十八話 商人の町
昨晩は疲れていたけれど、ちゃんとポーションの作成もしたので、旅立つ前にポーション屋に寄って買い取りもしてもらった。大きな街だけあってどこを訪ねればいいのか悩むところだが、宿屋の支配人に良い店を紹介してもらえたので事なきを得た。
なんのことはない、事前にマギがポーションを融通してくれるという情報を持っていたらしい町長により、支配人にもポーション屋にも話が通っていたらしい。ポーション屋には町長からの大口の予約がすでに入っており、店売りの分と併せて良品質ポーション五十本とハイポーション五本も買い取ってもらえた。なんと金貨三十枚の売上げとなる。
「ヴェンデリン様はお見送りができないことを謝っておられました」
店主が代わりに深く頭を下げている。町長はどうしても外せない会議があるとかで見送りに出られないことを大変申し訳なく思っていたと伝えられた。エリアが解放され急ピッチで復興支援などを行わなければいけないのだから、見送りなどよりもそちらを優先してもらった方が良いに決まっている。
「またすぐに顔を出しますから気にしないように伝えて下さい。商業エリアでも権利を買えれば、商人たちも戻ってくると思う。もう少しがんばって下さい」
ポーション屋の店主や笑顔の街の人々に見送られて南門をくぐり、次の目的地、南神殿を目指す。
畑や牧場などの雄大な景色を後にして、草原や小さな林の木立に景色が変わっていく。基本的に狩りは避ける方針で薬草を集めながら進んで行くと、小高い丘の上に建つ神殿が遠くに見えてきた。
緩やかに続く長い長い坂道をひたすら登り、日暮れ前にたどり着いた南神殿の建つ丘の上から、マギたちは日没を仰ぎ見た。斜陽は遠く広がる水平線へと沈んでいく。
『海にゃ! お魚がいっぱいにゃ!』
「これが、海か……!」
この先の商業エリアは海のエリアでもある。初めて海を見たマギも、お魚に目がないルビーもワクワクと期待に胸を膨らませた。
ここでも金貨一枚を寄付して寝床を借りた。南神殿のシスターは気の強そうな年配の女性だったけど贔屓はしない。泊めてくださる感謝の意味を込めての寄付なのだから。決して厳しそうなシスターにびびったからでも、ルビーに冷たい目で見られたからでもない。マギの名誉のために言っておく。
翌日、右手の甲にはハートの紋章が増えていた。これでやっと二つ目。
懸念していた紫の点も、昨日のうちに次の次の町“港町スピカ”まで来ていた。危惧した通りサウザーか、あちらさんの都合によってはスピカで鉢合わせしてしまいそうだ。
門でばったりというのだけは逃げようがないので遠慮したい。今日は夜明け前に出発して、薬草集めも止めにして、できるだけ急いでサウザーにたどり着くように行動する予定だ。
農業エリアでは、かなりたくさんの薬草と上薬草を集めることができたので、マジックバッグの中には在庫のポーションも大量に貯まっている。今は速さを重視したい。それでも一応、分布を調べるために、道すがらマップと鑑定は使いつつ進んで行った。
商業エリアの街道は割合い綺麗に整備されているため歩きやすい。そのかわり街道脇の草むらも少なく、薬草の採取には困難しそうな感じだった。少し道を外れれば普通の薬草なら手に入りそうだけど、今はスピード優先なので予定通り採取は無しでひたすら進んで行く。
そのおかげで日もまだ高いうちにサウザーの南門に着くことができた。紫はもちろんまだ着いていない。スピカの町は立ったようだが、このペースだと閉門時間ギリギリになりそうな進み具合だ。もしかしたら門の手前で野宿を選ぶのかもしれない。今日、明日は動向に注意が必要だが、今のうちは少しだけゆっくりできそうでホッとするマギだった。
サウザーは高い外壁を持つ大きな街だった。
商業エリアは他の外周エリアと比べてどの町も高めだが、ここはその中でも一番高い町だ。紫がたどり着く前に金貨三百枚を払って、さっさと権利を手に入れてしまおう。
門番の兵士に歓迎され、いつものように町一番の宿屋へと案内される道すがらポーション屋の場所も聞いておく。一度宿に入ってから今日は少しだけ街を散策してみるつもりだ。紫の奴もまだ来そうにないし、せっかく明るいうちに到着した大きな街なので、ちょっとくらいはブラブラしてみたかったのだ。
これまた、ちょっと躊躇しそうな高級な宿屋に案内され、支配人に挨拶だけすると、さっそく街に繰り出す。
『ご主人様、どこへ行くにゃ? 隠れてなくていいのかにゃ?』
「危ない奴は、まだ来てないからね。今のうちにポーションを売りに行って、その後は街の中をちょっと見てみよう。ルビーも気になるところがあったら言ってね。でも絶対に俺から離れちゃダメだぞ?」
『わかったにゃ。ルビーはご主人様と一緒にゃ。大丈夫にゃん!』
なんだかルビーも機嫌が良さそうだ。一人と一匹で見知らぬ街の中をワクワクしながら見て回る。目当てのポーション屋は、場所を聞いていたのであっさり見つけられた。
「良品質のポーションを百本にハイポーションを十本買いましょう。しめて金貨六十枚です。まとめて買いますので、ハイポーションを一本おまけに付けていただく、というのはどうでしょう?」
商人の町ではポーション屋も商人らしい取り引きをするようだ。揉み手でニヤニヤとこちらの出方を窺っている。
「うーん、そういうことなら今回はいいや。ご縁が無かったということで。急いで金を必要としている訳ではないからね。他にポーションを必要としている町で売るよ。邪魔したな!」
残念ながらマギだって、ただの甘ちゃんじゃない。あっさり断って店を出てしまった。
『びっくりしたにゃ! ご主人様ハイポーションなんてホイホイあげちゃうと思ってたのにゃ。せっかくいっぱい買ってもらえそうだったのに売らなくて良かったのかにゃ?』
「いいんだよ。ハイポーション一本金貨三枚で売れるんだぞ。おまけにホイッと付けてやるような金額じゃないのはちゃんとわかってる。困ってる村に渡すのとは訳が違うんだ。儲けようとしている奴に簡単にくれてやる筋合いはないよ。
ポーションを必要としている人はたくさんいるはずだ。この辺じゃ薬草の分布もまばらだし、流通が滞っていた今は農業エリアに買い付けにも行けなかっただろう? ハイポーションなんて特に入手困難になってるはずだ。悪い奴なら吹っ掛けても売れるくらいにね。
俺のポーションは誰かを救うために使って欲しい。ほら、俺って甘ちゃんだからさ。怪我をする機会の多い兵士の人や、医者でも見つけたら売ってみるよ。それまではマジックバッグの肥やしにしといても何も問題ない」
『にゃ! ご主人様カッコいいにゃ! それでこそルビーのご主人様にゃ!』
ちょっと格好つけてしまった自覚はあったので、マギはルビーに褒められて気恥ずかしかった。
長話をしながらダラダラ歩いていたので、慌てて追い掛けてきたポーション屋に捕まり、平謝りしてどうしても分けて欲しいとお願いされてしまった。格好つけた後だったのでイマイチ収まりが悪かったのだが、やはりポーションは品薄状態だったらしく切実に困っているようだったので、先ほどの半分の量をおまけ無しで売ってあげた。それでも随分喜ばれて、ひたすらペコペコと頭を下げられてしまった。
ポーション買取 +30枚(良50本、ハイ5本)
権利購入 -300枚
ポーション買取 +30枚(良50本、ハイ5本)
現在の所持金貨 1395枚
町資産 1700枚分




