プロローグ
「はあ・・・今日から新学期かあ」
「なんだよヒロ。初日から溜息ついてよぉ?」
ヒロと呼ばれた俺は溜息を青空に向かって投げながら隣を歩く男に気怠い顔を向けた。
「溜息をつきたくなるさ孝之。いたって普通の平凡な春休みが終わっちまったんだぞ?憂鬱にもなるだろ?」
「いや、せっかくの春休み明けなんだから新たな春にイメチェンを果たした女子を物色しつつ素敵な出会いに胸躍らせたりするだろ普通はよぉ?」
孝之と呼び返した隣を歩く男は、ヒロと呼ばれる俺の自分の想像と異なる回答に呆れたように自分の妄想を披露する。
「あのなあ孝之、悪いことは言わない、そんな冒険心が溢れるあまり羞恥心というブレーキが壊れた女子なんて普通じゃないやめておけよ」
「出ました、ヒロの普通崇拝」
孝之は俺のありがたい忠告を軽口で返してくる。
「普通は最高だろ?普通の申し子『佐藤さん家の孝之君』よ?」
「普通なんて退屈だろ?普通じゃない『刑部さん家の大樹くん』よぉ?つーかヒロ、お前はいい加減全国の佐藤さんに怒られろ!」
そう、俺は刑部大樹で隣のこいつは佐藤孝之という名前だ。
中学からずっと同じクラスという中々の腐れ縁だ。
そして、高校2年となる今日のクラス替え発表次第ではその腐れ縁が5年目に突入するわけだ。
「今年もクラス一緒だと思うか?ヒロ?」
「さあな」
「おいおい、俺以外に友達いないくせにいいのかあヒロ?」
「人を友達もできない変人みたいに言うな」
確かに友達らしい友達はこの孝之ぐらいしかいないのだが、自分から敗北を認めてなるものかと現実から目を背けるように目を瞑りながら反論した。
「大体、俺だっておまえ以外の友達ぐらいいるっつうの」
「おいヒロ!」
どうやら認められない現実に目を背けるように目を瞑って歩いている間に孝之が立ち止まっているのか後ろから声がかかってきた。
「どうした孝之?」
俺は振り返って孝之に尋ねた。
「いやヒロ、前だよ前」
「え?」
孝之に指差された方向に体を向けた俺の目の前に1人の女性が立っていた。
「あなたが刑部大樹ね?」
俺の名前を呼ぶその女性は俺の目の前で腰に手を当てて仁王立ちしていた。そして、目の前に立つ女性は俺が通う高校の制服を着ていた。
「そうだけど」
俺は答えつつ、目の前の女性を観察していた。
整った顔立ち、眼鏡を掛けて、長く風に揺れる髪はポニーテールに結ばれている。
制服のリボンを見ると2年生を現す赤色だった。
(2年生?こんな女子いたっけ?)
自分の記憶にない女子に名前を呼ばれ、俺は怪訝な顔を浮かべていた。
「やっぱりね。7年ぶりでもすぐわかったわ」
「え?」
どうやらこの女子は俺のことを知っているようだ。いや、知らない方が普通じゃないのだが・・・
ただし、
(7年ぶり?何を言ってるんだ?)
俺は目の前の女子の放った7年ぶりという単語に終始疑問の表情を表していた。
「覚えてるでしょ?私よ?藤堂桜よ?」
「え?とうどうさくら?」
藤堂桜と名乗った女子は明らかに俺と面識があるように話しているが、俺には記憶がない。
「なに?大樹?もしかして忘れたの私のこと!?」
「いや、ちょっとっ」
彼女は俺に詰め寄ってきて、俺はその勢いに圧倒されてしまう。
「ねえ!?本当に覚えてないの!?大樹!?」
「え、えっとぉ、はい・・・」
「本当に!?」
「ま、まあ、どうにも」
「こ、このぉ、ば、ば、ばっ」
彼女は身を震わせ、次の瞬間・・・
「この、バカ大樹ぃぃぃぃぃ」
「ほがぁ」
右手一閃。彼女の放った鋭い一撃が俺の左頬を直撃。俺は勢い余って倒れ込んだ。
「ふげっ」
「はあ、はあ、はあ・・・」
俺は頬に走る衝撃と痛みに悶えた後、一撃を見舞ってきた彼女を見返した。
すでに彼女は俺に背を向けて歩き出していた。
「おい、ヒロ大丈夫か!?」
入れ替わりに孝之が俺に駆け寄ってきた。
気づいてみれば、俺の周りは何十人もの生徒達が集まってきていた。
「はは、ははは」
「ヒロ大丈夫か?頭でも打ったか?」
「いや、それは大丈夫だ孝之」
こんなにたくさんの生徒の目に晒されるなんて普通じゃねえよ。
どうにもこうにも・・・
普通の人生を夢見ても幼馴染?が許してくれないらしい。
思いついたままを書き殴っていこうと思うので更新ペースは見当もつかないですけど、よろしくお願いします。