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九十七話 権利売却




 こうして国を一周してくればあっという間だった。この後待ち受けているのはウェスターとエンタの売却だ。もう、ここまで来て逃げ出す訳にもいかない。


 重い足取りだが、覚悟を決めてウェスターの町へ入った。


 門番に立つ兵士の人たちに、明日の朝、出立の時にみんなに話がしたいこと、もしできれば東門前の広場に集まって欲しいと町の人たちに声を掛けてもらうようにお願いした。


 これから自分がやることは見捨てることと同義なのだから、石をぶつけられるくらいは仕方ないと思っている。それでも最後にひと言伝えたかった。




 宿屋に入ると町長のゲオルグがやって来て、その手にはしっかりと権利売却のための書類が用意されていた。ゲオルグとしてはマギにモノポリーから外されることを特に憂いている様子もなく、サクサクと事を運ぼうとしているように見て取れた。


「町の権利を買ってくれるのは別にマギ様じゃなければいけない訳じゃない。他の勇者様に買っていただければいいのです。ウェスターとエンタと王城が行き来できれば、最低限困ることなどありませんからな。まあ、これからこの町を捨てようとしていらっしゃるマギ様には関係のない話。すでに興味もないでしょう。いえ、いいんですよ。こちらも同じ気持ちですからね」


 そう言って差し出された書類にサインすれば、明日からはもう自分の町ではなくなってしまう。ゲオルグはああ言っているけど、マギは残される町の人たちが心配でたまらなかった。かと言って、この町長に後を託してもどうにもならないだろう。アレクシスやアマデウスたちが上手くやってくれるのを信じて、素直に手を引くしかとれる手段はないのだ。


 後ろめたさを感じつつもサインをすると、ゲオルグから金貨の入った袋を渡された。最後になる納金と収入利益。その他にもう一袋ある。


「これは?」


「売却益ですよ。売却時は購入価格の半額になります。この町は金貨五百枚の町ですから、売却益は金貨二百五十枚となります。どうぞお納めください。これでマギ様はハッキリこの町とは無関係です。さあ、どうぞ」


 売却というイベントを重苦しく思い身構えていたマギとは違い、ゲオルグの態度もその手続きもあっさりしたものだった。


 こうして、とうとうウェスターはマギの手を離れモノポリーから孤立した。




 翌朝、旅立ちの前に東門前の広場にはまばらに人が集まっていた。


 睨んでいる者が殆どで、悲しげに見つめている者もいる。そんな人々に向かってマギは大きな声で伝えた。


「昨日、俺はウェスターの権利を手放した。今日からウェスターはモノポリーから外れた町となってしまった。本当ならこんなことはしたくなかった。しかし、ウェスターとエンタの荒れ果てた雰囲気は放っておけないまでになってしまった。今回の措置は厳しいものだと思う。町の人々にはつらい思いをさせてしまうだろう。流通から外れ、ポーションや食べ物、日用品にも困るようになるだろう。どうかみんな、この町から逃げ出して欲しい。今、この国の他のエリアは発展の途をたどっている。故郷に帰りたくなった者、この町を出たくなった者、やり直したい者は東へ来てくれ。アイパレス、イースタルではそういう人たちを助ける支度がある。自分たちで自分たちの未来を決めるんだ。よくわからないままに流されて荒廃していくのはダメだ。自分の足で歩き出してくれ。俺たちも手伝うから。

 東へ行くんだ! アイパレスやイースタル、そして故郷の町で。もう一度やり直そう。どうか、みんなが立ち上がってくれるようにと願う」


 マギの演説が終わっても広場はシーンとしたままだった。ぐるっと見回すが、心に響いているのかはわからない。


 広場の片隅に、いつもポーションを卸していたポーション屋の主人がいた。悔しそうとも、悲しそうともとれる瞳でこちらを見つめていたが、目が合うと逸らされてしまった。


 他のみんなもポツポツと広場を離れて行ってしまう。その背中に向けて、マギはもう一度大きく声を掛けた。


「町は手放してしまったけど、決してみんなを見放した訳じゃない。手伝うから! 勇気を出してくれ! 最後にもう一度言う。やり直したい人は東へ来てくれ! 自分の足で! お願いだ。東の町は受け入れてくれるから。みんな考えて動き出して!」


 とうとう広場には誰もいなくなった。門番の兵士も冷たい目でこちらを見ている。うな垂れるようにしてマギたちはウェスターを後にした。


「何人かだけでもいい。動き出してくれる人がいるといいんだけど……。誰かが動き出してくれれば後に続いてくれる人も出てくると思うんだ。はあ……、どうなるんだろう」


『焦らないにゃ』


『きっと何かが変わります』


『東側の町長さんたちもちゃんとフォローしてくれるわよ。きっと』


『で、ある。主殿は前へ進み続けるのである』


 仲間たちに励まされながら進んだ先のエンタでも同じようにつらい仕事をこなし、一応の旅立ちの演説もしたけど、こちらはほとんど人は集まらなかった。


 それでも、路地裏のどこかでうずくまっている人の一人にでも声が届くようにと、精一杯気持ちを伝えて旅立った。




 こうしてマギの六周目の旅は終わり、王城へと戻ってきた。


 教会ではシスターも子供たちもみんな元気いっぱいで迎えてくれて何も変わったことはなかったようだが、シスター・アンナが言うにはほんの少し嫌な雰囲気が薄まったような気がするとか。


 エンタとウェスターのことで必死になっていたマギは、仲間たちの体調をちゃんと見れていなかったことを反省したが、仲間たちもほんの少しだけ嫌な感じが楽な気がするらしい。


 そんな中、謁見すると、王様と大臣はすこぶる機嫌が悪かった。……のだが、大臣が資産を発表する段で、マギが二つの町を手放したことがわかると、途端に機嫌が良くなった。


「ふはははは! なかなかやるのう。面倒な町はさっさと切り捨てるか。これはこれは楽しい混沌の始まりとなりそうな話題ではないか。まだまだ何が起こるかわからんのう。いやあ、楽しみ、楽しみ」


 そんな言い方をされてマギはもちろん気分が悪かったが、「このままじゃない。必ず良くなる」と信じて謁見を耐えた。


「きっとおかしな雰囲気を直してくれる。みんな、いや誰かがきっと気づいてくれる。動いてくれる。そこから変わるんだ」


 その時に支えとなれるように、これからもまだまだがんばらないといけないとマギは思うのだった。








      納金 +50枚

    収入利益 +200枚

     売却益 +250枚

      納金 +30枚

    収入利益 +60枚

     売却益 +150枚

     褒賞金 +1623枚


 現在の所持金貨 6141枚

     町資産 11720枚分




 ◇◆◇ 六周目リザルト ◇◆◇


   プレイヤー5:マギ(緑)


    購入した町:18


    資産 金貨:6141枚

        町:11720枚分

       合計:17861枚分




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