初は従ったふりをして取り入り、いざとなったら力で全て奪ってやろうと考えていた。
一人は、魔法使いの少年だった。
彼は森の中の小さな村で生まれた。ある日、村は盗賊に襲われ、攫われた彼は奴隷商に奴隷にされた。領主に買われた彼は戦闘用の奴隷になるはずだったが、彼に剣の才能は無かった。彼は平時は薬草採取を命じられていたが、戦闘時には囮として兵士に扱き使われていた。
彼は他の四人全てを知っていて恨んでいた。