一話 プロローグ①
「余がイングランデ王国国王、ヨキアム=イングランデである! 善くぞ集まった! 勇者たる挑戦者たちよ! 苦難を乗り越えて智恵を絞り、己の力でこの国を手に入れるために励むのじゃ!」
絢爛豪華に飾り付けられた謁見の間。
一段高い位置に作られた玉座にどかりと座り、横柄な態度でこちらを睥睨し命令を下しているのは、この国の国王陛下らしい。
数多の宝石が散りばめられ、ピカピカに磨き上げられた金の王冠を頭に載せたでっぷり太った姿。外巻きカールに整えられた金髪に、やはりカールしたカイゼル髭。頬肉に押し潰され、顔のパーツは中央にギュッと集まってしまっている。雪豹の白い毛皮の縁取りの付いた真っ赤なマントにも隠しきれないオークのように肥え太った腹回り。短い足は床まで届かず玉座の前でプラプラと揺れている。
威厳があるのか、無いのか? コミカルなのか醜悪なのか? そんな王様が宣うことには、
「余はもう、こんな小さな国に興味は失せたのじゃ。お主らの中で最も優秀な者にくれてやることにした。素質のある者としてわざわざ呼び寄せたのじゃ。誰がこの国を手に入れるのか、その日まで存分に余を楽しませてもらおう」
王様御乱心!?
とち狂ったとしか思えない狂言染みた話だ。
謁見の間の床に跪くのは五人の男たち。
頭を下げ、表情は見えないが、困惑した雰囲気を醸し出している。馬鹿げた話に付き合わされているとはいえ、今この五人にできることは国王陛下の話に耳をかたむけるだけ。
彼らはつい先ほど、何の説明もなく、自分の意志とも無関係に、いきなり、無理矢理、この場に召喚されたのだから。
◇
ほんの少し前まで、彼らはこの小さな国とは全く関係のない別の国に生きていた。彼らの国は絶望的な危機に瀕していた。
大災害級と呼ばれる凶悪な魔物の襲来を受けて、彼らの住まうその都市は壊滅的な被害を受けていた。町人も商人も逃げる場所さえも無く、兵士も騎士も手も足も出ない。強大な敵を前に、ただ滅ぶ運命に身を任せるしかない。そんな悲嘆に暮れていたはず。
ここでこの魔物を食い止められなければ、数日の内にも国中を蹂躙し尽くされることだろう。英雄と呼ばれる男を筆頭に、都市では最後の戦いが繰り広げられていた真っ只中だったのだ。
そんな戦いの最中にあって、いきなり光に包まれた五人の男たちがいた。
戦っていた者、逃げ惑っていた者、隠れていた者。それぞれの場所で眩い光に包まれた男たちは、抗えない力に吸引されるように、この場に手繰り寄せられた。目の眩む光がだんだんと収まっていき、残されたのは床に描かれた魔方陣から発せられる光のみとなった。その最後の光も消え、周囲の様子を視認できるようになった時、男たちは神官らしき人々に取り囲まれた見知らぬ部屋の床に転がっていた。
ここがどこなのか、何が起きたのか、魔物との戦いはどうなったのか。全てがわからないまま、連行され今に至る。
神官たちから説明されたのは、自分たちは召喚魔法により別の世界から召喚された勇者であると。これから国王陛下より勅命を賜るために謁見する。その場でこれからのことを申し渡されるので、心してお言葉を拝聴せよ。とのことであった。
◇
どうやら自分たちは生き延びたらしい。
あの壊滅的な世界から逃れられたらしい。
しかも、何故か勇者として迎え入れられているようだ。とにかく、国王陛下からのお言葉とやらを聞いてみるしかないらしい。
そうして通された謁見の間で、傅き、耳をかたむけてみても、困惑は深まるばかり。それでも唯一理解できたのは、この中で一番優秀だとなれば、この国を自分の物にできるらしいということ。
顔を上げることは未だ許されていない中でも、男たちはチラチラと他の者に視線を飛ばしていた。
見知った顔も見える。こいつらを蹴落として自分こそがこの国を手に入れてみせようと、ギラギラした欲望を滾らせる。
「大臣! この者たちに詳しい説明を!」
「ハハッ!」
王様の二重に弛んだ顎で指図され、ススッと男たちの前に進み出てきたのは、目つきの険しいカッチリと礼服を着こなした男性。
「面を上げ、ゆるりとするが良い」
王様とは正反対に痩せぎすの神経質そうなのっぽの男性から、これからの説明がされるようだ。
男たちはその言葉に合わせて顔を上げる。鋭い視線に射抜かれ、いったい何をさせられるのかと、息をのみ表情に緊張を滲ませつつも集中して耳をかたむけた。
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