九十二話 薬草の上手な摘み方
重苦しい計画を前にして足取りまで重くなる。
王城に近付くにつれて調子を崩す仲間たちに紛れてマギまでとぼとぼと歩いていたが、一歩一歩でも前へ進んでいればどうしても目的地に辿り着くものだ。とうとう五周目のゴール、王城の城下町へとやってきたマギたちだった。
いつもの如く、真っ先に町外れの教会を目指す。
遠目に教会が見える頃にはすでに、元気な子供たちの声が聞こえてきた。ぱっと見た感じでもなんだか増えているように思える。どうやら、あれから新入りもまた入ったようだ。
「はあ……、そう言うこと、だよな……」
思わず大きなため息を吐いてしまったマギだが、気持ちを切り替え空元気を出して駆けていった。教会に足を踏み入れる。
「ただいまーっ! シスター・アンナ、ちびたちも元気にしてたか?」
「あらあら、おかえりなさい、マギ」
「兄ちゃんだ! おかえりなさい!」
子供たちもわっと集まって来た。
「ルビーちゃんたちも大変だったわね。さあさあ、お茶を淹れましょう。まずはゆっくり休んで」
「マギ兄ちゃん、僕たちがんばったんだよ!」
「旅の話も聞かせて!」
「うんうん、みんな元気そうだな。いろいろ話も聞きたいけど、先にひとつ仕事を済ませてきちゃうから。それからにしよう。ルビーたちは休んでいて。急いで行ってくるからさ」
使い魔たちをシスターに預け、元気いっぱいな子供たちの輪を抜け出し、そそくさと一人王城へ謁見に向かったマギだったが、言葉通り大して時を置かずに再び教会へと戻ってくる。
ろくに相手にもされない謁見は、事務的にサクサクと進んだのであっという間だった。褒賞金だけは今回もきちんともらえたのでホッとした。この約束だっていつ反故にされてもおかしくないと思っていた方が良い。
城下町でポーション屋に寄ることもなかったので、その分も時間を使わなかった。せめてひと声かけて状況を説明し謝るべきかとも思ったが、顔を出してしまえば絆されて、売らないとは言えなくなってしまう自分がやすやすと想像できた。だからこそ、本当に心苦しかったが素通りしたのだ。
そんな訳で、市場で食べ物やなんかを買い込んで戻ってきた時はまだまだ午後も早く、夕食までにはたっぷり時間があった。
教会の中をそっと覗くと、子供たちはめいめい一生懸命にお手伝いをしている。シスターの手伝いをして掃除していたり、庭の手入れをしていたり、小さい子たちの面倒を見ている子もいる。中にはクリーンで掃除したり、ウォーターで花壇に水を撒いている子の姿も見えた。
自分との約束を守って、きちんと毎日がんばってきたのだろうことが見てとれる。マギはひとつ心を決めて外から大きく声をかけた。
「おーい、みんな、戻ったよ! まだ時間が早いから薬草を採りに門の外に行こうと思うんだけど。薬草の摘み方を教えてあげるから一緒に来る子はいるかい?」
「兄ちゃん、おかえり!」
「薬草採り……」
「門の外に……」
「僕行きたい、けど……」
子供たちの瞳が一瞬で煌めいて、でも、はしゃいだりせずにシスターを見た。子供たちは今、お手伝い中なのだ。その様子にシスター・アンナの笑顔がほころぶ。
「まあまあ、良かったわね。お掃除も片付けも粗方終わっているし、小さい子たちのお世話は私とルビーちゃんたちがいるから大丈夫よ。門の外に出るのだから、気を付けて行ってくるのよ。お願いね、マギ」
「やったー!」
「マギ兄ちゃん、連れてって!」
「一緒に行く!」
シスターからのお許しが出ると途端に、子供たちは飛び上がって喜んでいた。こんなに小さくとも律儀にしていることに微笑ましくなる。
「シスターの言う通り、門の外に出るんだ。街道沿いには魔物が出ることもある。浮かれないでちゃんと俺の言うことを聞かなきゃダメだぞ?」
「はーい!!」
そうしてマギは十数人の子供たちをゾロゾロ連れて、城下町の東門から街道に出た。
「門からあまり離れてはダメだぞ。街壁の近くにだって、じゅうぶん薬草は生えている」
