暗殺の依頼受注
墓を作る金も葬儀する金もない春樹は少し盛り上がって湿った地面を見下ろしスコップを穴に突き立てた。
そして『猪川 昴』と書かれた樹皮を穴に乗せると手を合わせてボロボロの服から引きずり出した一番綺麗な服を墓の前に置いた。
「苦労かけて済まない、何がお前を自殺まで追い込んだのかは知らないけどお前の人生ぶんも生きてみようと思う。 お前の形見は売らねぇよ? それは不本意かも知れねぇけどさ、お前も俺の事上から見ててくれよ」
春樹は言いながらポケットをまさぐり透明で綺麗な丸い石を出して見せる。
まだ昼下がりで赤くなった日の光を反射し薄く輝いている石を春樹は再びポケットに押し込んで再び手を合わせる。
30秒ほど続けた春樹は陰った悪い顔色と靄のかかったように霞む瞳で小屋に戻っていく。
戻った春樹が持つのは師に渡された二本の刀、その一方だ。
残りの一本は昴の物である。
正直言ってコレを売ってしまえば金になるのだが・・・
「今日は深夜まで仕事しようかな、他にしたい事もないし」
春樹は呟くと壁にかけられた全身を包むローブを纏い顔が影で殆ど認識できないまで深く被る。
そして1つのタンス、その一番下を開けて入れられたコンパクトの代名詞とも言えるスマートフォンをローブの中についたポケットに入れて小屋を出た。
少し離れた150メートル先の発展した町へ歩を進める。
発展した町の名は白鴎町、首都からは離れているが山が回りを囲う構造から豊富な山の幸で大きく発展している。
しかし3年前に行われた徴兵の影響で金銭的に厳しくなり町で過ごせなくなった人々は町の外にある畑、その持ち主に少額で倉庫などを借り過ごしていた。
ただ春樹や昴のような金のない子供の場合は所有者が亡くなり子孫に渡っても使われず放置されているような場所で生活している。
「よし、誰だっけな~」
春樹は町と外の境目にある壁を見上げながらローブのポケットに手を差し入れてスマートフォンを取り出し15のパスワードを解除してメールのアプリを起動する。
メールで表示された件名はそれぞれ人名になっていて開くと個人情報や町中の監視カメラで撮影し解析された結果から位置情報を割り出し常に表示している。
そのメールを開いては閉じていた春樹は1つのページで指を止める。
「悠真 湧洞か、場所も近いみたいだしコイツにしようかな最初は」
呟いた春樹は腰に差した刀の塚を左手で浅く握り警戒心を全空間に向けた。
そして右手に持ったスマホに表示される湧洞とゆう男の方へ春樹は足を進める。