十七話 モノポリー
農業エリア最後の町“コンサ”の町は、このエリアで一番大きな街だった。街の周りはきちんと外壁で囲まれていて、入り口には立派な門があり、なぜかズラリと警邏の兵士が立っている。マップの情報では金貨二百枚と権利も高めのようだ。
「この町の権利を購入したい、いくらかな?」
一応、兵士に確認してから金貨二百枚を払うと、
「コンサの町へようこそ! マギ様、お待ちしておりました。そしてエリア独占完了です! おめでとうございます!」
兵士の宣言とともに、門の中で待機していたらしい楽団によるファンファーレで迎え入れられた。
「え!? も、モノポリー!?」
居並ぶ兵士たちの圧迫感に物怖じしながら声をかけたところに突然の大音量でのファンファーレ。加えて耳慣れない言葉で賞賛されても全く頭がついていかない。
「はい! マギ様ありがとうございます。マギ様のお力で農業エリアは解放されました。住民はエリア内を自由に行き来できるようになりました」
「この度は農業エリアのご購入ありがとうございました。この町の町長ヴェンデリンと申します。解放間近の知らせがありましたので、お出迎えさせていただきました。住民も皆大変喜んでおります。
モノポリーを達成されましたマギ様は、次回お立ち寄りの際からは町への増資が可能となります。町の発展のため、防備強化のためにも、ぜひともお力添えをよろしくお願いいたします」
兵士に続いて、門の中から現れた町長が挨拶し恭しく礼をする。町長自らが案内役を買って出て、一緒に門をくぐり街に足を踏み入れた。
通り沿いに居並ぶ、たくさんの街の人々の笑顔と拍手で迎えられ、マギはあまりの歓迎ぶりに目を白黒させながらも町長に言われてなんとか手を振り返す。注目の大きさにどこか動きもぎこちなく、怒濤の流れに思考もままならないうちに街で一番の宿屋に通された。
「長旅でお疲れでしょう。まずは疲れをお取りください」
という町長からのありがたい言葉に無言でコクコクと頷き、案内された部屋に落ち着き、やっとほっと一息つくことができた。派手な歓迎が面映ゆくて、旅の疲れよりも疲れた気がする。
当然のようにここにもいた部屋付きのメイドによって用意されたお茶を飲み干すと、思わずそのままベッドに倒れ込んだ。ゴロリと横たわったベッドの上で天井を見上げながら頭を整理するためにルビーと話し合う。
「はあ、モノポリーか……」
『モノポリーってなんにゃ?』
お茶を用意してくれている間に優秀なメイドに教えてもらった話によると、エリアを独占することをモノポリーと言うのだそうだ。モノポリーすると増資ができるとは町長も言っていた。増資をすればした分、町の資産価値も上がるらしい。
増資したお金で防壁を作れたり、施設を増やしたり、小さな町にも市場が立ったりする。そうして村や町が発展していけば治安も良くなり、商人が集まるようになれば経済が回り、併せて人々の暮らしも良くなると良いこと尽くめだ。そりゃあ街の人々も喜ぶというものだ。
「国を一周してもらえる褒美の金や、ポーションを売って稼いだ金で町の価値を上げる。そうすると資産も増えるし、町の人々も喜ぶのか……」
『みんな嬉しそうだったにゃ。ルビーも鼻が高かったにゃ』
フフンと鼻を鳴らすルビーが可愛い。もふもふして癒されながら、思考を続ける。
金貨で持ち歩いていれば、あいつらに奪われる心配もつきまとう。今マギの手持ちは金貨千六百枚以上ある。できるだけ早く現金を権利に変えてしまいたい。
「まずは権利を買い集めることからだよな。増資とか今すぐには考えられないよ」
『ぞーしはしないにゃ?』
マップを確認すると、今のところ他の奴らで町の権利を買った者はまだいないらしい。旅を進めているうちに気が付いたのだが、マギが今まで通ってきた町――権利を買った町――は枠が緑色になっている。権利を買うとこうなるらしい。この先の町には枠が色付いた町はどこもない。
「みんなまだ、この仕組みに気付いていないんだろうな。他の奴らが気付く前に、とにかく買えるだけ買い占めていこう。買えるだけ買ったら、その後に増資だ。できるだけ現金は持ち歩かずに、町資産として資産を増やしていく方が良いだろう」
『……難しいにゃあ。考え過ぎると眠くなるにゃ』
町に泊まれれば安心だし、金貨じゃなければ簡単には奪えない。マギにはまだ、目の前の自分と仲間の安全の方が大切で、町の発展とかまでは考えられなかった。増資に関しても人々の幸せというより、危険回避に使えるという認識が精一杯だった。
直近に迫る懸念がひとつあることも原因なのだろう。西神殿から南下している紫の点が商業エリアをゆっくりと進みながら、だんだん南神殿に近付いてきているのだ。
「なかなか移動しないのが食わせ者だけど、この分だと南神殿の次の町“サウザー”辺りで鉢合わせしてしまいそうだよな。見つからないように気を付けないと」
『ふふん、ご主人様のことはルビーが守るから大丈夫にゃ!』
「いやいや、ルビー。お前も見つかったらダメなんだよ? お前、攫われて連れ去られちゃうかもしれないんだぞ。だから見つからないように気を付けような?」
『にゃあ! ルビーが可愛い過ぎるからにゃ!? ルビーはご主人様とは離れないにゃ。だから気を付けるにゃ!』
よしよしとルビーを撫でていると眠気が襲ってくる。ルビーの言うように考え過ぎたのかも。夕食もお風呂もまだなのに、このままベッドに寝転がっていてはダメだ、寝てしまう。
「よし、がんばろう!」
気合いを入れて起き上がり、眠気を払うためにぐぐっと伸びをする。
「そろそろ、お夕食をお持ちしてもよろしいでしょうか?」
そのタイミングで廊下からノックの音がし、声を掛けられた。やはり優秀な部屋付きメイドはタイミングを見計らうのが上手いようだ。ずっと待機していたんだろうと窺える。
「はい、よろしく」
素っ気ない体を装って返事しながら思うのは、使い魔とのリンクでルビーと喋っていた自分は、端から見れば大きな声で独り言を言っているようにしか見えないだろうなということ。
他に人のいない街道では何も問題なかったから普通にルビーと話すようになってしまっていたけれど、他人からしたら妄想でペットと会話する危ない奴に他ならない。
今後はこれも気を付けようと、肩を落として大きなため息をひとつ吐いた。
権利購入 -200枚
現在の所持金貨 1635枚
町資産 1400枚分