そう言って手近な場所で薬草の特徴を説明して子供たちと一緒に見つけていく。少し離れたところでは門番の兵士さんたちがニヤニヤと微笑ましそうにこちらを見つめていて少し照れるが、しっかり子供たちに教えなくてはと気を引き締める。
「ほら、これが薬草だ。濃い緑にギザギザした葉っぱの形は特徴的だからわかりやすいだろ? ハーブのような青い匂いも強いしね」
一本摘んで見せてそれぞれ触ったり、匂いを嗅いだりさせてみる。
「見て、葉の裏が白っぽいのも特徴なんだ。葉っぱは柔らかくて厚みのあるものが良い。ひとつ見つければ割と近くに群生しているだろ? この辺でも気を付けて見れば意外にたくさん生えているんだよ。だから決して無理して遠くまで行こうとしないこと。約束できるね?」
「はいっ!!」
マギの真剣な物言いに、子供たちも真面目な顔で返事をした。それに安心したマギは、次に薬草の摘み方の説明をする。
「根から全部引っこ抜いたりしちゃダメだよ。根元から二、三枚は葉を残して、その上辺りで手折るんだ。こうすると残した株からまた薬草が増えるからね。葉っぱだけをちぎっちゃうのもダメだ。茎を付けておかないとあっという間に萎れて枯れちゃう。それじゃあじゅうぶんな薬の成分が取れないからね。摘んだ後も葉っぱの部分を強く握ったり潰したりしないように。茎の部分を持って袋に入れる時もそっと重ねていくんだ。ギュウギュウ押し込んだりしちゃダメだよ。柔らかい葉っぱは潰れやすくて力を入れれば手や袋が緑に染まるから。ちゃんとできていないとすぐにわかっちゃうよ」
説明を聞きながらマギの真似をして薬草を摘んでいた子供たちは思わず自分の手を見る。すでに緑に染まっていたらしく、ハッとして慌てているのがかわいらしい。
「最初のうちは仕方ないよ。だけど、薬草の状態で良いポーションができるかどうかが変わってくるから。丁寧に優しく扱えるようになろうね」
みんなが集中しだしてからは、あっという間に時間が経った。一時間もするとそれぞれの袋にいっぱいの薬草が採れた。
「さあ、これ以上欲張ると袋の中の薬草が潰れてしまいそうだからこのくらいにしよう。みんな良くがんばったね!」
すでに袋が緑の汁で汚れてしまっている子もいるが、みんなやり遂げた誇らしげな顔をしていた。
それから教会に戻ったマギは、みんなで集めた薬草でポーションを作って見せることにした。もちろん子供たちにも手伝ってもらった。
クリーンを使えるようになった子には、薬草にクリーンをかけて汚れやゴミを除去してもらう。ウォーターが使えるようになった子には薬鍋に魔法水を作り出してもらった。
火で下から熱しながら、刻んだ薬草を鍋に入れてガラス棒でかき回す。この時にかき回しながら魔力を注入していくのだが、これもできそうな子には手伝ってもらった。うーんと力みながらも少しずつ魔力が混ざっていく。
しばらく根気よく混ぜ続けていると、緑の草汁だった液体が薄い水色に変化した。
「はい、できあがりだよ」
額に汗を光らせて魔力を注いでいた子たちがホッとした顔を見せて、固唾をのんでいた周囲のみんなからは「わあっ」と歓声が上がった。
マギは鍋の中の液体を濾してポーション瓶に瓶詰めしていく。子供たちの初めてのポーションは薄いエメラルドグリーンのような色をしていた。でも、これでも立派なポーションだ。
マギは隣に自分の青いポーションを並べて説明する。
「初めてでもちゃんとポーションが作れたんだよ。みんなすごいぞ! 薬草の状態が良く、魔力もたっぷり注げるようになるとポーションの色はこんな風に青くなり効き目も上がる。みんななら頑張れば、これからどんどん上手くなると思うよ。良くやったな!」
もう一度、みんななら「わあっ!」と歓声が上がった。どの子の笑顔も輝いていた。
褒賞金 +1274枚
現在の所持金貨 3616枚
町資産 10400枚分
◇◆◇ 五周目リザルト ◇◆◇
プレイヤー5:マギ(緑)
購入した町:20
資産 金貨:3616枚
町:10400枚分
合計:14016枚分
次回褒賞予定:1401枚




