十四話 神殿の印
東神殿に向かうにあたって一応確認してみるが、赤と青の点は朝のうちに北に向かって旅立っていた。鉢合わせをする心配も無さそうなので、安心して神殿を目指せた。
城エリアの街道は、昼間なら魔物と遭遇する心配もほぼ無い。時々、薬草採取のために草原に足を踏み入れるが、ルビーが気配を察知してくれるので角兎などがいても近付かれる前に牽制できる。
『あの時はお腹ぺこぺこで油断しちゃったのにゃ。兎なんか敵じゃないにゃ!』
何であの時は……? と頭をよぎった思考を読まれて、聞く前に答えられてしまった。ムキになってるルビーも可愛い。ともあれ、劇的にマギの旅の負担は楽になり、暑いほどの日差しの中でも軽快に楽しく進んでいった。
そんな訳で現在、神殿の入り口に立っている。
「勇者様ですね。シスター・セシリアと申します。巡礼の旅、お疲れさまです。本日はゆっくりお休み下さいませ」
可愛いシスターに出迎えられ、思わず顔が緩む。
「もし、ご負担でなければ、善意の寄付をよろしくお願いいたします」
ペコリと頭を下げ、小首をかしげて顔を覗き込まれれば男の子なら誰もがドキドキするだろう。可愛いシスターのお願いに、ついつい金貨一枚を寄付してしまったのも仕方ないと思う。けして歩く度に揺れる豊かな胸部に目を奪われてしまったせいなんかじゃない。
頭の上のルビーには尻尾でパシパシと顔を叩かれてしまったけど。やましいことなんか何もないのに。
シスターに案内されて、豪華ではないけれど綺麗に整えられた部屋に通される。ベッドには清潔なパリッとしたシーツが掛けられているし、湯浴みのできる洗面所も付いている。居心地の良さそうな部屋だった。
夕食も用意してくれるということで、シスターが部屋に運んできてくれた。一人分がプレートに載せられた食事は町で出されたような贅沢なメニューではないけれど、スープにパン、サラダと魚を使った主菜があり、ルビー用のミルクまで付けてくれてあった。
ルビーの目は主菜の魚に釘付けで、もちろんマギはちゃんと分けてあげた。ルビーのあまりの軽さに栄養が足りてないんじゃないかと心配になるほどだったのだ。マギも人のことを言えるほど栄養が足りていた訳でもないのだが。しかし、しっかりした量が用意されていたので、そうして分け合っても十分腹が満たされる食事だった。
食器を下げに来た、あの可愛いシスターにお礼を告げる。
「シスター・セシリア、とても美味しい食事でした。ありがとうございました。ルビーにもミルクを付けてくださって、お心遣い感謝します」
「いえいえ、たいした物を用意できませんでしたが、お口に合ったなら良かったです。猫ちゃん可愛いですね。綺麗な碧い瞳なのに、何でルビーちゃんなんですか? サファイアちゃんって感じなのに」
シスターに言われて、額の毛を持ち上げて宝石を見せると、ハッと息を飲むようにして驚かれる。
「カーバンクルですね……。幸運をもたらすと言われていますが、とても珍しい幻獣です。初めて見ました。しかも、この額の赤い石は身代わりのルビーだと思います。主の命の危機を一度だけ救うという貴重な魔石です」
下がり際、シスターは心配そうに表情を引き締めて警告してくれた。
「欲深い者には狙われるかもしれないので隠した方がいいですよ。幸いおでこの毛を掻き上げなければ見えないようですし。勇者様にそんな無体を働く者がいるとは思いたくありませんが……、気を付けるに越したことはありません」
「忠告ありがとうございます。肝に銘じます」
“特異な力は幸運も災禍ももたらす”と言っていた師匠の言葉が思い出された。
「ルビー、お前のことは絶対守るからな……」
ルビーはキョトンとして、
『じゃあ、ご主人様のことはルビーが守ってあげるにゃ!』
なんて可愛いことを言ってくれてるけど。
マギは怖かった。ルビーを撫でながら、ルビーが狙われたら困るから絶対隠そうと心に決める。あの時、師匠が人に知られてはいけないと言った意味が、今になって、同じ守る側の立場になって、初めて良く理解できる。
人の欲望とは恐ろしいものだ。まして、マギを勇者だなんて認識していないだろうあいつらに見つかったら大変だ。
「ますます野宿なんてできないな……」
マギはさらに気を引き締め直した。お金がなくて町に泊まれないなんてことにならないようにと、少しでも手持ちを増やせるように、洗面所を借りてポーション作りをしてからその日は休んだ。
『なんか変なの描いてあるにゃ?』
翌朝、神殿を出る時にマギの右手の甲に紋章のようなものが浮かんでいることにルビーが気付いた。三つ葉のクローバーのようなマークだ。見送りに出てくれたシスターが教えてくれる。
「巡礼されると神殿の紋章が体に浮かぶのです。四つの神殿の印を集める、勇者様の巡礼の旅が安からんことをお祈りしておりますわ」
「これが、神殿の印……」
確かに大臣は、神殿の印を集めて戻ってこいと言っていたと思い出した。泊まることで印が体に現れるのなら、ずるはできないのだろう。
旅立ちの時に、昨晩も含めいろいろと大切な情報を教えてくれたシスターにお礼の代わりに自作のポーションを一本あげたら、にっこりと微笑んで両手を取って喜んでくれた。
うわあ、可愛い。
女の子に手を握られちゃった。
その笑顔、プライスレス!
またもドキドキさせられて、ルビーには激しく尻尾でたしたしと顔を叩かれちゃったけど。使い魔とのリンクに慣れるに従い、ルビーの気持ちが雄弁に伝わってくるようになっていた。不機嫌なのも。
ルビーの機嫌をとりつつも、一人と一匹は南に向かって歩き出した。赤と青の二人は北へと向かったようだし、マップで見ると北方面よりも南方面の方が比較的町の権利の値段が高いようだった。お金に余裕があるうちに、できるだけ高い町の権利を手に入れておきたいと考えた。
可愛いシスターに鼻の下を伸ばすことがあっても、マギはルビーを守ることを第一に考えて行動している。それがリンクを通して伝わったのか、ルビーの機嫌も直ったようだった。
マップの情報では、東神殿から南は農業エリアらしい。
しばらく街道を進むと遠くにある広大な畑が目に入ってくる。街道脇には草むらがあるので、まだまだ薬草採取も続けていけそうだ。土地が肥えているせいか、ところどころで上薬草も見つけることができている。
目指すは農業エリア最初の村“カポの村”
畑へと変わる風景の中、南へ南へと進んで行く。
寄付 -1枚
現在の所持金貨 2014枚
町資産 1000枚分




